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第6章 時の過ぎゆくままに

エピソード36-1

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2-B教室―― 始業式

 バラエティに富み、静流にとっては忘れられない高2の夏休みが終わり、今日は二学期の始業式だ。
 ホームルームの後、校庭で先生方の話を聞き、式は終了した。
 教室に戻り、席に着く。

「おす達也、焼けたなぁ、お前」
「おう静流か。そう言うお前は全然焼けてねえな。南の島に行ったんだろ?」
「僕の家系って、お肌が弱いんだよ。日焼け止め塗りたくったし」

「おはよう、朋子」
「おはよう、真琴」
「で? どうだったの真琴? 旅行は」
「別に、何も無いけど?」

「ふう。コレだもんなぁ、思った通りだろ? 朋子?」
「そうだね。 達也」

「おいおい、お互いに名前で呼び合ってるって事は?」
「朋子、アンタ、まさか」


「へへ。『ひと夏の経験』、しちゃった♡」


「達也! おめでとう! やれば出来る子だと思ってた!」
「ちょっと、朋子、本当にコイツで良かったの?」

「イイも悪いも、わかんないよ。もう」ポォォ
「俺は、お前で良かったと、思ってる」

「はいはい、ご馳走様。でも、ちゃんと着けたんでしょうね?」
「へ? 何を?」
「何って、アレよ、アレ」
「アレ? って、うわぁぁ、ちち、違うよ真琴ぉ、キス……しただけ」

 暫く沈黙が続いた。

「あたしってば、何言っちゃってんだろ」カァァ
「何だよ真琴? 顔真っ赤だぞ?」

 真琴は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

「ば、バカだね、お前たち、いやらしい」
「と、とりあえず、そう言う事だから」 
 
 友達二人はめでたく付き合う事になった、らしい。
 報告が終わった朋子は、おもむろに携帯を取り出した。

「で? 五十嵐クンは、この写真のどの子が好みなの?」

 朋子は真琴からもらった、軍の保養施設で撮った記念写真の写メを見せた。

「俺の予想じゃあ、このちょいポチャのお姉さんだと思うな」
「あら? 私の見立てだと、この金髪の子だと思うけど」

 達也は澪を、朋子は萌を指差した。

「好みって、みんな年上の社会人だよ? 僕なんか相手にされて無いよ」
「本当なの? 真琴?」
「うんにゃ、全員静流にメロメロだったよ」フン

 真琴は真実を包み隠さず報告した。

「ば、バカだなあ、アレは社交辞令なんだよ。あと『薄い本』のファンとかだったり」
「五十嵐クン? みんなに好かれてるって事については、悪くは思ってないでしょう?」
「う、うん。普通に嬉しいよ」
「それで良し。そうでしょ、真琴?」
「それでイイ、と思う」
「どう言う意味?」

 静流は、目の前の女子二人が話している事が、今一つ分からなかった。

「もう認めなよ、五十嵐クン、キミは結構人気者なんだよ?」
「そうだぞ静流、お前のモテ期は、永続的なんだからな?」
「はいはい、見た目はね。そこの萌さんだって、初対面は僕の事、変な子扱いだったよ」

 静流は萌を指さした。

「で、最近はどうなの?」
「うーんと、いつもポーッとしてる、かな?」
「そら見なさい、デレデレじゃないの」

 朋子の指摘に納得してない静流は、口をとがらせながらこう言った。

「百歩譲って、僕がモテてるとして、僕は何かファンサービスとかする必要あるの?」
「ううん、必要無い。そのままのキミでイイのよ」
「結局そのままでイイのかい! よくわからないよ。ファンの心理が」
「そう言うもんなの。ね? 真琴?」
「え? そ、そうね」

 どこか上の空だった真琴であった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 始業式の最大イベントとも言える、席替えを行う。
 静流は何故か一番後ろの席になる事が多い。

「また後ろか。言っとくけどズルとかしてないですからね?」
「わかってます。ちゃんと公平にクジで決めたんですから」

 静流はつまらなそうにムムちゃん先生に愚痴った。

「で? いつも隣は仁科さん、アナタなのは何故かなぁ?」
「そんなの、わかりませんよ。公平なクジなんですよね?」

 ムムちゃん先生に疑いの眼差しを向けられ、少しキレ気味の真琴。

「私だって、たまには他の席に着いてみたいですよ」

 真琴は頬杖を突き、ふてくされている。とそこに、

「じゃあ、アタシと代わってよ、真琴」
「イチカ……わかった。代わろう。イイですよね? 先生?」

 真琴は同じ列の二つ前にいる、篠崎イチカと席を変えるつもりだ。

「そうね。やっぱりいつも同じじゃあ、つまらないもんね?」
「やったぁ、シズルンの隣、ゲェーット!」

 イチカは拳を固く握り、心の底から喜んだ。

「篠崎さん、大袈裟だよ。みんな引いてるよ?」
「イイのイイの。フッフッフ、モブにも春が来たってヤツ?」
「まだ夏だし? 変なの」

 二人のやり取りを背中越しに聞いている真琴。

「平常心、平常心よ」ゴゴゴゴ

 真琴は小声でそう言って微動だにしない。

「おい、何か暑くないか?」
「鈴木クン、氷結魔法掛けてよ」
「掛けるって、どこにだよ?」
「真琴ちゃん、に」

 静流とイチカのやり取りを背中に感じ、嫉妬の炎を燃やす真琴。

「うわぁ、ムムちゃん先生、これじゃあ、たまんないっす」
「困ったわね、じゃあ小倉さん、仁科さんと代わってあげて頂戴?」

 ムムちゃん先生は、小倉さんに「スマンのポーズ」をして、真琴と席を代えさせた。

「うぇ? 折角五十嵐クンの右隣になったのに……わかりました。トホホ」ガタ

 席を移った真琴の体表温度は、次第に下がっていった。

「はふぅ、助かった」
「鈴木クン、お疲れ」

 真琴の周囲に氷結魔法を掛けていた鈴木がやっと解放され、安堵の溜息をついた。

「真琴も素直じゃないなぁ、だから進展無いんだよ」
「イチカ? 調子に乗るんじゃないわよ?」ゴゴゴゴ

 イチカの挑発に珍しく突っ掛かる真琴。再度、体表温度が上がっていく。

「おい、静流、『森の精霊』が山火事起こしそうだぜ、何とかして鎮めろよ」
「真琴、どうどう、落ち着けって」
 
 達也がたまりかねて静流に火消しをやらせる。

「『しののん』、ダメでしょ? 反省は?」
「反省!」ちょこん

 静流の言葉に、イチカは従順に従い、反省のポーズをとった。 

「おお? 素直に従ったぞ?」
「やるう、五十嵐クン」パチパチパチ

 静流がイチカを一瞬で黙らせた事に、周りから拍手が沸いた。 

「『しののん』ってそれアンタ、いつの呼び方よ?」
「小学校低学年の時、そう呼んでたの思い出したんだ。確か『篠ちゃん』からいつの間に『しののん』に変わったんだと記憶してる」
「覚えててくれたんだ。嬉しい」パァ
「だそうですよ、マコちゃん?」
「止めてよ静流、恥ずかしいでしょ? イイわよ呼び捨てで。はぁ、バカみたいじゃない、私が!」

 真琴の体表温度が平熱まで下がった。どうやらバトルは回避されたようだ。
 すると、別の所で何やら騒いでいる。

「シズムちゃんは、五十嵐クンの近くにいなくてもイイの?」
「うん、大丈夫。静流クンとは『心』で繋がってるから」ニパァ

「か、カワイイ」
「何て健気なの? 尊い」
「しおらしい。いじらしい。可憐だ」

 シズムの百点満点の回答に、周りの者はえらく感心している。

「マコちゃん、ちょっとはシズムちゃんを見習ったらどぉ?」

 イチカがまた真琴をいじった。

「ぬわんですってぇ?」ゴゴゴゴ

 このあと、この配置では授業に支障ありとみなされ、イチカと真琴は当初の席に落ち着いた。
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