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第1章 ハイスクールララバイ  静流の日常

エピソード3-3

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 悪夢のような出来事が去った後、静流たちは生徒会室で紅茶をご馳走になっていた。
「まあ、いろいろあったが、とりあえずお疲れさん」

「ほんと助かりました。ありがとうございました!(ニパァ)」

「いやいや、この位先輩として当然だよ」
(堪えろ、私、これも修行……だ)

「でも、本に【呪い】を付与するって、ゾッとしませんね」

「ああ、好かんな」

 紅茶を飲みながら、静流は笑みを浮かべ、胸の内を語った。

「でもやっぱり石動先輩と対決してた柳生先輩、カッコよかったです(ファァ)」 
 静流は睦美を羨望の眼差しで見つめている。

「そ、そうかな?実はあれで結構ヒヤヒヤものだったのだよ。」

「裁判のゲームで『意義あり!』みたいなのありますよね?まさにアレみたいな?」

「ふむ。確かに私の能力からすると、弁護士も進路候補ではあるか」

「絶対お似合いですって!」

「うむ。候補に入れておこう(フンス)」
 二人はすっかり打ち解けているようだ。


「コホン。先輩とすっかり仲良くなっちゃってるよね?静流?」 
 すかさず真琴が横槍を入れてきた。

「すまん仁科君、居たのか」

「ええ、居ましたとも。私からもお礼を言わせて下さい。ありがとうございました」

「ふむ。ときに仁科君、キミは五十嵐君の保護者かね?」

「いいえ。ただの幼馴染ですけど?」

「まあ、そういう事にしておこう」

「ただ最近、静流の周りでいろいろ起こってるのは確かなんですよね」

「石動のような件か?」

「さすがにここまで酷いのはありませんが、周りの静流を見る目がちょっと……」

「それは恐らく、これが原因だろう(ドサッ)」
 睦美は数冊の薄っぺらい本を目の前に出した。

「最近生徒が持ってきたものを没収したものだ。これはほんの一部に過ぎん」

 静流が本を手に取ると、顔を真っ赤にして狼狽している。

「な、なんじゃあこりゃー!」
 静流はどっかの動物園にいたクマのように頭を抱え、首をぶんぶん振っている。


 「ピーチ・ボーイズ ドキッ!男だらけの水泳大会――ポロリもあるよ♪――」
 「うわ、濃いな」 

 「五十嵐クンは俺の嫁」
 「何これ、嫁って?」

 「草食系桃髪男子は肉食系女子に惚れる」
 「後ろからいきなりって、これじゃあ変質者じゃないか!」

 「アラサーOLは桃髪JKを拾う」
 「そこは男子でもイイのでは?もはや性別まで変わってる!世も末だ!」


「ふむふむ。ん?ここにホクロがあること、何で知ってるんだろ?」
 真琴がその本を凝視しているのに気づくと、静流は赤面して本を取り上げた。


「真琴!こんな有害なもの、見ちゃいけません!」
 静流はオカンのような口調で真琴を叱った。


「いいじゃん、ちょっと見るくらい!ただの好奇心だよ!」

「恥ずかしいから勘弁してよ」

「噂には聞いていましたが、まさかこれ程までとは」
(まずいわね、この件はあまり大きくしたくなっかたのに……)
 真琴はありきたりの感想を述べ、そっけない対応に努めた。

「キミが怒るのも無理はない。これは限りなく黒に近いグレーだ」

「僕には肖像権とか、無いの?」ウルウル
(ムハァ。これが「庇護欲」というものなのか?いかんいかん、落ち着け、どうどう)

「これらの本は先程みたいな呪いは付与されていない。が、しかし」
 さっと手をかざすと、

「あ、参考書になってる」

「これはだね、【隠蔽】やら【偽装】やらが巧妙に掛かっていて、実に厄介な代物なのだよ」

「まるで学校に持ってくるように誘導されてるみたい」

「ま、私位の能力があれば見破る事は造作もないけどな」

「やっぱすごいです、先輩って(ニパァ)」

「コ、コホン。で、肝心な所なのだが、その出版元には覚えないか?」 

「ん?『五十嵐出版』て何これ?分かりませんけど」

「そうか。では五十嵐という姓でキミの家族以外のものに心当たりないか?」

「特に聞いたことないですね。ただ……」

「ただ、何だい?」

「そういえば昔、身近にいたような……気がします」

「気にするな。五十嵐という姓は鈴木や佐藤ほどメジャーではないが、全くないわけではなかろう?」

「ええ、そうですね」

「私にも五十嵐姓で心当たりがあるお方がいるんだ」

「誰、です?」

「私の二つ上の先輩で交換留学した方だ。名を『五十嵐 薫子』お姉様だ!(ポッ)」

 睦美はその人の名を告げただけで顔が赤くなった。

「お姉様?」

「薫子お姉様は皆の憧れであり、容姿端麗、文武両道、つまり完全無欠であるお方なのだよ」

「そんな人がここに居たって、知らなかったな。」

「当然な反応だ。実は薫子お姉様を含め四人の留学生は、目下行方不明だ」

「何ですって?」

「一体何があったんですか?」

「どうも上の方から情報操作されている節があってな、留学は1年だったが実際2年が経過している。お姉様たちのクラスはこの間卒業してしまっているし、卒業した先輩方も留学生に関することは全く関心を示さなかった。この件についてはどうも霧がかかっているように感じる。学校側ではまだ留学中の扱いになっているらしいが、どうも腑に落ちん」

「先輩の【真贋】でも破れない強固な魔法が掛かってるのかな?」

「そうであろうな。あと言い忘れたが、薫子お姉様の髪は、桃色だ」

「てことはやっぱり、近親者の可能性が高いのかな?うんととぉーい親戚とか?」

「詳しく調べたいところだが、薫子お姉様は非常にミステリアスなお方なのだよ」

「写真とか無いんですか?」

「あるにはある、これだ」スッ
 睦美は懐から1枚のスナップ写真を出した。
 写真には睦美の肩を抱いてピースサインをしている桃髪の少女が写っていた。

「え?顔が、無い?
「ほんとだ、なんで?」

「実は私には見えているんだ。能力のおかげでな。でもかなり薄くなっている。もしかしたら薫子お姉様たちの存在が希薄になっている……のかもしれん」

「桃髪仲間としては、心配ですね」
「ま、あのお方の事だ。今ここにいきなり現われてもおかしくない」

「謎の桃髪美女……か」
 静流はまだ見ぬ謎のお姉様に思いをはせた。


              ◆ ◆ ◆ ◆


「結局のところ、同人誌の件はどうしますか?」

「うむ、出版社の場所を調べているのだが、よくわからんのだ」

「まさか、乗り込もうとしてます?」

「場合によっては、だがな」

「とりあえず傍観というか、放置ですか?」

「うむ、暫く様子見するしかなかろう」
 話がひと段落ついたところで、静流がこんな事を言った。

「今度、先輩に何かあって、僕にもやれることがあったら何でも言ってくださいね♪」

「な、何でも……か。嬉しいこと、言ってくれるじゃないか」
 (クゥ。たまんねーなー。よし、一丁やってみるか)

 睦美はここぞとばかりに畳み掛ける
「いいねそれ。じゃあ今度と言わず、君に一つ頼みたい」

「何でしょう?」


「私を『睦美』と呼んではくれまいか?(ドキドキドキ)」
 平常を装っているつもりなのだろう。


「睦美……先輩?」


「そう、それでいいんだ、静流……キュン」
 睦美は噛んだ。

「フフ、噛みましたね?僕は呼び捨てでも構わないんですけど、真琴みたいに」
 満面の笑みを浮かべる静流。

「そ、それはハードルが高そうだ。今は静流キュンでいいんだ」
 ぶんぶんと首を振り、自分を落ち着かせようとしている。

「今はって。まさか、それ定着させる気ですか?」

「問題なかろう?静流キュン?」
(ヤバイな、抱きしめてしまいたい衝動に駆られている。バカだな。石動じゃあるまいし)


 睦美と別れ、生徒会室を出た二人。

「伊藤さんに今日の記憶、消してもらおうかな?」

「バカね。そんなことしたって、変わらないよ」

「そうだよね。何より睦美先輩と仲良くなれた事は忘れられないよ」
 (こんなこと素でさらっと言える静流って、生粋の「たらし」ね)

 一方、生徒会室では――

「ムハァ、こりゃたまらん」

 例の薄っぺらい本を見ながら、息を荒くしている睦美がいた。

「ハァハァ。薫子お姉様が静流キュンとあんな事とかこんな事とか、桃髪姉妹ものとかもいいな。
出版社が見つかったら、この企画、持ち込むか?」
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