長い夜、蒼い月

狂気の嫉妬

９４

優姫は一目散にジェイクの元に向かっていた。
ジェイクは優姫が、自分のオフィスのプライベートルームに入ってくると抱きしめたい衝動に駆られる。

「ジェイク」

泣きそうな顔の優姫にジェイクは影のある笑みを浮かべる。その顔を見て優姫も全て感じ取った。

「こんな事なら、日本語覚えるべきだった」

ジェイクの辛そうな顔に優姫は何も言えない。
本当は言いたいことはいっぱいある。
自分はどうなってもいいから、マイケルともう会わないで。と。自分だけを愛して欲しいと。

「しばらく会社以外で会えなくなる。でも信じて。俺の愛しているのは」

ドアがノックされてジェイクは言葉を止めた。

 「いいかな？」

金髪に青い目の、見るからに美男子がジェイクの部屋に入ってきた。優姫はマイケルだとすぐ分かった。

「この子は？」

マイケルが値踏みするように優姫を見る。

「はじめまして。アシスタントディーラーの胡桃沢優姫です」

流暢な英語にマイケルは微笑んだ。

「まるで子供だけど、アシスタントディーラーだったのか。よろしくユーキ。マイケル・ヒューイットだ」

マイケルは優姫に右手を差し出す。優姫はマイケルと握手をする。

「ジェイクに手を出したら犯すよ」

優姫の耳元でマイケルは囁く。

「マイケル！」

ついジェイクが優姫とマイケルを引き離した。
その態度にマイケルは笑った。

「ジョークだよ。ジェイクがそんな、ちんくしゃの小娘相手にすると思ってない」

マイケルの目が笑ってない。優姫は恐怖で真っ青になった。

「優姫、仕事に戻りなさい」

ジェイクは優姫を部屋から出した。

「あの子はウブなんだ。冗談でも辞めてくれ。優秀な人材なんだから」

あくまで部下としてしか見てない素振りをした。マイケルは怪しげな顔をする。

「どんな相手でも、あの子が一方的でも、ジェイクに色目を使うのは許さない。ジェイクは僕だけの物だ」

マイケルがジェイクの頬を触る。

「今ここでする？ジェイクに攻められたら、僕声が出てしまうけど。それともホテルに戻る？」

ジェイクが厳しい顔でマイケルの手を退けた。

「いい加減にしてくれ。もうすぐ株式市場が開始になる。いくらお前でも、それぐらいは分かるだろ」

ジェイクが本気で怒っているのがマイケルにも分かってはいる。

「……分かってるよ。ごめんなさい」　　

流石に仕事に厳しいジェイクを怒らせるのはマイケルでも無理だった。

「他を視察してくるから、キスして」

マイケルのおねだりにジェイクはため息をつく。

「ここはオフィスだ。無理だよ。今までだって、一度だってしたことないだろ」

もうジェイクはウンザリだった。今までこんなわがままを言ったことなどないのにとジェイクは思った。

「僕から逃げないでね。今夜ホテルに来なかったら、本気でジェイクも一夜も壊すよ」

冷たい目で言い放ってマイケルは出て行った。ジェイクはため息を吐いた。

「全く」

頭を抱えてジェイクは朝から疲れてしまった。