長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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散りゆく想い

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夕食も風呂も終えて、一夜は由紀子とベッドで愛し合う。
一夜は由紀子を知れば知るほど、全てが欲しくて堪らなくなる。
毎日のように由紀子の手料理を食べ、一緒に出掛けて、こうして愛し合う生活に憧れてしまう。

「由紀子に言わないといけない事があるんだ」

由紀子に腕枕をして見つめ合う。

「なんだか怖いわ。いい話よね?」

一夜が真面目な話をするときは、大抵悲しい話が多くて由紀子はドキドキした。
また別れ話かと色々考えてしまう。

「前に少し話したでしょ。他にもいるって」

一夜の言葉に由紀子は嫌な予感しかない。

「僕は彼女を散々傷つけた。でも僕は由紀子を選んだ」

由紀子は話がよく分からない。自分を選んだとはどう言う意味か。

「彼女は僕がいい加減だから、僕から去って行った。僕に見切りをつけた。格好悪い男でごめんね。由紀子を愛していながら、彼女に捨てられるまでだらだらしていた。許せなかったらちゃんと怒って。由紀子のことだって傷つけていたんだから」

由紀子は首を振った。

「一夜の事責められるわけがない。私は夫がいるのに一夜に愛されて甘えている。辛くて逃げたけど、そんな私を一夜は愛してくれた」

由紀子は一夜を抱きしめた。

「私もはっきりさせないとダメよね。ずるいよね。夫と泥沼になっても別れるわ。私も一夜しか愛せない」

一夜も由紀子を抱きしめた。

「ごめん。由紀子ばかり辛い思いをさせて。本当に離婚してもいいの?僕でいいの?」

由紀子は頷く。

「一夜じゃなきゃ……アンソニーじゃなきゃ嫌なの」

由紀子は言い直して本名を呼ぶ。
ジェイク以外にアンソニーと呼ばれたのはもうだいぶ前だなと、おばあさん以来だと一夜は思った。

「時間がかかるかも知れないけど、待っていてくれる?」

由紀子が不安そうに聞く。

「もちろん。もう由紀子だけだ」

一夜はそう言って由紀子にキスをする。握り合う手の温もりを感じながら、朝まで二人は愛し合った。
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