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第二五幕。

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 広場の子供達がこぞって呪いに蝕まれていた謎の事件。
 運良く私の右手の意味不明な癒しの力によって、惨事を免れ事なきを得た。
 宿屋に運び込まれた件の子供達の容体も安定しており、可愛いらしい寝顔を携えて静かに眠っていた。

 宿屋の別室に集まった住人達に色々と話を聴くも、これと言った有力な手掛かりも得られず、時間だけが無駄に過ぎていく。

 協議の結果、数人ずつの交代で寝ずの番の見張りを担ってくれる事になった。
 村の腕自慢が志願してくれたのだった。

 更に何かあったら直ぐ対応出来る様にと、ご年配の女性神官を始め、数人の部下たる信者さんと村の女性等が、手分けして看護に当たってくれる事となった。

 そこ迄を決めた後、話し合いは終了し解散となる。

 宿屋での話し合いの後、私と紅にしても自室で待機する運びとなり、今は部屋の窓から夜風に当たって、広場にある大きな木をぼんやりと眺めていたのだった――。

「紅、あの呪いの出所って……魔王が関わっているのだろうな」

「――あの手の呪いは腐る程に在る故、そうも言い切れぬ。子等が知らず知らずの内に、何か良くない物に接触していた線も捨てきれぬでの?」

「そうか――何にせよ、原因くらいは突き止めた方が無難だな……」

 そう紅に返答した直後だった。

 何処からともなく、窓の外から私目掛けて一本の矢が撃ち込まれた!

 不思議な事に、放たれた矢の動きが私にはゆっくりと飛んで来る様に何故か見えていた。

「何だ? ――よっと」

 ゆっくりと迫る矢が目の前に届いた頃、左手で難なく掴んだ私。
 その瞬間、元の体感速度にいきなり戻る!
 掴んでいる矢が、勢い良く飛んで来ていた事を証明するかの様に、私の左手の中で矢尻が大きく振れていたのだ!

「あ、主人よ⁉︎ 放たれた矢を掴めるとは何事か⁉︎」

 目にした状況に焦った裏声で私に詰問すると、大慌てで窓に近寄る紅。

「紅の専売特許を奪って申し訳無いんだが、知らん。何故か遅く見えて簡単に掴めた……なんだろうな?」

「――なんと⁉︎ してその矢を放ったぞくは何処から射った――」

「もうこの部屋に入ってるよ、紅。矢は私達の注意を引く為のおとりだったみたいだ。――出て来たらどうだ?」

 窓際の紅から、もう一つの窓枠の方に向き直り、静かに告げる私。

 現れたのは褐色肌の耳端が長い、革鎧に身を包んだ見目麗しき女性だった。
 右顔に傷痕が痛々しく残り、眼帯で覆って隠していた。
 私の知っているダークエルフと言う創作の種族に近しい姿だ。

『――流石は稀代の勇者様ネ。完全に隠蔽したつもりだったんだけどナ』

 紅と似た様な、縦に細い瞳孔の赤い目を私に向けて、そう言ってきたのだった。

「そこに隠れてる、もう一人さんも出て来てくれるかな?」

『チッ、一人姿を曝せバ、油断すると思ったのにナ。旦那は油断も隙もねえのナ』

 私を旦那と小馬鹿にした物言いで世辞を言いながら、飄々と現れたのもダークエルフっぽい男性。

「うーん、偶々だから。気配と言うか何とも言えない気持ち悪さを感じただけだ。――私に何の様だと尋ねるが、素直に答えてくれると助かるかな」

 嘘は言っていない私。
 意図せず漠然と認識した様な、そんな感じだった。

『はッ! 随分と余裕だネ。紅き竜が側に居るからっテ、安心しない方が良いヨ』

「――ぬぅ。忌々しい道具であるな!」

 直後、紅が力無く崩れ、床に膝をついた!
 幸い苦しむ様子も無く、ただ脱力した感じだった。

『力は出せない様ニ、ちょいと仕掛けてさせてもらったかラ。危害は加えないかラ、大人しくしてテ』

 存外、巫山戯た物言いだった。
 怒りを堪えて、あえて余裕ぶった態度を見せる私。
 慌てふためけば、襲撃者の思う壺になると判断したからだった――のは良いけど、何故に私はこんなにも冷静で居られるのだろうか?
 試練の間を乗り越えた成果って奴なのだろうか?

「強がりで言う訳でも小馬鹿にする訳でも無いと、予め言わせてもらうが……何と言うかな……外に居る連中も含み、君等では私一人にも敵わないと思うんだけど?」

『――ナ⁉︎』『――こいツ⁉︎』

 余裕ぶった表情が一転、怒りを顕にして腰に携えたナイフを抜き放ち、私を睨み身構える襲撃者の二人!

「――さて。私を狙う理由を素直に教えてもらえないかな? 魔王とやらの手先――」

『答える必要は無いネ!』

『旦那は死ぬんだかラ!』

 私が話しているにも関わらず、同時に襲い掛かって来た!



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 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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