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第8章 冬が来る前に

エピソード47-21

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国分尼寺魔導高校 生徒会室――

 出品されている全ての作品を見終わり、生徒会室に戻って来た静流たち。

「只今、戻りました」
「やあ、お帰り」

 生徒会室には、睦美と左京が、机に肘を突き、顔の前で手を組む『あのポーズ』で静流たちを迎えた。
 その奥には、真琴と朋子が座っていた。
 
「まあ、お座りください。 楓花、お茶」
「はぁーい」

 睦美が奥の方に向かってお茶を催促すると、前会長の東雲楓花の声が聞こえた。
 朋子が達也に向かって、手をくいっと手前に折る仕草をした。

「ゲ……朋子!?」
「何? いちゃ悪いの?」ギロ

 美千留たちが朋子に気付き、声をかけた。

「よっ、朋ちん」
「伊藤先輩、お久ですっ」
「カナちゃんに、美千留ちゃんじゃない!? ちょっと見ない内に可愛くなっちゃって」

 朋子は美千留の全体像を隅々まで見回した。

「相変わらず、読モのスカウトがウザいんだろうね?」
「そうなんですよ。美千留ちゃん、他校の生徒からも狙われてるんです」

 カナ子たちがそんな話をしていると、楓花が紅茶をお盆に乗せ、こちらに寄って来た。

「あ、お手伝いします」
「ありがとう、真琴ちゃん」

 真琴が紅茶と茶菓子をてきぱきと配る。
 楓花はふとある方向に視線を向けた。

「あら? アナタもしかして、静流キュンの妹さんかしら?」
「はい、美千留です」

 楓花に聞かれ、素っ気無く答える美千留。すると、

「うっはぁ、お人形さんみたい! カワイイ~♡」

 楓花は美千留の手を取り、ブンブンと上下に振った。

「しず兄、この人、何とかして」
「かいちょ、楓花先輩!? 落ち着いて。どうどう」
「ぬっふふぅん」

 静流にクールダウンしてもらった楓花は、美千留の隣に座り、緩んだ顔で美千留をじぃっと見つめている。
 睦美は仕切り直してニニちゃん先生に聞いた。

「コホン。さてニニ先生、如何でしたか? 静流キュンの絵は」
「絵を見ているだけで、精神の安定、疲労回復、やる気の上昇その他諸々の効果が期待出来ます」チャ
「優れた洞察力ね。ムムのライバルって聞いてたけど、アナタの方が数段上だわ」

 ニニちゃん先生の感想に、大きく頷いたネネ。

「この絵の凄まじさは、それだけじゃない」
「どう言う事ですか? ネネ先生?」

 一同の注目を浴びるネネ。

「この絵からほとばしるエナジーが永続的である事よ。つまり、この絵さえあれば、いつでも、何度でも拝観者に『癒し』を与え続けられる、という事」
「効果が薄れる事は、あるんでしょうか?」
「さぁ? 絵の保存環境とかにもよるでしょうけど、劣化は緩やかだと思うわ」

 ネネの考察を聞き、満足げの睦美が、ネネに聞いた。

「一応聞きますが、ネネ先生的にはこの絵を、今後どうしたらイイと思います?」
「柳生さん、アナタは売りたいんでしょうね?」
「勿論! ウチとしては、オークションで落札して頂いた所に、絵を渡す方がイイんですがね」
「オークション、そこが問題なのよ……」
「問題? 競争で価格を決める事に、何が問題なのです?」
「午前の騒動を忘れたとは言わせないわよ? 明日は二校だけでは収まらないかも知れない」

 ネネはそう言って、腕を組んで溜息をついた。

「ニニ先生、そちらの学園としては、アノ絵を所望するのかしら?」
「さぁ。ですが、今日の報告次第では、購入に乗り出す可能性はあると思います」チャ

 ここまでのやり取りを聞いていた達也が、ネネに聞いた。

「つまり、静流の絵をゲソリック系のお嬢様校が、こぞって争奪戦を始めるって事っすか?」
「そう言う事。値段の高騰は避けられない。言わば『聖戦』と言っても過言ではないわね」
「こりゃまた、大風呂敷を広げたもんでげすなぁ」

 左京がしたり顔でそう言った。

「そ、そんな、オーバーな……」

 ネネのいささか大袈裟な発言に、たじろぐ静流。
 そんな静流に、睦美はネネの発言を補足した。

「そうでもないさ。いたって現実的だよ」
「どこがです?」
「イイかい? アノ絵がある機関に渡ると、管理者は視聴覚室のような方法で客、または信仰者を呼び、報酬や寄付をもらう事になるだろうね」
「なるほどな。それが永続的に行えるって事は、オークションで使った金額なんて、数年で元が取れるって寸法か」

 達也は今の話を聞き、睦美の発言に肯定的な意見を述べた。 

「そう言う事。キミ、鋭いね。ウチの戦略参謀に加わる気はないかね?」
「はぁ、前向きに検討します」

 思わぬ所で睦美にスカウトされた達也は、適当に返事をした。




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 4階 医務室――

 ココナの『エターナル症候群』を治療する策として、睡眠カプセルを使用し、裏技でシズルーを夢の中に送り込み、ココナの本体を連れ出すという、荒唐無稽なミッションの準備を行っている。

「シズルー、コレで予習しておいて!」バサッ

 忍がシズルーの前に、数冊の『薄い本』を置いた。
 ちなみにタイトルは、

『推しが部下になりました。』
『沼袋イーストゲートパーキング』
『静流クンは案外チョロい』
『サムライ・ちゃんこ鍋』

 であった。
 手に取ったシズルーは、薄い本をペラペラとめくり、ため息をついた。

「ふむ。これを実践しろと?」
「雰囲気だけでも掴んでおいて。ココナの興味を引く為だから」

 忍はシズルーにポンポン注文を出すが、シズルーは困惑していた。

「他にも、ココナが見ていた夢に出て来た神父とか、ダッシュ7にも出演してもらう。当然『静流』として登場するパターンも織り込む」
「それは構わんが、演技指導などを受けている暇は無いと思うが?」

 忍とシズルーの会話に割り込んでくる者がいた。

「その辺は、私がサポートします!」フフン
「ルリ君、貴君が?」
「いつぞやの要領ですよ♪ フッフッフ」

 ルリが言っているのは、シズルーが太刀川で講義をした際の事で、セリフはルリや睦美がインカムを通して指示していた。

「ルリ、私はそこまで手が回らない。助かる」
「お任せ下さい、忍さん! 静流様の代表的なキャラについては、セリフ丸暗記してますから」ハァハァ

 少しの沈黙ののち、シズルーはゆっくりと口を開いた。 

「……では、頼むとするか」

 シズルーの返事に、ルリは右手をぎゅっと握り、力強く言った。

「よっしゃあ! 必ずココナを落として見せますよ!」フーフー
「ルリ、攻略は二の次。ココナを意識レベルまで連れて来る事が大事。オーケー?」
「イエス! マム!」ビシッ

 忍とルリのやり取りに、シズルーは神妙な面持ちであった。

(大丈夫かなぁ、この人たちで……)
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