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第二幕。
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「酷いを通り越している……」
腹から飛び出ている内臓を元の場所……自分の身体の中に必死に押し込む。
気色の悪い独特の感触はあったが、やはり痛みは感じない。
そして周囲に横たわる遺体から剣を拝借し、杖代わりに地面に突き立て、なんとか立ち上がったのち、重い脚を引き摺って、何を思ったのか紅き竜に歩み寄っていく。
途中で大盾も拝借し、背中に背負っておく。
ゆっくりと近寄る間、紅き竜は、私を独特の金眼で追うだけだった。
「お、お前――失礼。あ、貴女であっているかっ! あ、貴女に尋ねたいことがあるっ! い、古の竜とお見受けするがっ、其処も合っているかっ!」
近寄るにつれ、その巨躯の凄まじさにたじろぐ。
あまりにも怖くて腰が引け、これ以上は近寄れないでいたので、当然、紅き竜の頭も遠過ぎた。
なので怒鳴るような大声を出して、やむなく問い掛けたのだった。
『――如何にも。して、尋ねたいこととは何ぞ?』
独特の金眼を細めて静かに私を見る。
大きな口が動いてないところを見ると、声に出しているのではなく、頭に直接響いてたのは、念話か何かで意思を伝えてきているからだと理解した。
「この惨状についてっ! あとは……私と貴女のことだっ! 状況から察してっ、お互いが争っていたのではなかろうかっ!」
置かれている状況から推測したことを、怒鳴るように声を張り上げて伝えた。
『貴様、戯言を吐かすな――貴様らが儂を討ち滅ぼしに来たと言うに、知らぬ存ぜぬとはどう言った了見だ?』
私に巨大な頭をゆっくりと近付け、大口を開けて威嚇してくる紅き竜。
正直に言って、もう怖くて逃げ出したかった。
膝がガクガクと震えるが、両脚を踏ん張って押さえ込んだ。
剣と盾は拾ってきたが、使えるほどには未だ自由に動かない身体。
元より剣と盾の使い方なんて知らない。
恐らく噛み砕かれて瞬殺されるだろう――。
『――そう怯えずとも良い。儂に抗う力は、最早、残されては居らぬ。――抗う気力もな? 単にそのような状態で動ける貴様にだ、興味があったに過ぎぬだけだ』
殺気と言うのだろうか、威圧と言うのだろうか?
息苦しさを覚えるほどのそれらがすっと霧散したかと思えば、穏やかな空気が周囲一帯を支配する――。
「あ、紅き竜よ。わ、私は何も知らないのだ。気付いたら理解できない状況で、竜たる貴女と対話しているのだ。一体、私はなんなのだっ⁉︎ どうなったのだっ⁉︎ こんな状態で死なないのは、一体、何故なんだっ⁉︎」
『貴様――儂の知るところではない。先にも言うたが、貴様からは不浄の者が持つ独特の波動を感じない。貴様は心臓を失って尚、未だに動いておるのに、だ。呪いの類いでもないようだしの。――まこと不可思議な者よの?』
私の身体に頭を寄せ、何やら調べている素振りを見せる紅き竜。
神々しいまでに輝く鱗が美しさを奏でてると言うに、滑稽なまでに鼻をスンスンと鳴らす。
金眼を細め私を嗅ぎ回る姿が、人に懐く犬のように思えた。
その滑稽な姿と妙な喋りに、怖いと言う感情が払拭されて、心に若干の余裕が生まれた私は――。
「――ぷ。はははは」
微笑ましくなってしまい、つい、なんとなく吹いて笑ってしまった。
『貴様――何がおかしい? 臆病者と思っておったが……儂を間近で見て笑うなどとはの? ――余りの恐怖に狂気に満ちて気でも触れよったか?』
鼻息を荒くして不満気に私に問い掛けてきたと思えば、直ぐに呆れ口調になって小馬鹿にしてきた。
「――す、済まない。ついな?」
そう言った私は立っているのが辛く、その場にドカリと腰を下ろす。
「――貴女とは真摯に向き合いたい。意図せず不敬を働いていたのなら詫びておく」
そう伝えたあと、深々と頭を下げた。
『貴様――ならば儂も礼を尽くしてやろう』
そう返答する紅き竜の巨躯全体に、不可思議な輝きが灯ると、次第に小さくなっていった。
そして私の目の前まで歩み寄り、対面にある荷車らしき残骸へと優雅に腰掛けたその姿は――。
言葉を失うほどの絶世の美女だった――。
「上から目線では貴様――否、其方も気分が悪かろう。儂の最後の力で持って、本来の姿に戻って、礼を尽くそうと思うてな?」
本来のと言うその姿で、和やかに笑い掛けてくる紅き竜。
身に纏う衣装は覆う部位が少ない紅い甲冑だったが、透き通るほどに白い肌に流れるような紅い髪が良く映えていた。
鋭い切れ長の目は瞳孔の細い金色のまま。
それを差し引いても、童顔とも言える小顔に鼻筋も通った正しく美女に違いなかった。
「其方……顔が赤くなってはおらぬか? どうした?」
「き、気にしないで頂きたい。――紅き竜よ、もう長くはないと仰っていたが、そんな風には全く見えないのだが?」
「痩せ我慢に過ぎぬよ。其方の方が酷い有り様ではないか。――良くもまぁ、自分を棚に上げて抜け抜けと」
「ははは――不浄の者と仰ってたな? 生ける屍に私は堕ちてはいないと?」
「そこは間違いない。もしや其方――人の理から外れし者か?」
「人の理から……外れし者?」
「うむ。勇者召喚何ぞで異界から招かれた者を総じてそう呼ぶ。――不老長寿とは聴き及んでおったが、まさかの不死だったとはな」
「異界? ――ここは異世界だと?」
「召喚されるにしても――哀れよの。儂と交戦真っ只中に呼ばれ、左腕をも失った挙句、胸と腹に大穴を開けて……なんの冗談か」
「いや、私が聴きたいっ! この惨たらしい姿で異世界に居るなんてっ⁉︎ そんな意味不明なことがあってたまるかっ⁉︎ ――ところで私は……一体、誰なんだ――ろうな?」
そう、この意味不明な状況もさることながら、自分のことも解らなかった。
「言うに事欠いて私は誰とな? 其方は阿呆の子だったか……おかしな奴よの? ――まぁ、良い。其方が本当に召喚されて呼ばれた者であれば、然るべき場所に顕現する筈。……戦場に直接呼ばれるなど、長く生きる儂も聴いた覚え何ぞないぞ?」
「――と、言うと?」
「あくまでも憶測ゆえに気を悪くするな。例えば……召喚術を失敗した――意図せず間違ってこの地に飛ばされた、或いは紛れ込んでしまった。ま、そんなところだろう?」
「いや、そんなあっけらかんと……」
「生きておる! ――それで良しとしておくが良い。儂何ぞ……もう直ぐ朽ちるのだぞ? 其方に付き合って、原因を探ってやる手伝いすらできぬ身なのだぞ?」
「そうは見えないんだが?」
「痩せ我慢と言うておろうが! 其方は儂と争う不遜で不敬な輩とは無関係であるようだし、最後に少しばかり話ができて良かったと思うておる」
「そうか……仕方ないな。残された時間、私で良ければ付き合おう。――こんな酷い有り様で申し訳ないが、貴女から聴く限り、どうやら私は死ねない身らしいのでな?」
「本当に変わったおかしな奴よの? 少しばかり気に入ったぞ、其方。――折角だし儂の住処に案内してやろう。――儂の代わりにそこに住めば良い」
「……良いのか?」
「何、気にするでない。どうせ空き家になるのでな。金品も少しばかり蓄えもある。儂を看取る謝礼代わりで受け取るが良い。言っておくが……洞窟とかそんな場所ではないからの? 少しこじんまりとした、正しく人が住む家屋だからな?」
「そうか――右も左も何がなんだか全く解らない私だ……有り難く頂戴するとしよう」
「うむ、それで良い。儂の住居は少し先にある。少し飛ぶことになるのでな? 一旦、竜の姿に戻らせてもらおう。其方は儂の背にでも乗るが良い」
言うなり私から距離を取る、女性の姿を模した紅き竜。
「了解した――しかし、飛んでも大丈夫なのか?」
そう長くはない――その言葉から無理をしているのではないかと、不意に心配になってしまった。
『少し先だと言うたであろう? ――待たせた。ほれ、儂の首の後ろにでも掴まれ』
翼竜の姿などではない、両手両脚があって翼は背中から生えている、西洋で描かれる巨大な竜の姿に戻った紅き竜は、そう言って頭を下げてくれるも、よじ登らなければならないほどに位置が高く、乗るのにも難儀しそうだった――片腕だと余計に。
「そうか――では、失礼する。紅き竜よ」
私が紅き竜になんとかして乗ろうと触れた瞬間、私の右腕が真っ白な輝きに包み込まれた!
その神々しいまでの光の本流が伝播し、紅き竜の巨躯を包み込んでいく――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
腹から飛び出ている内臓を元の場所……自分の身体の中に必死に押し込む。
気色の悪い独特の感触はあったが、やはり痛みは感じない。
そして周囲に横たわる遺体から剣を拝借し、杖代わりに地面に突き立て、なんとか立ち上がったのち、重い脚を引き摺って、何を思ったのか紅き竜に歩み寄っていく。
途中で大盾も拝借し、背中に背負っておく。
ゆっくりと近寄る間、紅き竜は、私を独特の金眼で追うだけだった。
「お、お前――失礼。あ、貴女であっているかっ! あ、貴女に尋ねたいことがあるっ! い、古の竜とお見受けするがっ、其処も合っているかっ!」
近寄るにつれ、その巨躯の凄まじさにたじろぐ。
あまりにも怖くて腰が引け、これ以上は近寄れないでいたので、当然、紅き竜の頭も遠過ぎた。
なので怒鳴るような大声を出して、やむなく問い掛けたのだった。
『――如何にも。して、尋ねたいこととは何ぞ?』
独特の金眼を細めて静かに私を見る。
大きな口が動いてないところを見ると、声に出しているのではなく、頭に直接響いてたのは、念話か何かで意思を伝えてきているからだと理解した。
「この惨状についてっ! あとは……私と貴女のことだっ! 状況から察してっ、お互いが争っていたのではなかろうかっ!」
置かれている状況から推測したことを、怒鳴るように声を張り上げて伝えた。
『貴様、戯言を吐かすな――貴様らが儂を討ち滅ぼしに来たと言うに、知らぬ存ぜぬとはどう言った了見だ?』
私に巨大な頭をゆっくりと近付け、大口を開けて威嚇してくる紅き竜。
正直に言って、もう怖くて逃げ出したかった。
膝がガクガクと震えるが、両脚を踏ん張って押さえ込んだ。
剣と盾は拾ってきたが、使えるほどには未だ自由に動かない身体。
元より剣と盾の使い方なんて知らない。
恐らく噛み砕かれて瞬殺されるだろう――。
『――そう怯えずとも良い。儂に抗う力は、最早、残されては居らぬ。――抗う気力もな? 単にそのような状態で動ける貴様にだ、興味があったに過ぎぬだけだ』
殺気と言うのだろうか、威圧と言うのだろうか?
息苦しさを覚えるほどのそれらがすっと霧散したかと思えば、穏やかな空気が周囲一帯を支配する――。
「あ、紅き竜よ。わ、私は何も知らないのだ。気付いたら理解できない状況で、竜たる貴女と対話しているのだ。一体、私はなんなのだっ⁉︎ どうなったのだっ⁉︎ こんな状態で死なないのは、一体、何故なんだっ⁉︎」
『貴様――儂の知るところではない。先にも言うたが、貴様からは不浄の者が持つ独特の波動を感じない。貴様は心臓を失って尚、未だに動いておるのに、だ。呪いの類いでもないようだしの。――まこと不可思議な者よの?』
私の身体に頭を寄せ、何やら調べている素振りを見せる紅き竜。
神々しいまでに輝く鱗が美しさを奏でてると言うに、滑稽なまでに鼻をスンスンと鳴らす。
金眼を細め私を嗅ぎ回る姿が、人に懐く犬のように思えた。
その滑稽な姿と妙な喋りに、怖いと言う感情が払拭されて、心に若干の余裕が生まれた私は――。
「――ぷ。はははは」
微笑ましくなってしまい、つい、なんとなく吹いて笑ってしまった。
『貴様――何がおかしい? 臆病者と思っておったが……儂を間近で見て笑うなどとはの? ――余りの恐怖に狂気に満ちて気でも触れよったか?』
鼻息を荒くして不満気に私に問い掛けてきたと思えば、直ぐに呆れ口調になって小馬鹿にしてきた。
「――す、済まない。ついな?」
そう言った私は立っているのが辛く、その場にドカリと腰を下ろす。
「――貴女とは真摯に向き合いたい。意図せず不敬を働いていたのなら詫びておく」
そう伝えたあと、深々と頭を下げた。
『貴様――ならば儂も礼を尽くしてやろう』
そう返答する紅き竜の巨躯全体に、不可思議な輝きが灯ると、次第に小さくなっていった。
そして私の目の前まで歩み寄り、対面にある荷車らしき残骸へと優雅に腰掛けたその姿は――。
言葉を失うほどの絶世の美女だった――。
「上から目線では貴様――否、其方も気分が悪かろう。儂の最後の力で持って、本来の姿に戻って、礼を尽くそうと思うてな?」
本来のと言うその姿で、和やかに笑い掛けてくる紅き竜。
身に纏う衣装は覆う部位が少ない紅い甲冑だったが、透き通るほどに白い肌に流れるような紅い髪が良く映えていた。
鋭い切れ長の目は瞳孔の細い金色のまま。
それを差し引いても、童顔とも言える小顔に鼻筋も通った正しく美女に違いなかった。
「其方……顔が赤くなってはおらぬか? どうした?」
「き、気にしないで頂きたい。――紅き竜よ、もう長くはないと仰っていたが、そんな風には全く見えないのだが?」
「痩せ我慢に過ぎぬよ。其方の方が酷い有り様ではないか。――良くもまぁ、自分を棚に上げて抜け抜けと」
「ははは――不浄の者と仰ってたな? 生ける屍に私は堕ちてはいないと?」
「そこは間違いない。もしや其方――人の理から外れし者か?」
「人の理から……外れし者?」
「うむ。勇者召喚何ぞで異界から招かれた者を総じてそう呼ぶ。――不老長寿とは聴き及んでおったが、まさかの不死だったとはな」
「異界? ――ここは異世界だと?」
「召喚されるにしても――哀れよの。儂と交戦真っ只中に呼ばれ、左腕をも失った挙句、胸と腹に大穴を開けて……なんの冗談か」
「いや、私が聴きたいっ! この惨たらしい姿で異世界に居るなんてっ⁉︎ そんな意味不明なことがあってたまるかっ⁉︎ ――ところで私は……一体、誰なんだ――ろうな?」
そう、この意味不明な状況もさることながら、自分のことも解らなかった。
「言うに事欠いて私は誰とな? 其方は阿呆の子だったか……おかしな奴よの? ――まぁ、良い。其方が本当に召喚されて呼ばれた者であれば、然るべき場所に顕現する筈。……戦場に直接呼ばれるなど、長く生きる儂も聴いた覚え何ぞないぞ?」
「――と、言うと?」
「あくまでも憶測ゆえに気を悪くするな。例えば……召喚術を失敗した――意図せず間違ってこの地に飛ばされた、或いは紛れ込んでしまった。ま、そんなところだろう?」
「いや、そんなあっけらかんと……」
「生きておる! ――それで良しとしておくが良い。儂何ぞ……もう直ぐ朽ちるのだぞ? 其方に付き合って、原因を探ってやる手伝いすらできぬ身なのだぞ?」
「そうは見えないんだが?」
「痩せ我慢と言うておろうが! 其方は儂と争う不遜で不敬な輩とは無関係であるようだし、最後に少しばかり話ができて良かったと思うておる」
「そうか……仕方ないな。残された時間、私で良ければ付き合おう。――こんな酷い有り様で申し訳ないが、貴女から聴く限り、どうやら私は死ねない身らしいのでな?」
「本当に変わったおかしな奴よの? 少しばかり気に入ったぞ、其方。――折角だし儂の住処に案内してやろう。――儂の代わりにそこに住めば良い」
「……良いのか?」
「何、気にするでない。どうせ空き家になるのでな。金品も少しばかり蓄えもある。儂を看取る謝礼代わりで受け取るが良い。言っておくが……洞窟とかそんな場所ではないからの? 少しこじんまりとした、正しく人が住む家屋だからな?」
「そうか――右も左も何がなんだか全く解らない私だ……有り難く頂戴するとしよう」
「うむ、それで良い。儂の住居は少し先にある。少し飛ぶことになるのでな? 一旦、竜の姿に戻らせてもらおう。其方は儂の背にでも乗るが良い」
言うなり私から距離を取る、女性の姿を模した紅き竜。
「了解した――しかし、飛んでも大丈夫なのか?」
そう長くはない――その言葉から無理をしているのではないかと、不意に心配になってしまった。
『少し先だと言うたであろう? ――待たせた。ほれ、儂の首の後ろにでも掴まれ』
翼竜の姿などではない、両手両脚があって翼は背中から生えている、西洋で描かれる巨大な竜の姿に戻った紅き竜は、そう言って頭を下げてくれるも、よじ登らなければならないほどに位置が高く、乗るのにも難儀しそうだった――片腕だと余計に。
「そうか――では、失礼する。紅き竜よ」
私が紅き竜になんとかして乗ろうと触れた瞬間、私の右腕が真っ白な輝きに包み込まれた!
その神々しいまでの光の本流が伝播し、紅き竜の巨躯を包み込んでいく――。
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気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
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