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第二部 新たな出逢い。そして――。

二十六発目 おっきいのが目の前でポロリ。その時、俺は――。

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 アルチチちゃんが冒険者になって数日後、冒険者証の引き渡しと詳細説明の為に呼び出しを受ける。

 なので当の本人であるアルチチちゃんに、現勇等級のナイチチちゃんが付き添い、保護者である俺の代わりに、ヤミヨさんへ引率をお願いした。

 三人が並ぶ姿はまるで親子のそれ。
 嬉しそうに出張って行く姿を、ほっこりとしながら見送る。

「俺も一緒に行きたかったけど……止むなし」

 残念そうに呟き、同行できなかった元凶に視線を移す。


 それは俺の元に届けられた、怪しさ炸裂の一通の手紙だった――。


 ◇◇◇


 自室に戻り、あらゆる角度から訝しげにそれを見やる――。

「明らかに嫌がらせの類いじゃね?」

 それはそれはご丁寧にも、文字か模様か何かの図柄がびっしりと描かれた、手紙と呼ぶには些か不適切だと思うほどに、めっさ分厚い手紙。


 と言うか、中身たぶん本。
 蔵書かってくらいの分厚さだからな?
 

「差出人は……例の如く変態の御二方か。もうね、大惨事の未来しかねぇよ」

 一年近くも音沙汰がなく、突然、送られてきた手紙……つーか。最早、荷物じゃん、これ。
 何事かと訝しんで当然じゃね?
 中身がちゃんとした手紙とも限らんし。
 仮に手紙云々だとしても、内容の大半は碌なことが書かれてないんだろうな、きっと。

「あかん感じが増し増し。運んでくれた冒険者さんには同情するわ」

 そのまま捨ててやろうかとも思ったが、依頼を受けた冒険者さんが、魔物が蔓延る危険地帯を抜け、態々、俺に届けてくれた手紙……もう荷物で良いか。

 それをそんな風に無碍にすれば、御二方云々よりも、その運んでくれた冒険者さんに申し訳が立たない。

「良し、覚悟完了。いざ! ――はい?」

 意を決して封を切ると――。


 予想の斜め上を遥かに飛び越えていた。


「なにこれ? 封蝋が施された帯で束ねられた阿呆ほどの羊皮紙って……正しく荷物ってかよ――おっと⁉︎」

 束ねられた羊皮紙を取り出した拍子に、大きな石のような物が床にポロリ。落下音もなく静かに床を転がった。

「なんだ? この妖しくも不思議な……宝石? 結晶? エロフかドワルフの尿路結石? 血石? ――否、柔らかい? え? まぢなんなん? グミ?」

 拾い上げてじっくり見る。
 汚物のような色味で、触感も妙に生々しいグニュグニュっとしたそれ。
 これは過去に見たことも聴いたことも触ったことすらない――。


 謎の物体? いや、物体っつーか……何?


 態々、送りつけてきたからには何かあると踏み、さっきまでの疑心暗鬼の心を捨て、慌てて羊皮紙を束ねている帯の封蝋を解いて、至極真っ当に書かれた文章に目を通す――のだが。


 文章違った。怪文書だった。


 阿呆ほどある羊皮紙の約半分は某エロフ著、題名は『隣のトロトロ』だと。
 不思議な森で出会う不思議生物との組んず解れつな大人向け童話――らしい。
 ご丁寧にも手書きの挿絵つき。しかもかなり上手な実に生々しい絵。


 それっぽい場所でそれっぽい生物が居てもさ、やってることは童話でもなんでもなくあれやんね?
 しかも隣で覗いてはぁはぁしてる、あかん女性が主人公ってどうなん? 自分をまんまモデルにすなや!
 

 残り半分は某ドワルフ著、題名は『魁! 漢汁』だと。
 ハード過ぎるゲイ界に生きる、漢と男のなまら半端ない、ぶっちゃけてぶっかける夜のバトル物――らしい。
 これまたご丁寧に気色悪い手書きの挿絵つきで。


 先駆けるなやっ! ぶっちゃけるなやっ! 更にぶっかけるなやっ!
 単語が似てるからって引っ掛けて使うなやっ! 要らんわっ! 粗筋でもうギブギブだっつーにっ!
 大体、夜のバトルで男同士、退っ引きならない汁をぶっかけてるだけの話しだろうがっ!
 ドキュメンタリータッチで描いてるけど、全てが自分の体験談だろうがっ! そんなもん延々と引っ張るなやっ!


 はぁはぁ……そりゃ分厚くなるわ……。
 封蝋で止めとかんと、色々と大惨事必至だわな……くっ、吐きそう……。


「姿が見えんくなっても、存在がここになくっても、どうあっても大惨事を引き起こしたいんだな、あの変態亜人どもは」

 要は全文が最初の予想通りだったってわけだ。

「キズナさんのは……くっ……エゲツなっ⁉︎ だがしかし、果たして。誠に遺憾ながら読み物としてはアリ。割と面白いかも。ほほぅ……こんな……へぇ……。くっ、これは真夜中にでもこっそりと読んでみるかな」

 俺も一応は男だし。未体験だし。正直、興味尽きないってのは本音だし。
 キズナさんは度し難いエロフだけども、黙っていればそこはかとなく超絶美人だし。


 読んでる内に想像が膨らみ、何かも膨らんできた。


「ゲイデさんのは……読む以前に見るに耐えないあっち過ぎるゲイ界――般ピーには無理。そのまま焼却処分が確定だな」


 粗筋で何かが萎えた。縮こまった。
 更に気分も害し、吐き気をもよおした。


「旅先で枯れろ、枯れ尽くしてまえ。そして世のイケメンの為にも捥げろ、捥げてまえ」

 悪意ある呪詛をゲイデさんにだけに向けて吐くついでに、真心を君にと心から呪っておく。

「だがしかし、果たして。こんな超大作を、本当に手の込んだ嫌がらせの為だけに、御二方が、態々、仕上げて送り付けてきやがったのだろうか?」

 俺の脳内では御二方ならあるあると囁き、しかもテラうっざい薄ら笑いのドヤ顔で、妖しく悦って踊り狂ってやがる姿が鮮明に浮かんでいるんだけども。


 それでも腑に落ちないでいた。
 特に――この謎物体。


「くっ……あかん。普段のやんちゃが過ぎる所為で、どうにも先入観に囚われ過ぎだ。実際、フォローのしようがない。だがしかし、果たして。腐って悪臭漂わせようとも上等級。つまり凄腕の冒険者……だと思いたい。きっと俺が知らないだけで、これらにも何か意味があるに違いない……と思いたい」

 怪しさテラMAXな謎の物体を見つめそう呟くと、急いでアー姉の所へと持って向かった――。


 ◇◇◇


 扉に『近親者、関係者、部外者に関わらず、無許可で覗いた時点で即殺す。マジ殺す。なまら殺す』と、わけ解んない物騒な警告文の書かれた、冒険者組合に設けられたアー姉の私室に居る。


 つまり俺はに居る。


「ぷ――って、一人寂しく駄洒落ってるって……テラ哀しくね? ――遅い、遅すぎる。何処まで行ったん?」

 例の手紙と謎物体を手渡したところ、俺を残したまま血相を変えて、部屋から飛び出して行ったのだ。

 なので俺は結構な時間、何をするわけでもなく手持ち無沙汰のまま、ひたすら戻ってくるのを待っていると言った現状が続いている。

「しっかし……アー姉も良い歳した大人だろうに。相変わらず片付けっつーもんができんのな? お嫁に行った日には、お婿さんが苦労するな、うん」

 アー姉の私室は職務室も兼任している。
 なんか難しい本や書類がそこら中に散乱してて、足の踏み場もないくらいに散らかってるのだ。

 おまけに夜食の皿や脱ぎっ放しの下着、更には数々のヤバさテラMAXな、決して見ちゃいかん想像してもいかん類いの趣味の道具だか玩具まで、散らかし放題で放ったらかしってどーなんよ?

 もしも急な来客がみえたら、或いは覗かれたらどーすんの? まぢ洒落になんない大惨事になるだろうが。
 物騒な警告文通りに、可及的速やかに遂行するしかないわな、これ。

 大体、いくら弟でもさ、成人男性である俺をそこに放ったらかすって、何かを画策する確信犯的罠か何かなん?
 チョベリグなお宝だぁ……くんかくんか、えっへっへ……とかな大惨事でも期待してね?


 義理とは言え、姉にそんな姿を見られた日には、手を煩わすことなく甘んじて死を選ぶ。


「――って、片付けてやろうにも、下手に触ると要らぬ誤解を産むだろうしな……ホント、困ったちゃんなこと。しかし……デカい。なまらデカい。たゆんたゆんな姿は受付でも家でも遠慮なく見てるけども……アー姉って意外に着痩せするんだな……」

 そんなわけで、脱ぎ散らかした下着らは存在しない物だと華麗にスルーして、ただじっとソファーに腰掛けて我慢の子。


 偶にチラ見するのは勘弁して下さい。


 長く待たされた所為もあり、うつらうつらとしてきたところで、女性職員さんが居間にやってきて、至急、応接室に来るようにと伝えてくれた。
 勿論、扉の隙間から中を見たのか、絶対零度の冷くも蔑む目だったのは言うまでもなく……あ。


 君、殺されないと良いね。


 普通のあるあるパターンだと、必死に弁解すればするほどドツボコースに嵌る未来がお約束……だけど。

「もしも見てしまったことが露呈すれば、そこの物騒な警告文の通り、確実に――だから。このあとで取る態度に行動、言動にも慎重にね?」

 と、決して脅す意味で諭してあげてるわけでない、純粋に心配して諭す優しい俺に対し――。

「はひぃ、はひぃ……見にゃかった……わらしは……にゃにも見てまひぇん……ううう」

 ガクガクブルブルでイエスガールと成り果て、いけない布地が盛大にこんにちは状態で床にへたり込んで嗚咽を溢す職員さんだったり。

「早く行くと良いよ」「ひゃい⁉︎」

 腰を抜かしてしまったのか、いけない布地を盛大にこんにちはな四つん這いで、必死に床を這いずってこの場を離れる職員さん。

「あちゃ~、脅かす気は本当になかったんだけどなぁ……悪いことしたな」

 HAHAHAと乾いた笑いで適当に誤魔化し、後ろ手でそっと私室の扉を閉じてこの場をあとにした――。


 鍵かけてないけども、そこまでは知らん。


 ――――――――――
 普段は立派なできる受付嬢なアー姉。
 実は私生活ではだらしなさテラMAX、できないひとだった⁉︎ ∑(゚Д゚)
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