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第五〇幕。

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「主人よ、些か様子が変ではないか」

 周囲の壁に手を触れて、怪訝そうに眉根を寄せて、私にそう伝える紅。

「変とは? 何か感じたのか、紅?」

 何を指して変と言うのか良く解らなかった私は、紅の側へとやってくる。

「うむ。魔結晶に内包しておる魔素がな、急激に減少していっておるのだ。まるで何かに吸い取られるかのようにの?」

 顰めっ面になったまま、顎の手を添えて考察している様子の紅。


 その時――。


「騎士様、竜巫女様! 大変です! ス、スキュラが!」

「――な⁉︎」「――なんと⁉︎」

 少年の必死の叫びに、私と紅が驚いて振り返る!


 水面に腹を投げ出して、逆さまに沈黙していたスキュラが、何かに引き摺り込まれるように、水の中へと沈んでいくのだった!


「――水の奥底から凄まじい邪気を感じよる。とても大きな魔力……だが、何かがおかしい。不浄の者が待つ独特の波動と言うか――」

 私の預けた宝剣を下段に構え、沈みいくスキュラを見やる紅。

「嫌な気配と神々しい気配が、折り混ざった妙な感じがするな……なんだろうな?」

 水面に向かって槍と盾を構えて、油断なく注視しつつ紅に尋ねる私。

「――スキュラみたいなのが、まだ居るって言うんですか⁉︎」

 紅の背後に隠れ、オドオドと怯えている少年。


 そして、スキュラが沈んだあとの水面は、暫しの静寂を奏でる――。


 だがしかし、異常なほど息苦しい威圧感と重圧感が、地底湖を一帯を支配している――。


 何かが居る――。


「この気配は……まさか……」

「思い当たる節でも?」

 顎に手をやって呟く紅に、そう尋ねた私。

「もしかすると、この場所は……封印の間。そこらに埋まっておる大量の魔結晶を利用して、永久術式を構築しておった封印だったのやも知れぬ……」

「え⁉︎ 封印されるようなものが、ここに在るか居るってこと⁉︎」

「紅が言うからには、そうなんだろうな――っと、居るだったか。……どうやらお出ましだ!」


 私達が注視していた水面の中央に、突如、変化が現れる。


 まるでくり抜かれるように空間が唐突に湧き出て、その穴からゆっくり浮上してくる何か――。


 それは――不浄の者と大差のない、ドス黒い霧――瘴気を纏った、禍々しさを携えて現れた!


 紅に匹敵する巨躯は、醜く腐り果てドロドロに朽ちていた。

 羽ばたいて水面に浮上したようではなく、ゴーストやスピリットの類いと同じように、空間に浮遊している――。

 全身の所々には骨が露出し、正しく生きている存在ではないと肯定している悍ましさ。


 怨嗟の念を孕んだ――屍竜。
 黒い竜が、水面より姿を曝したのだ!


 そして私と紅を、怨念に満ちた暗い眼で……ただ睨む。
 片眼には一本の剣が突き刺さっていた――。


「とうの昔に亡き者にされた黒竜がどうして! 屍竜と化して儂の前に再び現れるとは――未練か、或いは呪いか! あまりにも惨すぎるのではないか!」

 哀しくも辛い、憤怒に満ちた表情で咆哮をあげた紅!
 構えていた宝剣が力なく下がり、手から滑り落ちた――。

「済まない、紅」「主人⁉︎」

 紅の腕を掴み、容赦なく入口の方まで投げ飛ばす!

「紅! 毒々しいまでの瘴気が周囲に充満しかかってる! 少年と一緒に下がってろ!」

 宝剣を拾い上げ腰に戻したあと、直ぐ様、入口を庇うように間合いを取って、槍と盾を構えて戦闘体勢を取る私。

「主人⁉︎」「――竜巫女様、お早く!」

 入口付近にふわりと舞い降りる紅に、悲痛な叫びで呼ぶ少年!

「私に構うな! 状態異常無効の外套があるから恐らく大丈夫だ! 少年と紅は瘴気で命を落としかねない!」

「主人――しかし」「――竜巫女様!」

 頑として動かない紅の手を取り、必死に入口へと引っ張る少年!


『URORORORO』

 そこに真っ黒に淀んだ毒の息を吐き出す屍竜!


「私の盾よ、耐えてみせろ!」

 間一髪、大きく巨大化させた右手の盾で、強烈な勢いで吐き出される毒の息を押さえ込む!

「急げ、ぼけっとするな、紅!」

「竜巫女様!」

 毒々しい息を押さえ込むまま、紅に怒鳴りつけた私!

 紅がビクッと身を強張らせ力が抜けた瞬間、少年が入口へと引っ張り込んだ!

「――主人! 彼奴を……救ってやってくれ!」

 少年に引き込まれる間際、悲痛な声で願う紅!

 入口の前まで後退した私は、毒の息を防ぐ盾を手放し横っ飛びを敢行! 射線上から離脱する!

 毒の息で押し込まれる勢いを利用して、盾で入口に栓をしてやったのだ!

「これで紅と少年は大丈夫だろう……さて、紅の願いは必ず叶えてやるさ。――屍竜を葬り去るまで、なんとか耐えてくれよ、私」

 状態異常無効の外套が、毒の息や瘴気から完全に護ってくれている。
 だがしかし、実際、どこまで持つかは解らない。

「――怨嗟を忘れ、正しく天に登り安らかに眠れ……黒竜!」

 左手の槍を、毒の息を吐き出す大口目掛け、渾身の力で投擲する!

 一筋の矢と化して、見事に大口を貫き、巨大な頭半分を吹っ飛ばすも……倒すまでには至らない――。

『URORORORO』

 毒の息、腐った肉片、泥のような体液などを撒き散らし、狂ったように大暴れしだした!

 長い首と尻尾を鞭のようにしならせて、壁と言う壁に打ち付ける屍竜!
 打ち付ける度に地響きを上げ、一部の壁と天井までを崩落させた!

「易々とは終わってくれないか……一緒に生き埋めは遠慮するよ、黒龍。――紅が哀しむ」



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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