上 下
218 / 516
第8章 冬が来る前に

エピソード46-3

しおりを挟む
ワタルの塔 二階 応接室―― 夜

 その後静流たちは、応接室で夕食を摂った。
 静流の隣には、当たり前のように忍が座っている。

「この後の予定は? 静流クン」

 ジェニーの質問に、静流はアマンダのメールをプリントアウトしたA4の紙を見た。

「ちょっと待って下さい、ええと、この後、入浴とか自由時間で、最後に仮眠室にある睡眠カプセルで消灯、体内時計を調節します」
「成程。さっきのが睡眠カプセルね。寝ている間に体内時計を調節出来るって、ロストテクノロジーの成せる技ね」
「さらに、プログラム入力で、自分の好きな夢を見ることが出来るのがイイのだ!」
「え? 郁ちゃん、何でも好きな夢が見れるの?」
「プログラム次第だな。以前は酷い目に遭ったが、今回はバッチリだ! な、忍?」
「任せて。期待通りの夢を見せてアゲル」

 忍は自信たっぷりにそう言った。
 以前、保養所に行く際に体内時計を調整した事があり、当時アマンダがプログラムを担当したが、古代語の解読を誤った為、各々で希望した夢が混線してしまうトラブルがあった。

「本当に、大丈夫なのだな?」
「問題無い。私は毎日アレで寝てるから」
「あ!一台無くなってるの、忍ちゃんの仕業だったのかぁ……」
「うん。バケツプリン一杯で、ブラムにやらせた。フン」

 そう言って自慢げに胸を張る忍。
 忍は、ここの睡眠カプセルを一台、自分の部屋に半ば強引に設置している。

「それは楽しみね。そう言えばルリちゃんも『夢アイテム』に詳しかったわよね?」
「『夢ホイホイ』ですか? 複数のユーザーで希望する夢を共有して見る事が出来る、正に夢のアイテムです!」
「えっ、『夢ホイホイ』だって? まさか……」
「でもアレ、急に販売停止になったんです。今では幻のアイテムなのです……フゥ」
「ルリさん? それってもしかしてウチの『黒魔ネット』で販売していたものですかね?」
「そうです! 今ではプレミアム価格になってしまっているので、手が出せません……トホホ」

 ヨーコが使用した物は、恐らくデッドストックを闇サイトで入手したのであろう。

「アレは使い捨てなのでコスパが悪かったのと、夢の再現率が半端じゃなくて習慣性があるらしく、現実逃避して引きこもってしまうユーザーが続出したって。だから絶版になったって聞きましたよ?」
「うぇ? そうなんですか? 確かにクセになるのはわかりますね……ムフフフ」

 ルリが見ていた夢を想像し、ゾッとする静流。 

「ああ。素晴らしいです。アノ体験が再び可能となるのですね?」ハァハァ
「どんな夢を見るのも、個人の自由ですけど、ほどほどにしましょうね?」
 
 静流はルリが壊れてしまうのでは? と本気で思った。
 そんな事を考えていると、忍が静流に迫って来た。

「ねぇ静流ぅ、あのカプセルで、一緒に寝よっか?」
「あれは一人用だよ? 前に二人で入ったら、結構窮屈で寝返りも打てなかったよ?」

 今の静流の返しに、ピクッと反応した忍。

「んん? 今、何て言った? 誰と寝たの?」
「寝てない寝てない。前に学園のみんなが遊びに来たでしょ? その時に僕が『肉布団』になって、カプセルに二人で入るっていう罰ゲームみたいな事をやったんだよ」

「「に、肉布団!?」」

 静流から思いがけないワードが飛び出し、忍とルリは腰が浮いた。

「ああ、私も以前味わったな。なかなか心地よいものだった」
「「何ィイ!?」」

 郁がうんうんと頷いた。二人は郁をガン見した。

「ああ、保養所の時の。アレとはまた違うんです。僕が牛の着ぐるみを着て、抱っこしてあげるんです」
「そうなのか? それは興味深いな」
「睦美先輩に、アレを定番メニューにしろって言われましたよ」

 静流と郁がそんな話をしている横で、忍とルリは悔しがっていた。

「そんなイベントがあったなんて……ズルい」
「そうです! ズルいです! そんな美味しいイベント、私も堪能したい……です」フー、フー
「ち、ちょっと、近いですよ二人共っ」

 二人に言い寄られ、静流はタジタジになっていた。

「やってやれよ静流。減るもんじゃないし、隊員の士気を高めるのも、隊長の仕事だ」
「いつの間に僕が隊長に? しょうがないな。わかりました、消灯時でイイですね?」

 郁にそう言われ、静流は渋々OKした。

「「うわぁい! やったぁ♡」」

 静流からOKを貰い、手を取り合って喜ぶ二人。

「現金な奴らだのう。さっきまでいがみ合っていたのに、もう仲良くなっているわい」
「結果的に打ち解けてくれて、良かったです」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 夕食後、お茶を飲みながら、静流は郁に聞いた。

「僕は、皆さんの昔の話の方が興味ありますね。あの学園での事、とか?」
「ん? そうだな……ルリ、お前が話せ」
「私が? イイのかなぁ? 郁ちゃん?」
「ああ構わん。私はあそこでは優秀な方だったからな。言われて困る事は無い!」

 郁は腕を組み、『さぁ話せ』と言わんばかりにルリの方を見た。

「初めて郁ちゃんとココナに会ったのは、入学式の時だったわ……」
「おいおい、そこから話すのか?」
「私やイクちゃんは高等部からでしたけど、ココナは生え抜きで、幼稚舎から人気者だったの」
「『清楚』を地でいっておったな。ココナは」
「学期初めの学力テストで、一位がココナ、二位が郁ちゃんだった。私は……12位でした」
「あのマンモス校でその順位なら、相当ハイレベルだったんですね?」
「フン。私はこう見えて、村では『神童』と呼ばれておったのだぞ!」
「そのテストで何処の寮に入るか、決めるんですよね?」

 あの学園では、各方面で秀でた才能を伸ばす目的で、まず最初に学力テストを行い、総合的に優秀な生徒を学園独自の方法で評価し、それぞれの寮に割り振る事を実施している。

「ココナはフェニックス、郁はペガサス。私はキグナスだった」
「当時もやっぱ最下位は、アンドロメダだったんですか?」
「そうですね。ドラゴンと、ほぼどっこいでしたね」
「その頃はまだドラゴンにも寮生がいたんだ……」

 静流は、ドラゴン寮が使用されていない現在しか知らない為、新鮮だった。
 すると、興味無さそうに聞いていた忍が呟いた。 

「一応私もあそこに通った。私たちが最後のドラゴン寮生。フフン」
「そうでしたね。そうか。これで全部の寮生が揃ったぞ」

 共通の話題が出来て、静流は少し嬉しかった。

「アナタもあの学園に? 意外だわ」

 ジェニーは目を丸くして忍を見て言った。

「忍ちゃんやお姉様たちは、短期交換留学プログラムの最初のメンバーです」
「単なる厄介払いだった。そのあと異世界に飛ばされた」
「アナタたちも、いろいろあったのね」
「大事なのは今。静流がいれば私は幸せ」ポォ

 そう言って忍は照れた。 

「それで、バラバラの寮にいる皆さんが、どんなきっかけで仲良くなったんです?」
「あれは、お昼ご飯の時。私は玉ねぎが苦手でしたが、ご存じの通り、残すと寮長先生にこっぴどく叱られるんです」
「エスメラルダ先生ですね。わかります」
「どうしよっかなぁ、って思ってたら、郁ちゃんが『そのコロッケ半分で手を打とう』って私の玉ねぎを食べてくれました」
「へぇ。イイとこあるね、イク姉?」
「まぁな。あの時は無性に腹が減っててな」
「それから、苦手なものがあると、郁ちゃんに処理してもらってたんです。そしたら……」
「ココナの奴めが、寮長にチクりおった」
「折角、需要と供給の均衡が保てていたのに、ココナがそれを壊したんです」
「あの時は、しこたま怒られたな。奴のせいで」

 郁は、当時を思い出したのか、少しイラついていた。

「ある時、魔法の実習で私と郁ちゃん、それにココナが同じ班になったんです。協調性を見ていたんでしょうか、三人の息が合わないとクリア出来ない課題でした」
「あ奴は元貴族の家系だったから、私らを見下しているのでは? と思っておったが、そんな事は無かった」
「出来るまで熱心に指導してくれて、そのお陰でクリア出来たんです」

 ルリは笑みを浮かべながら語り続ける。

「後で聞いたんですけど、寮長先生にはただ密告したわけでは無く、私に嫌いなものを克服させようと相談していたらしいんです」
「全く、お節介な奴だったな」
「それがきっかけで、ティータイムとかは大概三人で過ごしました」
「あ奴はいちいち口出しして来てのう、それが図星だったりするのだ」
「二人は、事あるごとに衝突しました。本音で言い合えるのはイイ事なのですが」
「言い返さないと負け、みたいな感じですか?」
「ええ、まぁ。ですが二人が言ってる事は、どちらも正論の事がほとんどだったので、苦労して折衷案を出すのは私の役割でした」
「ルリさんは、お二人の調整係だったんですね?」
「そんな大層なものではないんですけどね。フフ」

 ルリはそう言って苦笑いを浮かべた。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ドラゴン☆マドリガーレ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:958pt お気に入り:669

スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree
ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:203

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,671pt お気に入り:3,501

トラブルに愛された夫婦!三時間で三度死ぬところやったそうです!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:34

母になります。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28,007pt お気に入り:1,785

ニコニココラム「R(リターンズ)」 稀世の「旅」、「趣味」、「世の中のよろず事件」への独り言

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:28

処理中です...