何カガ、居ル――。

されど電波おやぢは妄想を騙る

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ミノケモヨダツ、何カガ、訪ル――。

Creepy.17 梦現ニ、知ル――。

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 苔むした岩肌と湿った土に囲まれた、なんとなく薄ら寒く冷んやりとする、白と黒のみの暗く狭い場所。

 そんな何処か現実味のない不可思議な場所で、俺は地面に身を投げ出した格好で寝っ転がって、水滴を顔面で受け止めていた。
 等間隔でピチョン……ピチョン……と滴る水滴の音だけが、何故か不気味に響き渡っていた。

(ちょっと待て。なんだここは? 俺は姉妹の部屋に入って、のこされた日記に目を通していた筈だよな?)

 さっきまでのことを必死に思い起こし、こうなった原因を考えるも……解る筈もなく。
 ともかく起き上がって、湿った地面に胡座を組んで座る。

(今更この程度の不可思議に遭遇したところで、SAN値正気度ピンチまぢピンチと騒いではやらんけども……なんなんだ?)

 首を傾げ肘をついた姿勢で周囲を見渡してみる。
 真っ暗……ではないものの、目を凝らせばやっと薄っすら見える程度の明るさ。
 土とカビの独特の臭いが鼻につき、ジメジメと湿った空気が不快指数に輪をかけて貢献している。
 また薄暗い所為もあるんだろうが、息苦しさを覚える圧迫感が俺を襲い、嫌な気配がそこら中に蔓延しているかのような錯覚も受けた。


 ◇◇◇


「――あ、あれっ⁉︎」

 なんなんだと思案してるのも束の間、不意に気付けば再び姉妹の部屋に居るときた。
 胡座の上に人形を抱かえ、日記に目を通しているそのまんまの姿勢で、だ。

(い、今のは何? 白昼夢とかか?)

 抱かえていた人形をそっと傍に下ろし、胡座を組み直そうと身じろいでふと気付く。

(なん……だと……)

 地面に触れていた部分全てに、まるでうんちを漏らしたかの如く、きっちりと赤茶色い泥染みが広がっていた。
 しかもベタつくほどの生乾き状態で、だ。
 それが意味することはつまり――。


 今さっきまで、ってことになる。


(ちょっとちょっと、あ、あり得なくねっ⁉︎ どう考えてもあり得ねぇだろっ⁉︎ 推定、白昼夢が俺の身に現実に起きるなんて……)

 あまりにも非現実的で信じられない不可思議な現象を体感させられた俺は、ついつい取り乱してしまった。

 その際、傍に退かした人形に目をやると、閉じていた目がまたも開いていた。
 しかも上目遣いでただじっと、俺を見つめていやがるときた。

(十中八九、君の仕業……だろうね、うん)

 そっと抱き上げてやると、人形の目だけが俺を追うように動き、そして――。


 低い位置から見上げる上目遣いのままに、ときた。


 そんなあまりにも不気味かつ悍ましい醜悪な笑みに、全身に鳥肌が立ち嫌な汗が噴き出る。
 だいぶ慣れたとは言え、思わず放り投げそうになるも、そこはなんとか踏み止まった。

「――もしかして……さっきの光景? あの場所に何かあるのか?」

 教科書やノートの山を背凭れに人形をそっと座らせたあと、若干、震える手でごわつく髪を恐る恐る撫でながら、そう問いかけてみる。


 今度はビビる俺に目線を合わせたまま、ウィンクするが如く片目を瞑り、再びニタリと笑いやがるときた。


(くっそ……その仕草がめっさキショいし怖ぇ……。まぁ、歩いたり浮いたりしないだけましか)

 そう思っていると、ゆっくりと目線をノートへと移す人形。
 その直後、勝手にパラパラとノートが捲れだし、直ぐに止まる。

(実際にポルターガイスト騒霊現象が起きてる状況を、この目で直に体感するとはね……霊能者さんもビックリだ)

 オートマタ自動絡繰人形でもないビスクドール西洋人形が、目と口だけの部分的とは言え、実際に動いてる状況に立ち会っているんだからな。
 その度にいちいち驚いていたら俺の身が持たん。
 これはそう言うもんだと無理矢理にでも納得しておくのが、正常な精神を保つ秘訣ってもんだ。
 結局、置かれた状況や環境に、人は勝手に慣れていく逞しい生物なんだから。

「へいへい、解りました。ここを見ろって言うんでしょ」

 なので大して驚きもせず、開かれたページに目を通す。


 そのページに描かれていたものは――。



 ――――――――――
 得体の知れない――
 それは常にに居る――。
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