僕と幼馴染と死神と――この世に未練を残す者、そして救われない者。

されど電波おやぢは妄想を騙る

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File.01 悲劇は幾度も繰り返される。

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 頬を撫でる少し冷たい微風そよかぜが心地良い、とても気持ちの良い天気。

 今は平日の昼下がり。
 学生さんならこの時間は学校に行って、勉学に励んでいる時間帯。

 何もかもが嫌になって絶望していた僕は、公園のベンチに凭れ掛かって、そんな清々しいほどの空を見上げて呆けていた――。


 所謂、サボりってヤツだね……。


「異世界転生とか俺Tueeeとか……創作の世界にいる主人公は、なんでもご都合主義で乗り越えていくんだから……」

 頬杖をついて見上げている僕は、普段から読んでいるラノベの世界を羨んでいた。

「大勢の人は同じ毎日の繰り返し。惰性で生きて最期は死ぬだけ――本当につまらない……」

 雲ひとつない青空を扇ぎ見て愚痴を吐くそんな僕の居る公園には、満面の笑みを携え楽しそうに遊んでいる幼児らとその母親が居た。

 ペットを伴ったご年配夫婦らも、とても幸せそうな笑顔を振りまいて、すぐ横の通りを歩いている。

 何がそんなに楽しいのか、通りに居座りニコニコしてイチャついているバカップルまで居る。

「ふぅ――あんな風に笑えるなんて、ね。何がそんなに楽しいんだか」

 溜息を吐き、再び青空に視線を戻し仰ぎ見る。

 大空を飛ぶ旅客機が、長い飛行機雲を引き摺ってゆっくりと進んでいた。

 徐に掌を広げて突き出し、小さく見える旅客機を掴む仕草で――、


「僕は一体なんの為に、生まれてきたんだろう……」


 ――そんな言葉を呟いた。


 僕は都内の公立高校に通う、何処にでも居る真面目でもなければ不良でもない、極普通の平凡な学生。
 イケメンでもなければ、御曹司でもない。
 運動能力も偏差値も平均値で非凡な才能もない。
 特にこれと言って秀でて優れている点は何一つ皆無な男。


 ついさっきまでは、だけど。


 とあることが切っ掛けで、何をしてもつまらない消極的な考えしか浮かばなくなった僕は、小さい時に良く遊んでいた楽しい思い出が詰まった公園に訪れ、ただ惰性で流れゆく無駄な時間を過ごしていた。

「ラノベの主人公のように、か……」

 そんな自分の馬鹿な考えを嘲るように、深い溜息を吐き頬杖をつく。

「僕の選択肢は結局……ひとつだけ――なんだよな」

 青く広い空を見上げ、遠ざかる旅客機を掴もうとしながら、酷く哀しく笑っていた――。


 その時だった――。


 キキキーッ! 

「危ない――!!」「きゃあ!」

 突然、急ブレーキの音と女性の悲痛な叫び声、更に子供の悲鳴が同時に聴こえた。


 悲鳴の理由。


 公園で遊んでいた親子。
 その子供の方が、突然、道路に飛び出したのだった。

 子供の視線の先には道路を挟んだ向こうに居る、老夫婦が連れている可愛いらしいペット。

 道路のど真ん中に居る子供に気付き、慌てて急ブレーキを掛けた大型貨物トラック。

 飛び出している子供を必死に追う親と、その様子を手を覆ったり目を見開いたりして見ている老夫婦とペットにバカップル。


 良くある事故――親の不注意で道路に飛び出た子供が、迫る大型貨物トラックにはねられる悲劇。

 そんな誰も見たくはないであろう悲劇の瞬間――大惨事の決定的瞬間が訪れる。




 ――、だけど。



“ これからこの公園で、本来死ぬことない魂が失われてしまう事故が発生します。――まずは元々からお持ちの覚醒した加護の有用性をお試し下さい。 ”


 ついさっき僕に知らされたその言葉が頭を過ぎる――。


「はぁ――まさかとはね」

 溜息を吐くと同時に指をパチンと弾く。


 その瞬間――。


 鮮やかに色づく風景が一転し、血のように真っ赤な色だけを残した、白と黒のモノクロームの世界へと変貌し、画像を切り取ったかの如くのそのままの状態で静止した。


「よっこいしょ」

 そして色を失い静止した白黒の世界の中に居る僕は、ベンチから重い腰を上げた。

 公園の中を何食わぬ顔でスタスタと歩いて横切り、道路に飛び出した子供の元へと向かう。

「悲劇なんて――もう見たくない」

 米俵を担ぐように子供をヒョイと抱きかかえ、必死の形相で飛び出そうとしているお母さんの目の前へと届けてあげた。

「君が居なくなると……残された人は悲しみに暮れるどころでは済まないんだよ?」

 そう呟きながら公園をスタスタと歩いてベンチに戻ると、また項垂れるように腰掛けて指をパチンと弾いた。


 その瞬間――世界に色が戻る。


 キキキーッ! キーッ!

「きゃ――あれ⁉︎」「――ママ⁉︎」
「「――え⁉︎」」」「――ワン?」


 何もない道路で、急ブレーキを掛けて止まる大型貨物トラック。
 運転席で唖然としている運転手。
 公園内で抱き合うように打つかり、顔を見合わせて驚く親子。
 目を見開き、おかっなびっくりなご様子の老夫婦とそのペット。
 互いに抱きつき安堵しているバカップル。


 僕を除くその場に居合せた全員が全員、何が起きたのか全く理解できていない様子で慌てふためくのだった。


「悲しい思いをするのは僕だけでいい――」

 僕は再びベンチで頬杖をつき、秋晴れの青い空を静かに仰ぎ見るのだった――。



 ◇◇◇



咲美さきみ君、咲美君ってば⁉︎ ちょっと、聴こえてる? 生きてるんなら返事しなさいよ!」

 僕を揺すって呼び掛けている誰かが居る?

「咲美君ってば! こんな所で寝てたら大変だよ!」

 僕の頬を軽く叩き、しつこく呼びかけてくる誰かが居る?


 聞き覚えのある声がする?


 薄っらと目蓋を開けると、覆い被さるように僕を揺さぶり呼び掛けている誰かへと視線を送った――。





 誰も居ない――。





「――居る筈もないか」

 気付けば暖かく照らしてくれていた日差しが、夕暮れの赤い日差しとなっていた。

 直ぐ側にある大きな木へと注がれ、延びた影がベンチで転た寝する僕を覆っていただけだった――。

「幻聴に幻覚……いよいよ僕も駄目かな」

 再び空を見上げる僕は、既に夕焼け色に染まる大空の中に、たったひとつだけ眩しく輝いて浮かぶ灯りを注視する。

「あの時……この力があったなら――」

 一際、綺麗に輝いている灯りを頬杖をついて仰ぎ見ていた僕は、届く筈のないそれを掴もうと静かに手を伸ばした――。



「君を……失わずに済んだのに――」



 僕の両目から大粒の雫が頬を伝って零れ落ち、地面に吸い込まれていった――。



 ――――――――――
 誰が為に僕はゆく?
 それは僕のみぞ知る――。
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