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第三一幕。
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目的地である商人邸がある街は、比較的に治安も良く、近隣に住む様々な文化を持つ種族との交易が盛んだと言う。
そのお陰で街は活気に溢れ発展し、そこそこに大きい規模に成長したのだと、宿店主と給仕の女性から教わった。
ただ、その街へ行くには山を三つ程越えて、広陵地帯に出なければならないらしい――。
馬車では時間が掛かり過ぎる上、途中で魔物や野盗に出会す可能性も蔑ろに出来ない。
余計ないざこざや悶着等に巻き込まれでもしたら面倒臭い事この上無いし。
そう言う経緯で当初の予定通り、竜の姿の紅に乗って移動する訳だが――。
『主人よ、下衆の者と解っておって、何故に手を出しては為らぬのか?』
空を優雅に飛ぶ紅が、抱いている不満を隠しもせず、念話で私に伝えて来た。
「やっぱり私の妻だけに阿呆だな。いきなり火炎息を吐き散らし、屋敷の周囲を灼熱の地獄にしてどうする?」
紅の首をポンポンと叩き、諫める私。
私が否定した内容そのままに、着いたなり実行すると言うのだから紅は。
そう言う所だけは、妙に竜の発想なのな。
『儂を何だと思うておるのだ主人よ! きっちり屋敷のみを焼き尽くしてみせようぞ?』
「確かに紅なら可能だろうが、それがいかんと言っているんだ! 人質の安全もそうだが、他にも囚われている者も居るかも知れ無い。それに屋敷に従事している人の中に、何も知らない善良な人が混ざってたらどうする! 巻き込んだら寝覚めが悪いだろうに!」
と、紅の技量は肯定しつつも、頑なに否定しておく私。
更にそれだけでは無いと続ける――。
「大体、街の上空に火竜が現れたら、街の警備兵とかが黙っちゃいないだろ? 挙って迎撃に出張って来る筈だ! 万一に竜の力を削ぐ魔導具でも使われたら目も当てられないだろうに!」
今から襲撃するのは街の一角、繁華街のど真ん中に陣取る商人邸。
戦場に在る砦や要塞とは訳が違う。
強行突破するにしても、紅の遣り方では戦火や被害が大きくなり過ぎ、目立ってしまうから駄目なのだ。
『むう。ならば、どの様に攻め入るつもりなのだ主人は?』
「え? 今更にそれを聴くのか紅? 勿論、私は玄関から堂々とお邪魔するよ?」
『阿呆は主人の方よの! 正面切って敵陣に堂々と乗り込む等、愚の骨頂であろうが!』
等々、決して口論でも無い不毛な言い合いを続けながら、件の商人邸が在る街へと向かっていた――。
街の入口から少し離れた場所に降り立ち、絶世の美女に戻った紅と徒歩で進む。
この間も不毛な言い合いは続くも、ああだこうだと言い合っている間に、街の入口へと辿り着いた。
「そこの二人、待て!」
大きな跳ね橋がある城門に等しい検問所に差し掛かった所で、街を警護していると思しき二人の衛兵に呼び止められた。
「見慣れ無い奴だな……ここへは何をしに来た?」
長身痩躯の衛兵が、ありふれた質問を投げ掛けて来た。
「この街にお住まいの商人様に野暮用があってね? 態々、遠くからやって来たんだが?」
用件は濁し気味だが、嘘は言っていない。
「身分証か通行証を見せてみろ。持っている筈だ」
もう一人のやや小太りな衛兵が、私にそう詰問してきた。
「身分証? 通行証? 何だそれは? 生憎とそんな物は持っていない」
無い物は無い。物怖じせず、威風堂々とそう告げる私。
当然、嘘は全く含まれていないし、持っていないからと言って、卑屈になる必要も全く無い。
「無いだと? 貴様は聖騎士では無いのか? ――違うな、冒険者か。ならばギルドから発行される階級章があるだろう? それを見せろ。――貴様の身形から察するに、上等級……嫌、特等級以上か?」
勝手に冒険者と決めつけて詰問してくる衛兵。
――階級章とは、この世界における冒険者組合が敷いた制度に基づいた身分証の事。
見習い、初等級、中等級、上等級、特等級、勇等級、神等級と七段階に別れているそうだ。
各等級を示す魔石を加工した板状の物に、本人の個人情報等が記録されると言った、異世界ならではの記録媒体らしい。
現代だと軍人の認識票みたいな物。
実はこの事についても、鍛冶師から事前に教わっていた私だった。
ちなみに先代の勇者である鍛治師は、予想通りの勇等級だった。
尚、神等級は未だ誰一人として到達していない未知の領域で前例も無く、書いて字の如くの神話級らしい――。
「えっと……では、少し待って下さい」
こう言う下っ端の衛兵には、そこそこの袖の下を握らせておけば、穏便に済むのが一般的な通例儀式。
こんな所は現代だろうが異世界だろうが相変わらず一緒。
それに倣って、私が背負い袋から金貨の詰まった革袋を取り出そうとすると――、
「怪しい動きは見せ――」
「おい、どう――」
詰め寄る衛兵と一緒に居た衛兵の二人が私に近付くと、急に膝が崩れる様に倒れ込み、そのまま地面へ横たわってしまった――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
そのお陰で街は活気に溢れ発展し、そこそこに大きい規模に成長したのだと、宿店主と給仕の女性から教わった。
ただ、その街へ行くには山を三つ程越えて、広陵地帯に出なければならないらしい――。
馬車では時間が掛かり過ぎる上、途中で魔物や野盗に出会す可能性も蔑ろに出来ない。
余計ないざこざや悶着等に巻き込まれでもしたら面倒臭い事この上無いし。
そう言う経緯で当初の予定通り、竜の姿の紅に乗って移動する訳だが――。
『主人よ、下衆の者と解っておって、何故に手を出しては為らぬのか?』
空を優雅に飛ぶ紅が、抱いている不満を隠しもせず、念話で私に伝えて来た。
「やっぱり私の妻だけに阿呆だな。いきなり火炎息を吐き散らし、屋敷の周囲を灼熱の地獄にしてどうする?」
紅の首をポンポンと叩き、諫める私。
私が否定した内容そのままに、着いたなり実行すると言うのだから紅は。
そう言う所だけは、妙に竜の発想なのな。
『儂を何だと思うておるのだ主人よ! きっちり屋敷のみを焼き尽くしてみせようぞ?』
「確かに紅なら可能だろうが、それがいかんと言っているんだ! 人質の安全もそうだが、他にも囚われている者も居るかも知れ無い。それに屋敷に従事している人の中に、何も知らない善良な人が混ざってたらどうする! 巻き込んだら寝覚めが悪いだろうに!」
と、紅の技量は肯定しつつも、頑なに否定しておく私。
更にそれだけでは無いと続ける――。
「大体、街の上空に火竜が現れたら、街の警備兵とかが黙っちゃいないだろ? 挙って迎撃に出張って来る筈だ! 万一に竜の力を削ぐ魔導具でも使われたら目も当てられないだろうに!」
今から襲撃するのは街の一角、繁華街のど真ん中に陣取る商人邸。
戦場に在る砦や要塞とは訳が違う。
強行突破するにしても、紅の遣り方では戦火や被害が大きくなり過ぎ、目立ってしまうから駄目なのだ。
『むう。ならば、どの様に攻め入るつもりなのだ主人は?』
「え? 今更にそれを聴くのか紅? 勿論、私は玄関から堂々とお邪魔するよ?」
『阿呆は主人の方よの! 正面切って敵陣に堂々と乗り込む等、愚の骨頂であろうが!』
等々、決して口論でも無い不毛な言い合いを続けながら、件の商人邸が在る街へと向かっていた――。
街の入口から少し離れた場所に降り立ち、絶世の美女に戻った紅と徒歩で進む。
この間も不毛な言い合いは続くも、ああだこうだと言い合っている間に、街の入口へと辿り着いた。
「そこの二人、待て!」
大きな跳ね橋がある城門に等しい検問所に差し掛かった所で、街を警護していると思しき二人の衛兵に呼び止められた。
「見慣れ無い奴だな……ここへは何をしに来た?」
長身痩躯の衛兵が、ありふれた質問を投げ掛けて来た。
「この街にお住まいの商人様に野暮用があってね? 態々、遠くからやって来たんだが?」
用件は濁し気味だが、嘘は言っていない。
「身分証か通行証を見せてみろ。持っている筈だ」
もう一人のやや小太りな衛兵が、私にそう詰問してきた。
「身分証? 通行証? 何だそれは? 生憎とそんな物は持っていない」
無い物は無い。物怖じせず、威風堂々とそう告げる私。
当然、嘘は全く含まれていないし、持っていないからと言って、卑屈になる必要も全く無い。
「無いだと? 貴様は聖騎士では無いのか? ――違うな、冒険者か。ならばギルドから発行される階級章があるだろう? それを見せろ。――貴様の身形から察するに、上等級……嫌、特等級以上か?」
勝手に冒険者と決めつけて詰問してくる衛兵。
――階級章とは、この世界における冒険者組合が敷いた制度に基づいた身分証の事。
見習い、初等級、中等級、上等級、特等級、勇等級、神等級と七段階に別れているそうだ。
各等級を示す魔石を加工した板状の物に、本人の個人情報等が記録されると言った、異世界ならではの記録媒体らしい。
現代だと軍人の認識票みたいな物。
実はこの事についても、鍛冶師から事前に教わっていた私だった。
ちなみに先代の勇者である鍛治師は、予想通りの勇等級だった。
尚、神等級は未だ誰一人として到達していない未知の領域で前例も無く、書いて字の如くの神話級らしい――。
「えっと……では、少し待って下さい」
こう言う下っ端の衛兵には、そこそこの袖の下を握らせておけば、穏便に済むのが一般的な通例儀式。
こんな所は現代だろうが異世界だろうが相変わらず一緒。
それに倣って、私が背負い袋から金貨の詰まった革袋を取り出そうとすると――、
「怪しい動きは見せ――」
「おい、どう――」
詰め寄る衛兵と一緒に居た衛兵の二人が私に近付くと、急に膝が崩れる様に倒れ込み、そのまま地面へ横たわってしまった――。
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気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
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