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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰拾伍話 義妹、其の肆。

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 発端は、この施設の近くにある海岸に打ち上げられて、倒れているところを発見された身元不明の美女。

 つまり、ヒトの姿のままだった頃のクモヨが、病院に運び込まれたことから始まったと言う――。

 運び込まれた病院で行われた精密検査で、現代医学では説明できない、事例のない謎の疾患であることが判明する。


 原因不明の未知なる病原菌に侵されていたのだ。


 もしかするとこの時点で、既に何ぞかの変異が始まっていたのかもとアリサは言う。

 超常に関わっているらしいことから、超常関連に詳しいアリサの元へと緊急搬送され、必死に延命処置を施すも成果が上がらず、数日後には息を引き取ってしまったと言う。

 死因を詳しく知る為にも、ありとあらゆる方向から検査を行っていた最中……。


 それは起こった――。
 ここからが事故だと続けていくアリサ。


 厳重に管理されて保管されていた筈の、デパートで確保した大量のサンプルのひとつが、突如として紛失する事件が起きたのだった――。


 それは功を焦る若モノの仕業。
 愚かモノのたったひとつのミスが原因。


 意思無き肉塊、蠢く死体の原理を解明し名を挙げるべく、誰にも告げずに保管器を自室に持ち込んだ。

 そして、揺蕩っていたサンプルを取り出した直後、蠢き出したのだった――。


 そう――生きていたのだ。


 まさか生きているとは思ってもみなかった愚かモノは、既存の標本でも調べるが如く、なんの警戒も予防策も用意せず、不用意に保管器を開けてしまったのだ。

 その結果、近くにいた同じく生態研究中の毒蜘蛛に取り憑き、例の如く因子を取り込んで肥大化した。


 猛毒を持った危険極まりない、蜘蛛のバケモノと化したモノ。


 襲われる愚かモノが必死に逃げた先――。


 それが偶々、原因不明の死に至った美女が検査されている研究室だったのだ。


 腰を抜かして後退る愚かモノを無視して、その近くに横たわる美女の遺体に貪りつく蜘蛛擬き。


 ここで有り得ない現象が起きた――。


 下半身を喰い尽くしたところで動きが止まり、まるで融合するかのように一体化したのだ。


 そして、死んでいる筈の美女が、その身形で動き出す――。


 一部始終を目の当たりにした愚かモノは、怖くなって慌てて逃げた……。


 と、ここまでが原因を作った愚かモノが自白した顛末。

 次に警備員が数人駆けつけた時には――下半身が蜘蛛と化した美女……そう、今の状態のクヨモが佇んでいたと言う。

 記憶は欠除するも、意思無き肉塊には堕ちず、ヒトの意思を持つバケモノへと変化していた……と。

 ナニも知らないヒト側から見れば、死体が生き返って悍しいバケモノと化したわけで。

 その場で殺処分されそうなところに、事態を聴き駆けつけたアリサが運良く間に合って、なんとか食い止め救い出したのだと言う――。

 一連の騒動のあと、早急に処分しろとの意見が多い中、優しいアリサは処分することは断じて認めなかった。

 研究対象になると言う打算を打ち出し、なんとか保護する方向で話しを纏め、言いくるめるに至った。


 そして、この地下深くの隠れ家的な場所に住まわせた。


 軟禁状態になってしまったのは、不要な混乱を避ける為の止むを得ない処置だったと言う。

 関係者には箝口令を引き、事故を起こした愚かモノには……重い処罰が下された。

 そして――存在自体をひた隠しにして今に至る……と言うことだった――。


「つまり――意思無き肉塊に成り損ねたモノが、クモヨの正体と言うことなんだな? 話しを聴くに――未知なる病原菌が侵食を抑止……ワクチンにでもなったと言う可能性もあるか……」

「解らないとしか言えないのよ? 生体組織的な本体も消失しているのよ? なので無害なのよ? 悪い子ではないのに……処分なんて酷なのよ? ……アリサにはできなかったのよ?」

 大粒の涙を溢し、皆に向け訴えるアリサだった。


 ナニはともあれ、不幸中の幸いはクモヨが生きたまま侵食ないし喰われなかったことぐらいか……。
 あゝ、ヒトの理性が少しでも残ってくれていたこともだな。


 でなければ、ここに存在していない。


 更に言うとアリサとも再会できていない……本当に辛いところだ……。

「アリサ叔母……アリサさんに救われて良かったとボクも思う。実際、意図的でなかったのがせめてもの救いだよ……ね、パパ」

「事故を起こした愚かモノには同情の余地もないが。二度目の命を授かったクモヨは……それでも良かったと思うか? 思うところはないのか?」

「ワタシハ コンナ スガタ。デモ ミナサンガ ナカヨク シテクレマシタ。ダカラ イキテイラレテ ウレシイ……」

「……さよか」

「らしいよ、アリサさん。救って正解だったんだよ?」

「もうひとつ、教えろアリサ。――フォー。つまり、個体識別番号が四番目と言うことは、最低でもあと三つは同類が居るってことじゃねーのかよ?」

「二つ目は実験中にLost消失なのよ? 三つ目は……湖の底に沈む遺跡付近から偶然にも入手のよ? 太古の化石から復活させた蜥蜴――」

「――あの超ウッザいヤツは、パパの言う通りだったか。ボクら……アイツに散々な目に合わされたんだよ!」

「大きくて……ママに怪我をせたんだよ!」

「え⁉︎ Big大きいなのよ? ……手の平サイズなのよ?」

「いいえ、アリサ。私達が遭遇した蜥蜴のようなモノは、数メートルから数十メートルもあるほどには大きいモノでしてよ? 彼方が言うにはカメレオン類いだとか?」

「……間違いないのよ? No.Three個体識別番号の三番目なのよ? 何故大きく――!」

「気付いたかアリサ。――そうだ、クモヨの事故と同じ理由だ」

「……なんてことなのよ」


 そう。個体識別番号の三番目。
 小さな蜥蜴は遭遇時、肥大化していた。

 恐らく生体組織的謎な何ぞに寄生され変異したのだろう。


 それはつまり――。


 クモヨに融合された毒蜘蛛の事例とほぼ同じ。


 そしてナニかの偶然、或いは必然か。
 クモヨに蜥蜴の化石……共通点はもう一つ――。



 どちらも『海』に関わっている――。



 ―――――――――― つづく。
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