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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-16

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生徒会室―― 次の日

 次の日の放課後、静流は生徒会室に行った。当然真琴を連れて。

 コンコン「失礼します」ガラ

「やぁ静流キュン、昨日はお疲れ様」
「その節は、お世話になりました」ペコリ
「ど、どうしたんだい? そんなにかしこまって」
「実はですね、かくかくしかじか……って事になってしまって」

 静流は、申し訳なさそうに睦美にあの後の事情を話した。
 睦美は『あのポーズ』をとり、静流の話を聞いた。

「ふむ。なるほど、そう来たか」
「どうでしょう? 正直に説明して、無かった事にしますか?」
「それは悪手だな。とりあえず軍にいるキミの理解者たちの見解を聞いてからでも、決断は遅くはないと思うな」 

 睦美はこの案件について再度確認した。

「問題点を整理してみよう。要点はこうだ」

 ・太刀川に講師として呼ばれたのは静流である。
 ・しかし実際に講義を行ったのはシズルー大尉に扮した静流だった。
 ・シズルーの講義が好評だった結果、他の駐屯地からオファーが来てしまった。

「先輩、最悪のケースは、静流がいちいち軍の呼び出しに応じなきゃならなくなるケースですよね?」
「確かに真琴クンが言う通り、このまま言う通りに対応していては、その内軍にアゴで使われる事になりかねないね」
「それは困ります。それじゃあ授業に出られない以前に、僕の生活環境自体が変わってしまいます」

 真琴が思いつくままに対応策を述べる。

「太刀川は例外中の例外で、『一度きり』という事で承諾した事にする、とかはどうでしょう?」
「弱いな。もっと確固たる理由を付け加えねば」
「じゃあ、シズルーと言うキャラクターの性質上、報酬を吊り上げて、易々とオファー出来ない設定にすれば?」
「うむ。悪くない。が、それでも来てくれと言う所もあるかも知れないね。何せ、今後の回復術士という役割の定義が見直される位の出来事だからね」
「そんな大袈裟な……」
「そうでもないさ。私も受講者たちの成長を目の当たりにしたが、その位の価値はあった、と思うね」

 静流は、今更ながら自分がやった事の重大さに後悔した。

「参ったな、どうしよう……」
「静流キュン、この件は私に任せてもらえないだろうか?」
「睦美先輩、どう言う意味、ですか?」
「私が直接軍と話を付ける。なぁに、悪いようにはしないさ」
「先輩? そんな事、出来るんですか? 相手は軍ですよ?」
「問題無い。【交渉術】は心得ているつもりだ。楓花には敵わないが」

 心配そうな真琴に、睦美は自信たっぷりに言い放った。

「僕はどうすれば?」
「済まないが、この件からは一旦離れてもらいたい」

 静流は躊躇し、少しの沈黙後にゆっくりと口を開いた。

「……わかりました。全てお任せします」
「結構。任された以上、最善を尽くすよ」

 睦美は手ごたえを感じ、ゆっくりとうなずいた。 

「イイの? 静流はそれで」
「イイも何も、僕だったら土下座レベルの事しか、浮かばないから」
「わかった。もう聞かない」

 真琴は再度自分の無力さに腹が立った。

「一応、意思確認をしておこうかな?」
「何をです?」
「静流キュン的には、万が一シズルーとして今後も活動する事になった場合、断固拒否するかい?」

 睦美にそう聞かれ、「う~ん」とうなったのち、静流は答えた。

「……そうですね。確かにやらないで済めば御の字ですが、たまにならイイかな、と」
「ほう。その心は?」
「昨日やってみて思ったのは、受講生たちが愛おしく感じましたね。生意気ですけど」
「何だって? そいつはどう意味だい?」

 予想外の回答に睦美は少し慌て、腰が浮いた。

「もちろん恋愛とかじゃなくて、先生って、生徒が成長していく過程を喜んだりして、そういう瞬間に生き甲斐を感じているんだな、と」
「こら、意味深な事を言うもんじゃないぞ? 少し不安になってしまったではないか?」
「はは、すいません。深い意味は無かったんですけどね」

 睦美の困った顔を見て、静流は少しイジワルが言いたくなった。


「頼りにしてますよ? 睦美先輩?」ニパァ


「はっひぃ~ん」

 睦美は静流のニパを食らい、背もたれに体重を預け、ひっくり返りそうになった。

「もう、先輩、しっかりして下さいよ! 静流の今後が掛かってるんですからね?」
「す、済まん真琴クン、もう大丈夫だ。先ずは向こうの出方を見てからだな」

 静流たちは生徒会室を後にした。

「全く、次から次と問題が絶えないわね? 静流様は」
「イヤミかよ? 僕はごくごく平穏な日々を過ごしたいんだぞ?」
「いっぺんお祓いしてもらったら? オカ研に」




              ◆ ◆ ◆ ◆




アスガルド駐屯地 魔導研究所内 ブリーフィングルーム――

 アマンダは、いつものメンバー、リリィ、仁奈、レヴィをブリーフィングルームに呼んだ。
 いつになく神妙な顔付きのアマンダに、リリィが聞いた。

「何かトラブルでもあったんすか? 少佐殿?」
「これを見なさい。おチビからのメールに添付してあったの」

 少佐はプリントした写真を数枚、リリィたちの前に置いた。
 
「ん? これって、静流クンよね?」
「変装してるけど、間違いないわね」
「こ、このお姿、もしや、『シズルー様』では? へぶぅ」

 例の太刀川でのスナップである。中央の男性が静流である事を、リリィや仁奈は勿論、レヴィに至っては変装している男がシズルー・イガレシアスである事まで言い当てた。

「先日、静流クンが太刀川駐屯地で、回復術士の講習会の講師を務めたの」
「ああ、向こうのドクターが言ってましたね? 召喚するのに知恵を借りたい、とか?」
「ええ。それで結果は予想以上だった。途中ハプニングがあったけど、静流クンの活躍で事なきを得たみたい」
「良かったじゃないすか! 軍から恩賞が出たりして?」
「そんなんで済めばよかったんだけどね……」

 アマンダはふう、とため息をついた。

「何か問題でも?」
「その一部始終を他の駐屯地所属の者に見られたらしくって、自分の所にも寄こせ、と問い合わせが殺到してるみたい」
「商売繁盛でイイじゃないすか?」
「バカね。静流クンは今回こっきりと言う約束だったから、架空の人物に変装していたのよ? これからも騙し通せるかしら?」
「確かに酷だわね。しかも学校は? 日数不足で留年なんて、目も当てられないわよ?」
「それはマズい。何とか回避する策を練らないと……」

 アマンダに言われ、みるみるうちに落ち込んでいく仁奈とリリィ。
 レヴィは写真を見て、ある事に気付いた。

「後ろにいる方は、藤堂ルリ少尉殿ですよね? 少佐殿」
「そうね。それにこの子、例の谷井蛍でしょ?」
「何と! もう遭遇されてしまったのですね? マズいですね、はっ! このメールって、榊原中尉からって事は……もうバレバレなのですね?」
「恐らく勘付いてる。そっちの対策もやらなきゃ、ああー! 参ったわね」

 アマンダは頭を抱え、動物園のヒグマのようなポーズをとった。

「ん? 衛星回線に入電です、少佐殿」
「何ですって? ああ、静流クンの先輩か」
「何々? 今回の対策会議を、ライブチャットで行いたい、らしいです。この回線を使って」
「そうね。みんなの意見も参考にしたいわ。よし、やりましょう」

 次の日、以前ライブチャット計画に使用する事になった、廃棄が決まった軍事衛星を使い、軍と生徒会の首脳会議が行われる事となった。
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