僕と幼馴染と死神と――この世に未練を残す者、そして救われない者。

されど電波おやぢは妄想を騙る

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File.07 拭いきれない違和感【前編】

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 授業と授業の合間の休憩時間を利用して、校内の案内と言う無駄なミッションを、渋々、熟す僕。

 凛音は姿が変わろうと元はこの学校の生徒なんだから、勝手知ったるなんとやら。
 ぶっちゃけ案内する意味なんてない。

 だがしかし、とことん乗り気な凛音は僕の腕をガッチリ掴んで引っ付き虫と化し、連行するように引っ張り回すときた。

 そしてすれ違う生徒らの殺意を掻い潜り、色んな場所を巡らされた僕は、校内の至るところで霊が徘徊してるのを目撃しては、その都度げんなりとさせられていた――。


 色んな意味で緊張の連続だったよ、うん。


 昼休みに入って直ぐに凛音を振り切り、男子トイレに駆け込んで逃げた僕。

 いじめられっ子の定番、便所飯ってわけではなく、ずっとトイレに行かせてもらえず我慢の限界だった為だ。


 だがしかし――。


『ご機嫌好う』

 開放感たっぷりで気分良く用を足し始めた僕の背後から、例のオネェで男前な野太い声が唐突に聴こえてくるわけでして……。

 何故か僕の背後から覆い被さって身を乗り出し、ある一点をじーっと覗き込む不穏当な態度の死神さん。

「ちょっとちょっと、死神さん⁉︎ 現れる時と場合と場所を考えて下さいって!」

 僕は至福の一時を邪魔されて、慌てて文句を言った。

『――隣、宜しくて? これは中々に……』

 死神の大鎌を抱き込んで僕の隣に移動すると腰の位置まで頭を下げて、飛沫が掛かっちゃうくらいの凄い間近でやっぱりじーっと覗き込んでくるわけで……。


 なんだろう。
 ものっそい身の危険を感じるのは――単に気の所為だろうか?


「ガチで見んな!」

 憤慨するも我慢の限界だった為に、決壊したダムの如く流れ出るのは止められない!

『――私が間近で拝見していると言うのに萎縮なさることもなく、こんなにも猛々しく勢い良く……素晴らしい……貴方様はとても豪気な方に御座いましたのね……』

 白骨ゆーのに何故か恍惚の表情に見えるほどのウットリした物言いで、求めてない感想を述べる死神さん。


 豪気? 何それ? 冗談じゃないって! 
 だからやめて!
 もうじっと見るのは勘弁してって!


「オネェでビッチかよ⁉︎ 単に案内する間、トイレにも行かしてもらえなくて、ずっと我慢してたから止まらないだけだ!」

 憤慨するも、僕の蛇口は一向に止まらなかった――。


 そんな妙なやり取りのあと――。


「一体、何しに現れたんだよ!」

 洗面台で手を洗いながら憤慨する僕。

 ちなみに洗面台備え付けの鏡に写っているのは僕一人。
 肉眼では背後で揺蕩っている姿が視えるのに、鏡を通すと全く視えない死神さん。


 色んな意味で、なんともケッタイな高次存在ですね……。


『とても良い物を間近で拝見させて頂きました……ご馳走様に御座います。――実はを伺いに参りました』

 しれっと何を言い出すのやら、このオネェビッチは。

「そうだ! 様子見で思いだしたけど、担任の背後に良くなさげな霊が二人視えたんだけど? あれ、なんとかできないの?」

『――良くない霊……に御座いますか?』

 顎骨に骨の人差し指を当てて、怪訝そうに首を傾げる。

「うん、この眼が急に痛いと言うか熱くなってさ。それって良くない者だと知らせる兆候だよね?」

 僕の銀色の眼を指差して伝える。

『その通りに御座います。――それで、どんな様子に御座いました?』

 姿勢はそのままに、反対側に首を傾げる。

「なんか女性二人が果敢にキャットファイトを繰り広げてた」

 シャドウボクシングの真似を披露し、こんな感じだったと伝えた。

『――それですと……まだ猶予は御座いますね。――本当に良くない者を直視なさった場合、私のように禍々しい姿で映りますゆえ』

 骨の手をポンっと打ち、骨の人差し指を立ててチッチ。

「そ、そうなんだ……」

 慌てていないところを察するに、言う通りなんだろうな。

『まだ対処方法をレクチャーしておりませんので、今回は私の方で処理しておきましょう』

「宜しく。――で、凛音だけど……盛りに盛りすぎでビックリだよ」

『ご本人の切なる希望に沿うよう、できるだけ叶えさせて頂きました。――』

「ただ?」

『――いえ。そろそろお暇致します――また後ほど……フフフ』

 僕に傅いたあと、幽霊が消えるように静かに居なくなった。

「ちょっとちょっと……って、速攻かよ⁉︎ 意味深に消えるの何⁉︎」

 もうなんの気配も残っていない男子トイレで悪態を吐く――?


 そう、誰も居ない……人は。


「――うひっ⁉︎」

 さっき用を足していた便器から、血色の悪い手がニョキっと生えて蠢いていた。


 ◇◇◇


 男子トイレからげんなりして出ると、素早く僕の腕を拘束する凛音。

 突き刺さる生徒らの視線を掻い潜り、中庭に強制連行されていく僕。

 整った芝生の所までやってくると、徐に座り込んで持ってきた包みを広げた凛音。

「ね、ね、咲美君! 私、お弁当作ってきたんだよ!」

「――凛音も時と場合と場所を弁えて行動して下さる?」

「――え? 私も? 誰か他にも?」

「あ、いや……死神さんがトイレに現れてさ、僕に嫌がらせしていったんだよ……」

「死神さん? えっと……咲美君……熱とかない?」

 不思議そうに首を傾げて僕を見る凛音。

「――は? なんで?」

「そんな眉唾な存在なんてじゃん?」

「――え?」

 これはどう言うこと?
 死神さんの存在を否定する……だと?

「私を怖がらそうたって駄目だよ? 早くご飯にしよう。はい、あ~ん」

「えっと……あ~ん?」

 昨晩の凛音と死神さんのやり取り自体が――すっぽりと抜けてる?

……あ~んは常識よ?」

「――へ?」

 今日、転校してきたばかりでかつその姿では初顔合わせだと言うのに、既に恋人同士になってるって、何?



 なんだ?
 このとてつもない違和感は――。



 ――――――――――
 誰が為に僕はゆく?
 それは僕のみぞ知る――。
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