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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード41-4

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五十嵐家―― 静流の部屋 

 静流のの部屋でリラックスしているロディは、デフォルトの濃灰豹モードで、床で丸くなっている。
 静流はふと何かを思い出し、あらかじめ図書室で借りて来た本をロディの前に置く。
 
「静流様、この本は?」
「面接の時に役に立つと思ってね。さっき借りて来たんだ。【リード】しておいて」
「承知しました。【リード】」パァー

 積み上がっていた本が、次々に読破されていく。 
 静流が借りて来た本は、

『アイドル虎の巻 ~地下からメジャーへ~』
『女優の極意 ~天然から計算へ~』
『芸能界のタブー』

 とまあ多種多様な本であった。
 また、美千留から借りた、

『カラスのお面』
『満月をかくして』
『ステップ・ボート!』
『出口アリ』

 と言ったアイドルや女優がらみの漫画をシズムに渡した。

「この位予備知識があれば、何とか乗り切れるんじゃないかな?」
「恐らく、問題は無いかと」

 静流は、黒ミサから渡された芸能事務所のパンフレットを、ベッドに寝転びながら確認する。

「ええと、事務所は、『ミフネ・エンタープライゼス』か。おーい、美千留ぅ!」
「何? しず兄」ガチャ
「お前、芸能界に興味あるんだろ? ここの事務所、知ってるか?」
「何? ミフネ、って、超大手じゃない!」
「え? そうなの? じゃあ白黒ミサ先輩って、結構スゴいのかな?」
「あのひとたち? まあまあ有名だよ。地下レベルだけどね。ふぅん、ここ受けるんだ」

 美千留が言うには、白黒ミサたちはそこそこ有名らしい。

「この事務所、間違いなくトップクラスだよ。まさか、シズムちゃんもココに?」
「う、うん。その予定」
「ホントに大丈夫、なの?」
「どう言う意味だよ?」
「私はてっきり。う~んと弱小の事務所だと思ってた。それが超大手企業だよ? 冗談じゃ済ませられないよ?」
「お前がその立場だったら?」
「速攻断る、かな? 表向きとは裏腹に、馬車馬のように酷使されて、要らなくなったポイ、なんてね」

 美千留が芸能事務所に抱いているイメージって……。

「ちょっと心配になって来た。あと2日か。ああーっ!」

 静流は頭を抱え、ゴロゴロとベッドを転がっている。

「今更ジタバタしてもしょうがないじゃん、しっかりしてよ」
「そうだな。シズム、頼んだぞ?」
「かしこまりました。お任せ下さい」
「ん? ミフネ? 何か気になるなぁ……」




              ◆ ◆ ◆ ◆




JR西国分尼寺駅―― 土曜日 面接当日

 ついに当日となり、白黒ミサと駅前で待ち合わせる。
 静流は家を出る際に、ユズルに変装済みである。
 二人並んでいると、本当の兄妹のようだ。
 すると黒いワゴンが静流の前に停まり、スライドドアが開く。

「お待たせしました。どうぞ中に」
「おはようございます。あれ? 電車で行くんじゃないんですか?」
「シズムンと静流様が電車に乗り合わせたら、大混乱になりますよ」
「それにしても素晴らしい。見事な変装です。これならどう見ても兄妹ですね? ムフゥ」

 ワゴンに乗り込み、運転席を見ると、何と木ノ実ネネが運転していた。

「あれ? 木ノ実先生?」
「おはよう五十嵐クン、井川さんも」
「先生、おはようございます」

 ドアを閉め、ワゴンは走り出した。
 ネネは当然、シズムが本だと言う事を承知しており、茶番に付き合っている形になっている為、静流は驚いた。

「どうして木ノ実先生が?」
「私、一応黒魔の顧問だから。あとこの子たちの進路の事でしょう? 協力するわよ」

 ネネはそう言うと、運転に集中した。
 暫く走り出した所で、静流は思い出したように白黒ミサに言った。

「しかし驚きましたよ、先輩たちが受ける事務所、妹から聞いたんですけど、スゴい所らしいじゃないですか?」
「まあ、ちょっとしたコネ、ですよ」
「コネ? ですか?」
「ええ。しかし美千留様かぁ、素敵になられたんでしょうね?」
「いえいえ。アイツはただ乱暴で狂暴な殺戮天使ですから」
「またぁ、聞いてますよ? スカウトが引っ切り無しに来るって」
「え? そうなんですか? アイツ、そんな事一言も言わないから」
「ま、そう言う事にしておきましょう。美千留様の名誉のために」
「でもスゴいコネ持ってるんですね? 地下アイドル同士の横の繋がりとか?」
「フフ。そんなんじゃありませんよ。最強のカードは、私たちにあるのですから」

 静流は黒ミサが言った事が、今一つピンと来なかった。するとネネが言った。

「『ミフネ』って名前に、心当たりはあるかしら?」
「ミフネ? ……あ! 校長先生!?」

 静流は、抱いていた違和感が一瞬で晴れた。

「三船校長のご家族をご存じかしら?」
「ええ。たしか8人兄弟でしたよね。長男の方はお亡くなりになってて、六男と七男の方には以前にお会いしました」
「校長は三男。事務所の代表は四男、って聞いてるわ」
「なるほど。納得です」

 ポンと手を打った静流は、白黒ミサに改めて聞いた。

「そうだったんですね。じゃあコネって校長先生の?」
「イエスです。ゴリ押しです。それもゴリゴリに」
「そこは実力って言って欲しかったな……」
「イイんです! 入ってしまえばコッチのもんです」

 二人はうんうんと頷いた。

「今日の予定ってどんな感じなんです?」
「ええと、私らはAスタで、他の候補生と最終選考ですね」
「シズムンは直接、事務所の重役と面談の予定です」
「うぇ? いきなりですか?」
「シズムンの場合、事務所側からのラブコールですからね。面接と言うより、『歓待』というか『接待』に近い待遇でしょう」
「ますますマズいな。相手先をガッカリさせたりしちゃったら、どうしよう?」
「五十嵐クン、今はシズムちゃんのお兄さんでしょう? もっとしっかりしなさい」
「は、はい。ってまさか、僕も同席するの!?」
「当然でしょう。妹の進路よ?」
「ヤバい。緊張して来た」
「アナタが緊張してどうするの?」




              ◆ ◆ ◆ ◆



小泉撮影所―― 

 面接会場は、寝留馬区の小泉学園にある、小泉撮影所であった。
 候補者を実際に撮影し、カメラ映え等を確認する為である。
 駐車場に車を停め、管理棟に向かう。

「へぇ。ココが撮影所かぁ」
「静流様、もといユズル様のお目当ては、向こうのスタジオですね」
「あと、あそこの大道具棟には、色々なコスチュームがあるんですよ?」

 白黒ミサが道すがら案内してくれる。 
 
「うわぁ、ココで撮影してるんだ。スゴいなぁ」

 管理棟で受付を済ませ、ネネがワンデーパスをみんなに配る。

「とりあえずAスタジオに行くわよ」
「了解」

 ネネは先生らしく、みんなを引率する。
 Aスタジオは徒歩で数分の所にあった。建物の壁に「STUDIO A」と大きく書いてある。 
 エントランスで白黒ミサは立ち止まり、静流に頭を下げた。

「それでは、行ってまいります。静流様」
「頑張って下さい! 影ながら応援しています!」
「は。あり難き幸せ」

 そう言って静流に微笑みかけた二人。

「幾ら校長のコネがあるからって、過信しないで心してかかりなさい!イイわね?」
「「はい!」」

 ネネに激励を受けると、二人は口元を隠し、ネネに言った。

「クス。先生、声大きいですよ」
「緊張はしていないようね? さぁ、行って来なさい!」

 二人が建物の奥に入って行く様を、三人は見送った。

「ふう。次はこっちか。行くわよ?」
「「はい!」」
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