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第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード31-2

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 サンドクルーザーは、嘆きの川を超え、暫く走行している。

「おい、塔はまだか?」

 隊長はイラついていた。

「そう焦るな。塔は逃げない」
「ん? 移動出来るよ? あの塔」

 ブラムはとんでもない事を言い出した。

「何だって? 塔が移動可能だと?」
「うん。まあ権限があれば、だけどね」
「ブラム、塔を作ったキミだったら出来るんじゃないの?」
「うーん、行ってみないとなぁ、わかんないよ」

 そうこうしているうちに、前方に何かが見えて来た。

「おい、アレが塔か?」

 前方のモニターに、うっすらと映った影を見て、隊長はそう言った。

「ん? あれは違う、大昔に乗り捨てられた、宇宙船だ」
「宇宙船、ですって?」

 薫の言葉に澪が反応した。

「ああ。言い忘れたが、ココは地球じゃない。名前も知らない、『砂の惑星』だ」
「うっかり地球外に来てしまった、と言う事か?」
「かろうじて大気があって、太陽のようなものもあるのね?」
「あれは人工太陽だって母さんが言ってたぞ」
「いわゆる『ロスト・テクノロジー』ってやつか。こりゃあ、見つからないわけだ」

 サンドクルーザーが前進するにつれ、宇宙船らしきものの残骸がくっきりと見えて来た。

「うはぁ。完全にSFですね。これ、直るかなぁ? イク姉?」
「ふむ、私の【修復】でも、さすがにこの大きさは難しいだろうな」
「じゃあ、ロディに【コンバート】させればいいんじゃないかな? ガラクタはいっぱいあるんだから」
「名案であります! アレの修復が可能なら、宇宙探索も夢じゃない、と言う事でありますよね?」ワクワク

 ノリノリの静流の提案に、佳乃は目を輝かせて賛同した。

「このミッションが終わったら、少佐に相談してみましょう」

 はしゃいでいる静流を嬉しそうに眺め、澪はそう提案した。

「報告用に宇宙船の写真を数枚撮りたいんですが、大丈夫でしょうか?」

 澪は写真撮影を提案した。

「ん? 勝手にしろ、早くな」

 意外にあっさり撮影許可は下りた。

「うわぁ、イイんですかぁ」パァァ

 静流は小躍りしている。


              ◆ ◆ ◆ ◆


 宇宙船の近くに停車したサンドクルーザーの後部ハッチを開け、ぞろぞろと降りて来た。

「うはぁ、コレが宇宙船か」
「お約束の流線形でありますなぁ」
「ふむふむ。右側に被弾した跡がありますね。襲撃を受けてこの星に不時着した、とかでしょうか?」

 静流は目をキラキラさせながら、宇宙船の周りをぐるぐると回っている。

「静流クン? あまりはしゃいでると、砂に足を取られるわよ」

 澪は宇宙船の状態をカメラに収めていく。

「大丈夫だってばミオ姉、ちゃんと気を付けてるからって、うわぁ!」

 言わんこっちゃない。静流は転んで尻もちをついた。

「大丈夫ですか? 静流様?」
「はは、すいません、嬉しくってつい、ん?」

 萌に心配され、照れ笑いをしていた静流。するとお尻に固いものがあたった。

「何だろう? これ」

 静流がその辺りを掘り返すと、革製のポーチが出土した。

「これって、拳銃のホルスターだ。ベビーナンブのと似てるなぁ?」

 静流は、負い紐が付いている革製のホルスターを手に取って、中の拳銃を抜いた。

「あれ、全然錆びてないよ? 漢字で『14年式』って刻印が入ってる。帰ったらリリィさんに見てもらうか」
「静流様、蓋の裏に、何か書いてありますよ?」

 佳乃に指摘され、静流は蓋の裏を見て、目を疑った。

「え? 『五十嵐 静』って、父さん!?」
「何で静流様のお父上の名前がココに?」
「わからない。ただ、この星に来たのは間違い無さそうだね」


              ◆ ◆ ◆ ◆


 あの後、宇宙船をバックに全員で記念写真を撮り、サンドクルーザーに乗り込む。

「父さんがこの星に……」
「塔はもうすぐだ、あそこに行けば何かわかるかも知れないぜ?」
「そうですね。今は塔に集中しないと」

 宇宙船から数キロ離れた所に、塔はあった。

「あれが、『ワタルの塔』か……」

 サンドクルーザーを降り、周囲を一周回る。
 澪はカメラで気になる所を写真に収めていく。
 近くで見た感じは、塔の直径は約30m、高さは約100mはあると思われる。
 イタリアの世界遺産とは比べ物にならない位簡素であり、様式等には全くこだわりは無い。
 窓にはシャッターが閉まっており、外からは中の様子は見られない。
 窓の配置から、塔は10階層まであると推測される。

「そう。コレが『ワタルの塔』だ」

 薫は塔を見上げ、そう呟いた。
 静流はブラムに聞いた。

「ブラム、ココはキミが作ったって言ったよね?」
「うん。ここまで近くに来たのは、かれこれ1500年ぶり、位かな?」
「1500年!? 一体キミ、何歳?」
「イイじゃん、歳なんて、もう忘れたよ」
「こら、レディに気安く歳を聞くもんじゃないわよ? 静流クン?」
「すいましぇん」

 静流は澪に叱られた。

「中はどうなってるんだ? 薫」
「1階はロビーみたいなもんで、特に気にする所は無かったな。行こうぜ、こっちだ」

 薫は1階の入口を案内し、一同が中に入る。

「うわぁ、砂だらけだ」
「おかしいな。こんなになるはず、無いのに」
「ブラム、どういう事?」
「ここはね、3階の管理室にあるコンピューターで制御されてて、こんなに砂が入って来る事なんか、無いんだよ。えーっと、これがエレベーターで、あり? 動かないや」
「それは、俺がココに来た時からそんな感じだったぜ?」
「おかしいなぁ、電源が落ちてるなんて」
「とりあえず2階までは、その螺旋階段を使えば行けるんだけどな」

 薫が指差したのは、エレベーターの脇にある螺旋階段であった。

「シズル様は3階に用があるんでしょ? 電源が来てないと、入る事も何も出来ないよ?」
「それはマズいよ。じゃあ、電源を入れるのが優先か……う~ん」

 静流は顎に手をやり、うなっているが、何も思い浮かばない。

「電源室ってこの奥かしら? 行ってみましょうよ?」
「うん。そだよ。こっち」

 好奇心の強い澪が、目を輝かせながらグイグイみんなを引っ張っていく。

「静流様、こういう時は澪殿が頼もしく思えるでありますな」
「全くだよ」
「お、おい、隊長は私だぞ!? 置いてくな!」
「隊長は、もっとしっかりしてください!」

 萌は溜息をつき、隊長をいさめた。


              ◆ ◆ ◆ ◆

ワタルの塔―― 電源室

 六畳ほどの部屋に、大きな制御盤が鎮座していた。
 計器が壊れており、まるで人為的に壊されたようであった。

「これって、誰かが壊したみたいですよね? しかもそんな昔じゃなくて」
「補助電源は動いてるみたいだね。でも主電源がこれじゃあ……」

 ブラムは途方に暮れていた。

「こういう時こそ出番ですよ? 隊長?」
「む、むぅ。わかっておるわい! 直せばイイのだろ? 直せば!」
「そうです。 お願いします」

 澪は隊長に【修復】を掛けてもらう事にした。 
 隊長は制御盤の前に立ち、手のひらを交差し、制御盤に照準を合わせる。

「行くぞ!【レストレーション】!!」パァァ

 隊長の手のひらから金色のオーラが放出され、壊れていた計器が元に戻った。

「ふう。終わったぞ。未知の物だ。直っているかはわからんぞ?」
「ブラム、調べてくれる?」
「うん、大丈夫みたい。電源入れてみよっか」

 ブラムは具合を確かめ、ブレーカーをONにした。

 ブゥン―― バチィ! キュゥゥゥン

「やった! 動いた!」
「どうだ見たか? 静流、私の力を」

 隊長は、「撫でろ」と言わんばかりに頭を差し出してくる。

「お手柄だよイク姉! やっぱりイク姉はスゴいや!」ニパァ

 静流は、満面の笑顔で隊長の頭を撫でた。

「ムハァ、イイぞ。もっと褒めろ!」

 隊長は静流に撫でられ、目を細めている。
 すると、部屋の照明が点灯し、ロビーの方で物音がしている。

「うん。正常に動き出したみたい。さっきの所に戻ってみたら、きっと驚くかもね?」

ワタルの塔―― ロビー

 ブラムに言われ、ロビーに戻ってみる。

「うわぁ、あっという間に部屋が綺麗になってる」
「スゲェな。砂にまみれた廃墟だったんだが」

 静流と薫が見違えるように綺麗になった部屋を見て、それぞれの感想を述べた。

「空気清浄器が動いてるから、もうマスク取っても、大丈夫だよ」

 ブラムにそう言われて、一同はマスクを取った。

「ふう。空気が美味い」
「隊長、空気の味なんてわかるんですか?」
「わかるさ。ドワーフは鼻が利くんだ」

 ふんっと胸を張り、ドヤ顔をしている隊長に、忍が話しかけて来た。

「隊長さんって、名字、『榊原』さんでしたよね? ドワーフの血が濃いって本当?」
「ん? ああ、確かにウチの家系は『ドワーフ族』の血が濃いらしいぞ?」
「ご先祖に、『ロロ』さんって女性、います?」
「ロロ?……おう、初代村長の娘が確かロロだったな。それが何だって言うんだ?」
「榊原ロロは、ワタルの四番目の妻、だった」
「何ィ? って事はもしかして、ロロという娘が、ココにおったと言うのか?」
「うん。ロロちゃんは確かにここにいたよ」
「ふむ。だからと言って私には関係……あるのか?」
「隊長さんがロロちゃんと血縁関係があったとしたら、もっと上の階層に行けるかも、知れないの」

 ブラムは少し曇った表情でそう言った。
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