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第二部 オタクと中二病。

二十七痛 そして何処かに行く真野氏。

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 真っ黒い玉号のくだりでやんややんやと推し問答をしている最中、真野氏が何やら退っ引きならない青褪めた表情になって、なんだか嫌な予感がするぜとお腹とお尻を押さえ、大慌てで部屋から出ていった。

「真野氏。うんち我慢せんと、とっとといけば良いのに。美少女は排泄しないなど、一部の濃ゆい層が広めた単なる都市伝説でしょうに……万一にも漏らした日にはそれこそ――実に良いね。ま、トイレもバスルームも潰して、こんな中二病くっさい部屋に改装した真野氏の自業自得なんですけども」

 だけに、乙女のデリカシーなど喰らえと、おやぢギャグでのメガネ、クイッ!

「そう言えば……いつの間にモブの皆さんは退出なさったのでしょう?」

 メガネ、オヤッ? と疑問に思うのも当然です。忽然と消え――ゲフンゲフン。まぁ良いか。いつものことだし。

「こうして改めてじっくり見ると……本気の本気で創り上げたのが良く解りますね。まるで本当に異世界にやってきたかと錯覚するほど本物そっくり……って、言い方もおかしいですけども」

 誰も居なくなった真野氏の私室に、ポツンと一人置き去りにされた俺は、石畳の上で何故か神妙に正座して、メガネ、クイッ! っと見渡しつつ呟く。

 冗談抜きで、本格的な舞台セットさながら。
 男子寮――俺の私室と同じ広さな筈なのに、その数倍は優にあるんだから。
 ヒロインだけに広いんですねとボケてはみたけども、常識的に考えて、二、三部屋……否、この階のフロア全部は打ち抜かないと、こうはならない。
 
 まぁ……真野氏はお金持ちのお嬢様っぽいらしいし、このぐらいできて当然なんでしょうけども。
 私生活を不便にしてまでも、中二病くっさい己の妄想を忠実に再現して満たす心意気には、オタクな俺にしても流石に敬服するしかありませんね。

「さて。昔のRPGでネタにもされた不埒な勇者様のように、タンスや壺を勝手に調べて何かゲッチュ――この場合、縞々柄のいけない布地や乳バンドやらを物色してメガネ、キラッ! と洒落込みたいところですが。真野氏が仰るにはここは謁見の間ですからねぇ……あるのは剣の調度品や蝋燭に旗くらい……さて、どう行動すべきか。実に悩ましい」

 石畳の上に正座しつつ、メガネ、クイッ! っとシンキングタイム。
 そして目に入る、真野氏が踏ん反り返ってフンスッしてた立派な玉座。

「おお! せっかくなので、仮称、玉座とやらに座らせて頂きましょうか。ブーブークッションとか敷くベタな悪戯でもぶちかましてやりたいところですが、生憎と持っていませんし。せめてお花摘みから戻ってきた真野氏を、ここから王様口調で『うむ、尻が臭いぞ』とか罵ってやりましょうか」


 とりあえず座ってみた。


「なんとっ⁉︎ これはこれは……思ったよりもずっと痔に優しい座り心地っ⁉︎ これは良い物を体感させて頂きました。座布団もないのに……いやはや、素晴らしい! ――って、真野氏。もしや美少女なのに痔を患っておられるのでしょうかね……」

 真野氏が踏ん反り返っていた玉座に腰掛けてみて、驚きのメガネ、クイッ!
 高級な革張りの社長椅子を軽く凌駕する座り心地に、俺は変な勘繰りを入れつつもメガネ、クイッ! と、ただただ驚いていた、その時――。


 真野氏の玉座からみて正面にある大きな観音開きの扉が、突如、蹴破られたかのように勢い良くバァーンッ! と開かれた。


「魔王っ! 覚悟しろっ!」

「世の平穏の為、私達に素直に討たれるのですっ!」

「ボクらと話し合いで解決できるとは思わないことだよっ!」

「捕らえて調教してやんよ、色欲の亡者のようにさ」

 そこからなだれ込んできた謎の一団はあり得ないことに、ファンタジーRPGならお馴染みの職業である、戦士、神官、魔法使い、盗賊と言った、それと即座に解る本格的な装備を、各々がお召しになってのご登場です。


 それ以前に戦士風のイケメン男性以外、清楚系少女、ボクっ子幼女、色気爆発美女と言った、全て女性のハーレム構成に、俄然、モヤっとしましたけど。


 これには流石の俺も理解が及ばず、真面目に言葉を失いメガネ、ポロッと驚くわけで。



 ――――――――――
 またしても中二病ってやつは。

 またしても長くなったので中途半端に分割。
 毎度毎度、すいません。_φ(・_・
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