したたる愛欲 完全版

五嶋樒榴

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小鳩は綾との面会を望んでいたが、しかし綾は、一度も面会に来る事はなかった。
養父母の話では、綾も小鳩に会いたがってると言ってはくれたが、体調の悪い綾を連れてくることが困難だと言うので、それもとても心配だったが、それでも心は繋がっていると信じていた。
時間はかかってしまったが、やっと綾と再び愛し合える事を希望に、残りの刑期を真面目に過ごした。
そしてやっとこの日を迎えたのだった。
もう直ぐ綾に会える。そう思っていた小鳩の目の前に飛び込んできたのは、たんぽぽの綿毛で遊ぶ小さな男の子だった。

「この子は?」

小鳩は、その子が養父母の手を握ったので尋ねた。
幼子の顔をじっくり見て小鳩はハッとする。
綾の面影があった。綾の子だと直ぐに分かった。

「この子はね、綾の子供なんだよ。綾が妊娠して出産したことを黙っていてごめんよ。かっちゃんに話してはいけない気がしたんだ。やっとかっちゃんに面会に行く日、綾がかっちゃんに会いにいくのを嫌がったものだから」

綾は他の男との間に子を作ってしまった、大きなお腹の姿を小鳩に見せるのが嫌だった。
本能的に、小鳩が悲しむのではないかと思った。
愛した男に会いたくない訳ではない。しかし、綾は小鳩の元に姿を見せることができなかった。
小鳩もなぜ綾が面会に来てくれないのか、体調が悪いと聞かされていたので、面会が難しいのは分かっていたつもりではあったがずっと疑問に思っていた。
その理由が、目の前の幼子を見た事で何となくわかった。

「もう3歳だ。綾が家に帰って来て、数ヶ月後に妊娠していたことを知った。事故の影響で脳に損傷のあった綾は、医者から子供を産めば母体にも影響が出ると言われたんだけど、もう堕ろせる時期を過ぎていてね。そしてこの子を産んで間もなく、綾は亡くなってしまったんだ。この子の父親は結局誰か分からないんだけどね」

悲しみを思い出し養母は涙ながらに語る。

「もっと早くにかっちゃんにも、産後落ち着いたら綾と一緒に会わせたかったが、さすがにここへは連れて来れなかった。だからかっちゃんが帰って来た時にこの子に会わせて、綾が亡くなったこともちゃんと話したかったんだよ」

養父の言葉に小鳩は目の前が真っ暗になった。
出所すれば綾と会えると信じていた。
もう一度綾と再会したかった。
今度こそ、綾と愛し合える。
幸せな家庭を作ろうと願っていた。
だが、綾はもういない。
もう二度と会えない。
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