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第五幕。

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「えっと……ところで貴女は、一体、何をなさってるんでしょうか?」

 目の前で突拍子もないことをやらかし出したので、念の為に何故かと遠慮がちに聴いてみる。

「やはり其方は阿呆の子よの? 其方の世界では、風呂に入るのに衣服を着たままなのか? 儂も入るに決まっておるので、こうして脱いでおるだけぞ? この身に着いた返り血なんぞも、存外、気持ち悪いのでな? 其方の体液か汁かも首回りに着いておる。――ほれ、ここらだ」

 言いながら紅き鎧を脱ぎ捨て、素早く薄手の衣服――下着姿になる紅き竜は、透き通るほどに白い肌を惜し気もなく露出した姿になって、流れるような綺麗な紅い髪を託し上げうなじを見せてきた。


 確かに私は首に掴まってはいたけど、存外、酷い言われようだな!


「言い方っ! 言い方に配慮して頂きたいっ! せめて血液とかっ! ――そもそもだな、異性と風呂に入るなど、私の居た世界でが破廉恥極まりない行為なんだ! 異性に肌を晒しても平気なのか! なんとも思わないのか貴女は!」

 酷い言われ方に、少々、文句も付けてやりたく、卑猥に聴こえるとか何とかと注意してやった。

「――やはり其方は阿呆の子で間違いなさげであるの。――では、其方に一つ尋ねるとしようかの。其方は雌の仔犬と風呂に入るのに、恥ずかしがって躊躇するのか? 儂からすれば其方はそんな感じになるのだ」

 無駄な抵抗だった――逆に小馬鹿にされただけだった。
 更に私を小馬鹿にするだけに飽き足らず、反論できない理詰めでも諭された。
 その間に下着までも全て脱ぎ捨て、美しい肌を惜しげもなく堂々と完全に晒す紅き竜。

「――言わんとしていることは凄く解る。誠に遺憾だが確かに仰る通りだ。――しかし本当に良いのか? 例え種族が違っても絶世の美女と一緒の風呂に入れるなんて、正直に言わせて頂くが、私に取ってはご褒美に等しいことなんだぞ?」

 そうは言っているが、純粋に美しいと思えて見惚れてしまっていた。
 完成された至高の芸術品――まさに女神を見ているような、そんな不思議な感覚で。

「変わった奴よの? 儂を人扱いで見るだけでなく、更に美女と申すか。――其方が良いのであれば儂は一向に構わん。美女と申す儂の方から其方の背中を流してやろうと言っておるのだ、遠慮は要らぬ。甘んじて受け入れよ。――それに其方は、わけも解らずこちらに顕現させられたようであるし、実際、その様な酷い目にも遭っておるのだ。何一つ役得もなくては、其方も辛く寂しかろうて? 何より片腕を失っては、風呂すらも満足に入れず不便であろう? 遠慮するな」

 そんなことを言いながら、私の鎧や衣服を見る間に剥ぎ取っていき、あっという間に紅き竜同様、一糸纏わぬ生まれたままの姿にされてしまった。
 
「そ、それは……そうだが。とても魅力的な提案で、確かに私は嬉しいし助かるが」

 絶世の美女からの願ってもないお誘い。
 断ったら罰が当たる――既にそれ相応に当たってるとも言える酷い身体なんだが。

「嘘偽りよりも素直で良い。――ところでの? 儂って……其方が顔を赤らめて二つ返事で肯くほどに、人種から見るとそんなにも美女に映るものか?」

 肩幅に脚を広げ、折った腰に両手をつけて身を乗り出し、妙に含みのある美しい顔を寄せて尋ねてくる、意図せずあざとさ全開の紅き竜。
 私の目に入るあられもない姿――強調される豊満で張りのある美しい胸が特に。
 存在感も半端なく、目のやり場に凄く困ってしまう。

「それはもう間違いなくっ! 恐らく世界一の美女で合っているっ! 言い切って問題ないっ!」

 お世辞ではなく、本気でそう言い切って差し支えない。
 少なくとも私は、貴女以上に美しい女性を見た覚えもないし知らない――って、忘れているだけかもしれないが。

「――そうかそうか! 其方のお陰で良いことを知り得た! 儂は気分が良い! ほれほれ、この駄肉如きで良ければ、たっぷり堪能するが良いぞ!」

 私に美女と肯定されて、気分を良くした紅き竜。
 一糸纏わぬ女神に等しい美しい裸体姿で、両腕を絞り寄せて持ち上げて、悪戯っ子の如く容赦なく見せつけてきた。


 紅き竜よ。存外、お茶目さんなんだな――。



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 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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