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第二部 上映中
Scene 24.
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「うわぁっ! ――へ?」
一瞬、身体が跳ねるように仰け反り、叫び声を上げながら急激に目覚めた。
気付けば、また乗り合いバスの中に居た。
乗車時に腰掛けた、一番後ろの座席にまたもや座っている状態で、だ。
「ど、どうされました?」
左隣に座っている会社員も同じ。驚きつつもまた心配そうに声を掛けてくれた。
「だ、大丈夫かのぅ?」
右隣にはやっぱりお婆さん。さっきと同様、俺を気遣って声を掛けてくれた。
さっきと全く同じ展開だったわけで。
状況が全く飲み込めない俺が周囲を見渡せば、バスの車内には結構な人混みの乗客が、やっぱりちゃんと乗っている。
皆が皆、何事かとやっぱり俺を……今度は睨んでくるわけで。
「お、お騒がせしました、ホント、すんません」
とりあえずハンカチは使わない。
袖口で額の汗を拭いながら、乗客に向かって平謝り。
これ以上大騒ぎしても、また同じ展開でかつ迷惑になるだけなので、先ほどと同じように静かにしておく。
(さて。俺は霊園に居た。そして乗り合いバスに戻され、腐った蜜柑とお婆さんに慄いたあと、また乗り合いバスの中。大概にしくされっての……)
それと。さっきは、咄嗟のことに驚いただけで死んでない。
だと言うに、綺麗に状況が巻き戻っている。何だよこれは?
今はどっちの状況なのかを確認する意味でも、膝の上で組んでいた手を崩し、自分の太腿を抓ってみる俺。
やはり今度もちゃんと痛い。
ということは、今の現状もまた現実ってことになり、さっきのも途中までは現実だったとなるわけだが……。
思案を巡らして状況を把握することに努めていた俺は、俯いていた顔をあげ、徐に乗り合いバスの車窓から外を眺める。
出掛けた時となんら変わらない。
やはり今も雨が燦々と降り注いでいた。
「何か心配事かい? 良かったら、お食べ。気分が落ち着くでよ?」
さっきと全く同じ台詞で、蜜柑を差し出してくれたお婆さん。
蛆虫が湧きまくった悍しく腐った蜜柑を見たあとでは、流石に遠慮したい気分だった。
「――すいません、お構いなく」
なのでお婆さんの心の優しさを無碍にすようで申し訳ないんだが、断っておく。
だがしかし。
「遠慮さ要らねぞ? 頬っぺが落ちるほどに甘ぇでよ」
丁重にお断りしたのにも関わらず、和かな笑顔で蜜柑を差し出すと言うか、ガンガン押し付けてくるお婆さん。
差し出された蜜柑は、今度もやはり見事なものだった。
俺はそんなお婆さんの屈託のない笑顔に負けた――。
「――そ、そうですか……で、では」
意味不明に無碍にしても申し訳ないからと自分に言い聞かせ、恐る恐る受け取った。
とても蜜柑とは思えないほどに柔らかく、しっかり瑞々しい皮を、小刻みに震える手で恐る恐る剥いていく。
(勇気を出せ。震えるな、俺。あれは悪夢。そう、ただの虚像だ)
とかなんとか。自分を鼓舞する俺だったり。
今回は甘さではなく、真面であることを切実に期待する。
そんなこんなで俺に剥かれ、暴かれた蜜柑の実は――。
(クソったれ。予想に反してめっさ美味そうじゃねーかよ)
ぷりぷりとして瑞々しく、柑橘系の酸っぱくも甘い香りが俺の嗅覚を刺激するときた。
「――な⁉︎ これは一体⁉︎」
あまりにも驚き過ぎて、ヤバい表情のまま手渡してくれたお婆さんの方へと視線を移すと、実に満足そうに凄い素敵な笑顔で肯いているお婆さんだった。
うん。腐ってはいないな。
「――えっと……戴きます」
食った瞬間に蛆虫が湧くんじゃないかと疑いつつも、瑞々しい蜜柑の誘惑と、お婆さんの早よ食わんかいと言った無言の圧力に屈し、恐る恐る口に運んだ。
そんな生優しいもんじゃなかった――。
お婆さんの言う通り、本気で凄く美味い蜜柑だった。
こんな甘い蜜柑は生まれて初めて食べたと思うほどに……まぢで美味かった。
ちっがーうっ! 注視すべき点はそこじゃーない、そこじゃーないんだって、俺! 蜜柑の話は今はどうでも良いんだって!
流石の俺も意味が全く解らず、混乱が混乱を呼び、疑問に疑問が重なってこんがらがってきた。
本当にただ神経質になり過ぎて、白昼夢何ぞを見てるってだけなのか俺は?
膝の上で蜜柑を持っている手を、もう一度、思いっきり抓ってみる。やはり今度もちゃんと痛くない?
――え? 痛くない……だと……⁉︎
悪夢の輪廻に再び囚われているのを前提に、警戒心を一気に引き上げた。
その時、終点の霊園へと乗り合いバスが到着したことを告げる、手荷物などをお忘れなく云々な、お決まりの車内放送が流れる。
ふと気づけば――車内に誰も残っては居ない。
猛ダッシュで降りたと言う阿呆な考えは捨てて、手に持つジャンプ傘を構えて、乗り合いバスの乗降口へと向かう。
「――くそ、意味が全く解らねぇ」
降りる際にチラリと運転手を見るも、乗客同様、既に存在していない。
何事もなくバスから降りれた俺は、目を見開き、茫然自失となった。
終点の霊園ではなかったからだ。
何故か乗り合いバスに乗った公園前のバス停に、再び戻って来ていたからだった――。
――――――――――
気になる続きはCM広告のあと直ぐっ!
チャンネルはそのままっ!(笑)
一瞬、身体が跳ねるように仰け反り、叫び声を上げながら急激に目覚めた。
気付けば、また乗り合いバスの中に居た。
乗車時に腰掛けた、一番後ろの座席にまたもや座っている状態で、だ。
「ど、どうされました?」
左隣に座っている会社員も同じ。驚きつつもまた心配そうに声を掛けてくれた。
「だ、大丈夫かのぅ?」
右隣にはやっぱりお婆さん。さっきと同様、俺を気遣って声を掛けてくれた。
さっきと全く同じ展開だったわけで。
状況が全く飲み込めない俺が周囲を見渡せば、バスの車内には結構な人混みの乗客が、やっぱりちゃんと乗っている。
皆が皆、何事かとやっぱり俺を……今度は睨んでくるわけで。
「お、お騒がせしました、ホント、すんません」
とりあえずハンカチは使わない。
袖口で額の汗を拭いながら、乗客に向かって平謝り。
これ以上大騒ぎしても、また同じ展開でかつ迷惑になるだけなので、先ほどと同じように静かにしておく。
(さて。俺は霊園に居た。そして乗り合いバスに戻され、腐った蜜柑とお婆さんに慄いたあと、また乗り合いバスの中。大概にしくされっての……)
それと。さっきは、咄嗟のことに驚いただけで死んでない。
だと言うに、綺麗に状況が巻き戻っている。何だよこれは?
今はどっちの状況なのかを確認する意味でも、膝の上で組んでいた手を崩し、自分の太腿を抓ってみる俺。
やはり今度もちゃんと痛い。
ということは、今の現状もまた現実ってことになり、さっきのも途中までは現実だったとなるわけだが……。
思案を巡らして状況を把握することに努めていた俺は、俯いていた顔をあげ、徐に乗り合いバスの車窓から外を眺める。
出掛けた時となんら変わらない。
やはり今も雨が燦々と降り注いでいた。
「何か心配事かい? 良かったら、お食べ。気分が落ち着くでよ?」
さっきと全く同じ台詞で、蜜柑を差し出してくれたお婆さん。
蛆虫が湧きまくった悍しく腐った蜜柑を見たあとでは、流石に遠慮したい気分だった。
「――すいません、お構いなく」
なのでお婆さんの心の優しさを無碍にすようで申し訳ないんだが、断っておく。
だがしかし。
「遠慮さ要らねぞ? 頬っぺが落ちるほどに甘ぇでよ」
丁重にお断りしたのにも関わらず、和かな笑顔で蜜柑を差し出すと言うか、ガンガン押し付けてくるお婆さん。
差し出された蜜柑は、今度もやはり見事なものだった。
俺はそんなお婆さんの屈託のない笑顔に負けた――。
「――そ、そうですか……で、では」
意味不明に無碍にしても申し訳ないからと自分に言い聞かせ、恐る恐る受け取った。
とても蜜柑とは思えないほどに柔らかく、しっかり瑞々しい皮を、小刻みに震える手で恐る恐る剥いていく。
(勇気を出せ。震えるな、俺。あれは悪夢。そう、ただの虚像だ)
とかなんとか。自分を鼓舞する俺だったり。
今回は甘さではなく、真面であることを切実に期待する。
そんなこんなで俺に剥かれ、暴かれた蜜柑の実は――。
(クソったれ。予想に反してめっさ美味そうじゃねーかよ)
ぷりぷりとして瑞々しく、柑橘系の酸っぱくも甘い香りが俺の嗅覚を刺激するときた。
「――な⁉︎ これは一体⁉︎」
あまりにも驚き過ぎて、ヤバい表情のまま手渡してくれたお婆さんの方へと視線を移すと、実に満足そうに凄い素敵な笑顔で肯いているお婆さんだった。
うん。腐ってはいないな。
「――えっと……戴きます」
食った瞬間に蛆虫が湧くんじゃないかと疑いつつも、瑞々しい蜜柑の誘惑と、お婆さんの早よ食わんかいと言った無言の圧力に屈し、恐る恐る口に運んだ。
そんな生優しいもんじゃなかった――。
お婆さんの言う通り、本気で凄く美味い蜜柑だった。
こんな甘い蜜柑は生まれて初めて食べたと思うほどに……まぢで美味かった。
ちっがーうっ! 注視すべき点はそこじゃーない、そこじゃーないんだって、俺! 蜜柑の話は今はどうでも良いんだって!
流石の俺も意味が全く解らず、混乱が混乱を呼び、疑問に疑問が重なってこんがらがってきた。
本当にただ神経質になり過ぎて、白昼夢何ぞを見てるってだけなのか俺は?
膝の上で蜜柑を持っている手を、もう一度、思いっきり抓ってみる。やはり今度もちゃんと痛くない?
――え? 痛くない……だと……⁉︎
悪夢の輪廻に再び囚われているのを前提に、警戒心を一気に引き上げた。
その時、終点の霊園へと乗り合いバスが到着したことを告げる、手荷物などをお忘れなく云々な、お決まりの車内放送が流れる。
ふと気づけば――車内に誰も残っては居ない。
猛ダッシュで降りたと言う阿呆な考えは捨てて、手に持つジャンプ傘を構えて、乗り合いバスの乗降口へと向かう。
「――くそ、意味が全く解らねぇ」
降りる際にチラリと運転手を見るも、乗客同様、既に存在していない。
何事もなくバスから降りれた俺は、目を見開き、茫然自失となった。
終点の霊園ではなかったからだ。
何故か乗り合いバスに乗った公園前のバス停に、再び戻って来ていたからだった――。
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気になる続きはCM広告のあと直ぐっ!
チャンネルはそのままっ!(笑)
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