長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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夜明けの蒼い月

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ホテルでチェックインを済ませると、一夜と由紀子は食事に出かけた。
ホテルのフレンチレストランで、まずはワインで乾杯した。

「一昨日、大学時代からの親友と飲んだって話したでしょ?そのお店がとてもアンソニーが好きそうなバーだったの。次回またそこでしほなと飲む約束をしたから、アンソニーも一緒に行きましょう」

由紀子の言葉に、一夜は頷いた。

「でもその時は、先に由紀子の両親に挨拶させてほしい。もちろんアメリカで僕の両親にも会って欲しい。これは、その約束の証として受け取って。でもこれはエンゲージじゃないから。プロポーズはもう少し待って」

一夜がスーツの上着のポケットから出したのは、由紀子の誕生石のエメラルドの指輪だった。
プロポーズするならアメリカで連れて行きたい場所があった。もちろん由紀子に今は内緒である。
年末年始、由紀子は日本に帰ってこないだろうから、大納会が済んだらすぐに渡米しようと一夜はもうチケットの手配をしていた。
一夜は由紀子の左薬指に指輪をはめる。もちろんピッタリだった。

「いつの間に準備してたの?」

嬉しそうに由紀子は言った。うっとりと自分の左手を見つめる。

「由紀子を愛してるって気がついた時に、本当はクリスマスプレゼントと思っていたんだけど、ちょっと早くなったね」

一夜は照れながら言う。

クリスマスプレゼントと言われて、自分は何も準備していなかったと思い出してしまった。

「ごめんなさい。私、アンソニーに何も準備してなかった。クリスマスも忘れてた」

由紀子は恐縮して言う。

「気にしないで。僕は由紀子が今と変わらず僕を好きでいてくれれば、他に何も要らない」

優しい一夜に由紀子は惚れ直した。好きで好きで堪らない。
ホテルの部屋に入ると、一夜が先にシャワーを浴びに行った。
由紀子はこの夜が永遠の時間になれば良いと思いながらも、現実は時を止められない。
今にも涙が溢れてきそうで、一夜の前で泣かないようにティッシュで涙を拭う。
シャワーを浴びて出てきた一夜は、由紀子のその姿に胸が締め付けられた。

「泣かないって決めてたのに。一生の別れじゃないのに、涙が出てきちゃうの。自分が決めたことなのにごめんなさい」

一夜は愛おし過ぎて、由紀子をぎゅっと抱きしめる。

「泣いたって良いよ。我慢しないで。別れを惜しんでくれてありがとう」

一夜は由紀子の両頬を両手で包むと親指で涙を拭った。
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