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第5章 夏の終わりのハーモニー

エピソード35-14

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露天風呂 混浴エリア ――

 静流たちは混浴エリアに着いた。
 昼間に行った時の隣の、女湯側に。

「そう言えば昼間、ココに何人入ったの?」 
「えーっと、6人だっけ?」
「ぎゅうぎゅうじゃないか」
「元々一人ずつなのにね」

 今は3人なので、多少余裕がある。

「全く、あの人たちってば、大人なのか子供なのか、わからないや」
「静流がそうさせてるんだよ? わからない?」
「それって、僕に精神年齢を合わせてくれてるって事?」
「みんな、若返ってるんだよ」

 そんな事を話していると、美千留が展望ガラスのシャッターに手を掛けた。

「しず兄、開けるよ!」ガララ

 シャッターを開けると、夜空には満点の星空が広がった。

「うわぁ、スゴい。天然のプラネタリウムだな」
「この景色観れただけでも、ココに来た甲斐があったわね」

 暫しの沈黙のあと、静流は真琴に聞いた。

「どうだった? 少しは楽しめたか?」
「うん。イイ思い出になったよ」

 真琴は星を観ながら、静流にそう言った。
 静流は伸びをして、壁にもたれかかった。

「うーん。今年の夏休みは、特に濃かったなぁ」
「留学から帰って来て、すぐに冒険だったもんね」
「伯母さんや薫子お姉様とか、薫さん達にも会えたし、父さんの手がかりも見つかったしね」
「しず兄、私もお姉様に会ってみたいな」
「大丈夫。直ぐ会えるよ。驚くぞ?同族だぞ?」
「お父さんにも、会えるかな?」
「父さんの件も近いうちに進展がありそうなんだ」

 静流が嬉しそうに美千留に語っている様子を見て、真琴は溜息をついた。

「静流……あまり遠くに行かないでよ」
「え? どこにも行かないよ」
「どうだか。結構寂しかったんだぞう?」つん

 真琴は指で静流をつついた。

「悪かったよ。これで、埋め合わせ出来たろう?」
「そういう事にしておくわ」

 暫く三人で星を眺めていた。その時、

「いやぁ、久しぶりに盛大にイッたなぁ。一人でするのとエライ違いですよね?」
「私なんて、ざっと50年ぶりかしら? 臨界点突破は」
「お姉さんが悔しがるんじゃないすか? こんな事があったと知ったら」
「まぁね。でもあの人には絶対言わないのよ? 今夜の『至福の一夜』の事は」
「枯れ木が潤ったのなら、めでたいではないか。ハハハ」
「だまらっしゃい!」

 ぞろぞろと団体客が入って来たと思ったら、三人部屋で寝かせたはずの少佐、リリィ、イク姉だった。

「うわ。向こうで声が聞こえるのって、アマンダさんたちだよね?」
「そうみたい。回復早すぎ?」
「ヤバいな、もう出ようか?」
「でも、今出ると見つかっちゃうよ?」
「どうかな? 潜水で行けば、夜だし、わからないんじゃない?」

 三人でこの局面をどう乗り越えようかと相談していると、

「イエーイ! 楽しんでるぅ?」ブブブ

 何と、ブラムがオマルのような小型のスワンボートに変身したロディに乗ってこちらに近付いて来ている。

「しめた! この騒ぎに乗じてココを出るぞ」
「「わかった!」」

 ブラムが混浴エリアに近付くと、静流が手招きした。

「おいブラム! 僕たちを乗せて脱衣所の方まで行ってくれ!」
「え? うわぁ、キレイなひとぉ」
「静流様、お乗り下さい」グイーン

 ロディは、4人乗りのオマル型ジェットスキーに変身した。

「さあ、乗って」
「アナタ、シズル様なの? スッゴイ美人さんじゃない?」
「ちょっとね。しばらくしたら、元に戻るよ」
「行くよ! それ」ブワァー!

 静流はみんなが乗った事を確認すると、おもむろにスロットルを開けた。
 ロディのオマル型ジェットスキーは、水しぶきならぬお湯しぶきを上げ、猛烈に加速した。

「ん? あれって、昼間の……ってダッシュ6が運転してるわよ!?」
「ここ、お風呂だよね?」
「私も乗りたいぞ! 早く代われ!」

 ギャラリーがそんな事を言っているのも完全無視で、入口に急行する静流。
 ものの数十秒で到着した。

「助かったよロディ、ブラムも」
「よくわかんないけど、お役に立ったみたいね」

 ロディから降りた静流は、すかさず脱衣所に向かった。

「ふう、助かった。とりあえず浴衣を着ないと」
「結構面白かったよ」
「そうね。スリルはあったかも?」

 三人は手早く浴衣を着て、髪も乾かぬうちに脱衣所を出た。

「まだ髪乾いてないよぉ」
「部屋で乾かせばイイだろ?」
「わかってないなぁ、髪は女の命なんだよ?」




              ◆ ◆ ◆ ◆



402号室 ―― 深夜

 その後はこれと言ったトラブルも無く、無事に402号室に着いた。
 部屋のドライヤーで、美千留と真琴が交代で髪を乾かしている。
 
「次、しず兄。コッチ来て!」
「イイよ僕は。その内乾くよ」
「ダメ! 枝毛になっちゃう」
「ほら、観念しなさい」
「わかったよ。座ればイイの?」

 そう言った真琴に、ドレッサーの椅子に半ば強引に座らされた静流。
 ドライヤーを持つ美千留と、ブラシを持つ真琴。
 二人のドライヤー・アンド・ブラシが、静流の髪を見る見るうちに乾かしていく。
 そしてデフォルトの縦ロールにブローされていく。

「しかし、うらやましいわね、このサラサラヘアー」
「何も手入れしないでこの髪質、はぁ、私の苦労がバカみたいじゃん!」

 まるで美容院の客みたいに成すがままになっている静流。

「結構気持ちイイな。髪の毛とかしてもらうのって」
「そう思うんだったら、これから毎日、わたしの髪もとかして」
「そんな技術ないよ、イイのか? 僕みたいにボサボサになっても」
「それは、困る」
「そうそう。それでイイんだよ」

 髪が乾き、一息ついた三人。

「ふう。危なかった。捕まったら『ワカメ酒』とかやらされそうだったな」
「さすが軍人ね。【状態異常】に耐える特訓でもやってるのかしら?」
「でも、全員じゃなかったよ」
「そうね。レヴィさんや澪さんなんかは、事務系なのかな?」
「でもあの部隊って、みんな人型兵器に乗ってるはずなんだけどなぁ」
「佳乃さんも起きなかったね」
「佳乃さんは泥酔状態だったでしょ?」
「まあイイか。さてっと、寝るか?」

 402号室は二人部屋であるので、例によって二つのベッドを連結させた。

「真ん中はしず兄ね。早く来てよ」
「くどく言っとくけど、いつ元に戻るかわからないんだからな?」
「それがイイんじゃない。ほら早くぅ」
「もう、知らないからな。とう!」

 静流は勢いよく二人の間に飛び込んだ。

「きゃあ! んもう、静流ったら」
「むふぅ。イイ匂い」
「確かにイイ匂いね。同じボディーソープ使ったのに?」

 二人に匂いを嗅がれ、顔を赤くする静流。

「ちょっと二人共、くすぐったいよ」
「実にけしからん胸じゃ! こうしてくれよう」むにゅぅ
「ひゃん! こら、止めなさい美千留」
「お客さん、感度良好でげすねぇ?」ぷにゅぅ

 二人はからかい半分で静流の胸を揉みしだいた。

「止めてって、くふぅ、ヤバいって、もう」
「よいではないか」
「体は正直よのう。止めないでと言うておる」
「あっ、くぅ、もうダメぇ」

 顔を紅潮させ、悶えている静流に、二人は愛おしさを感じていた。

「私たちの愛撫も、捨てたもんじゃないわね?」
「イイぞ、このままイッてしまえ!」



    「あふぅーん」



 そう言ってのけ反る静流。すると全身が桃色のオーラに包まれた。
 オーラが無くなると、そこには浴衣をはだけ、上半身裸の元に戻った静流だった。
 昇天したのか、気を失っている。

「イッたら、元に戻っちゃったね?」
「でも、気持ちよさそうに寝てるよ、静流の奴」

 二人は、静流に寄り添うようにして眠った。
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