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第二二幕。

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 試練や勇者の事にやたらと詳しい武具屋の店主に、散々、有難いお説教をされまくった私は、半ば意気消沈気味に店を後にした。
 そして、宿屋に帰る道すがら、あれこれと色々と考えてみたのだった――。

 店主が言うには、私は歴代の勇者の中でも最強の者だと言う。
 私自身は、そんな大袈裟なと思ったりしていた。
 大体、自分の事は全く解らない記憶喪失な私。
 あまつさえ、胸と腹に大穴を開けて生きてるか死んでいるかすらも定かでは無く、当然、正しい答えは解らない。
 言い方が嫌だが、遺体に憑依している風にも見える珍妙な勇者は、過去に前例は無いだろうに……。
 まぁ、この事は店主に伝えていないので、当然、知る由も無いから、そんな風に言えるんだとは思うけども……。

 この世界の女神に仕える、ご高齢な女性神官にしてもそうだ。
 誰が神の御使みつかいだって言うんだ?
 立派な女神像をこしらえてもらい、崇め奉られている神に等しい存在の超越者に召喚され、この世界にいざなわれた私なのだから、ある意味では御使みつかいで合ってはいるんだが……。

 あの調子では、勇者の叡智をこの身に宿す秘術とやらは、一体、いつ施してくれる事になるのやら――。

「なぁ、紅。私ってただのだよな? 奇怪な身体はしてるけども……どう思う?」

 私の腕を取って隣を優雅に歩く紅に、愚痴っぽく少々尋ねた。

「主人よ、そう気にするな。主人は主人に違いないのでの? 例えそれが遺体に取り憑き宿る魂だとしても、儂と今こうしておるのは、紛う事無き主人その人だろうに? 竜玉で繋がってもおるし、ただの人とは言い難いがな?」

 上目遣いに見て元気付けてくれる紅。
 人から竜巫女と崇められ、優雅で気品のある絶世の美女たる紅が、この世界に来て間も無い私を、妻として支えてくれている。
 私にしても一目惚れに近く、好ましくて愛おしい。

 阿鼻叫喚な地獄絵図な場所にいきなり放り込まれた時は、混乱と恐怖、恨み事しか持ち得てい無かった。
 紅に勇気を出して意思疎通を試みて、本当に良かったと思う。
 目眩く熱い夜迄も一緒に過ごせたのだから、人生、捨てたものでは無いなと思いたい――。

 感慨に耽って歩いていると、血相を変えた幼い子が、必死に走り寄ってくる。
 拙い足取りもお構い無しに大慌てで走っていた所為で、途中で足がもつれて前の減りに素っ転んだ!

「マズい――!」「――あ、主人⁉︎」

 目にした瞬間、咄嗟に身体が反応して地面を蹴り抜いた!

 幼い子の元に辿り着くには、凡そ、ひと蹴り程度では届かない距離。
 だが、瞬間移動と見間違える程の跳躍速度で移動した私はそれを可能とした!
 地面に打つかる直前に何とか間に合い、掬い上げる様に素早く受け止め、砂埃を上げて地滑りする足を踏ん張ってようやく止まった!

「――どうした! 危ないだろ!」

 抱き留めている幼い子は紛れも無く、この村に到着して早々、宿屋に案内してくれた幼い子に間違い無かった。
 泣きじゃくってはいるが、パッと見は怪我も無かった。

「――お、お兄ぢゃん! たぢゅっ、たぢゅ……たぢゅげでー!」

 泣きじゃくりながら、必死に懇願する様に縋りついて来た!

「――落ち着いてお兄ちゃんに教えてくれないか?」

 尋常じゃ無い様子で泣きじゃくる、幼い子をしっかり抱き留めて、そっと頭を撫でながら、焦る気持ちを抑え優しく尋ねた。

「ぐす……あにょね……ぐるちいっで……ゆっでるの……おにゃか! はやぐー!」

 舌足らずな上に濁点混じりの涙声だが、一生懸命に説明しながら私の手を引き、何かが起きた広場へと必死に引っ張る!

「――緊急事態らしい! 紅、急ぐぞ!」

「解っておる!」

 幼い子をお姫様抱っこで抱え、脱兎だっとの如く駆け出した私。
 やはり自分でも驚く程の速度で走っていた。
 付き従う紅しても、私の尋常で無い速度に平然とついて来る。

 あっという間に到着した広場を見て、私は愕然とした!
 一人所では無く数人の子供達が嗚咽や呻き声を上げて倒れていたのだ!



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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