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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード50-1

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アスガルド駐屯地 魔導研究所 休憩室――

 休憩時間に、レヴィは先日目撃したMTを思い出していた。

「ドラゴン型MT……『ラプロス』かぁ……イイなぁ……」

 そんなレヴィに、リリィが話しかけた。

「ま、ロマン機体だし? 興味があるのはわかるけど、ウチを差し置いてあんなもんこさえてたのは、納得いかないな」
「せめて、零号機は薄木じゃなくてココの格納庫に置いて欲しかった……です。むぅ」

 薄木の連中を思い浮かべ嫉妬したレヴィは、頬を膨らませた。

「でもさぁ、『ギャラクティカ・ミラージュ』専用の格納庫も今後は必要よね?」
「そうするとやっぱ、インベントリが最適ですよね? なんたって広さは『無限』なのですから!」

 すると、もう一人会話に割り込んでくる者がいた。

「広さ無限の格納庫……か。欲しいよね?『富嶽』とか」
「超大型長距離戦略爆撃機の? 設計段階で中止された機体ですよね?」

 仁奈の言う『富嶽』は、大戦時に日本軍が開発していた超大型長距離戦略爆撃機である。
 全長45m、全幅65m、爆弾搭載量20トン、航続距離19,400km、6発エンジンで乗員は6名であり、大きさはかつての米軍機B-29の約1.5倍である。

「仁奈、本気で言ってるの?」
「勘違いしないで。いつまでも静流クンだけが社員とは限らないでしょ? その時に、大勢が乗れる航空輸送手段が要るのよ。言っとくけど、戦闘に使うんじゃないわよ?」
「そんなの、当然でしょ? アンタの趣味に、付き合ってるヒマは無いっての」
「ちぇー。 あと、『震電』でしょ?『秋水』とかもイイわね……」 

 日本軍機マニアの仁奈が、妄想を膨らませてニヤついていた。

「ふぅ、全くアンタはインベントリに『戦争博物館』でも作るつもり?」
「実際に動くって言うのがミソなの。くぅ、たまんない」

 仁奈のコレクションは、今の所、局地戦闘機の『雷電』と、夜間戦闘機『月光』であった。

「仁奈さんの『月光』って、今はインベントリにあるんですよね?」
「うんまぁ、ほとんど放置、だけどね……保管にはあそこが最高ね。サビとか浮かないし」
「今後、使う機会があるとイイんですけどね。 シズルー様に『月に代わってお仕置き』してもらいたいです。グフフ」

「陸と空はラプロスに任せるとして、あとはやっぱ海……かな?」

 そんな話をしていると、奥からアマンダがコーヒーカップを片手に、リリィの近くにやって来た。 

「また何か企んでるのね? アンタたち」
「いえいえ、私たちは『ギャラクティカ・ミラージュ』の今後の在り方を模索しているのです!」
「少佐、PMCという事なら、それなりの機動力が必要ですよね?」
「まぁ、確かにそうね……」
「場合によっては、戦闘になる事も当然想定しないといけません」
「いざと言う時の為に、武器を装備可能とする事が望ましいか……」
「相手は人以外にもなりうるんです。例えば、モンスター討伐、とか?」
「ふぅむ……」

 アマンダは、部下に指摘された事について、考えを巡られていた。
 そんなアマンダを見て、リリィはもみ手をしながらアマンダに告げた。

「そこで少佐殿、ご提案があるのですがね?」
「何よリリィ、変な声出して」
「例のお蔵入り企画、復活させてはどうかと」
「ん? そんなのあったかしら?」

 リリィにそう言われ、アマンダは天井の方を見ながら、腕を組み、首を傾げた。

「ありますでしょ?『墜落した宇宙船を使って宇宙戦艦を造ろうプロジェクト』が!」
「え?、ああアレか。リリィ、諦めてなかったのね?」
「そりゃあ、浪漫ですよロ・マ・ン♪」

 その没になったプロジェクトとは、『ワタルの塔』がある惑星の嘆きの川コキュートス付近に墜落していた、『宇宙船らしきもの』を修復する事であり、地球の戦艦を触媒として使い、ロディの【コンバート】でニコイチ修理をする計画であった。

「アンタたちったら……面白そうじゃない。乗ったわ」
「よっしゃぁ! そう来なくちゃ♪」

 アマンダの反応に、三人は右手を上に挙げ、大いに喜んだ。

「コンバートさせる戦艦の候補も、もうピックアップしてるんですよ、レヴィが」
「ええ。期待してて下さい!」
「もし実現した暁には、静流クンとイロイロな所に行ける……ムフ」
「こらこら、妄想が先走ってるぞ? 落ち着いて」

 三人から矢継ぎ早にポンポン口から出る言葉に、アマンダは落ち着くように諭した。

「先ずは静流クンを交えて、あの宇宙船の調査をしないと。 お父様の手がかりがあるかも知れないんだから」
「う、そうでした……少しはしゃぎ過ぎましたね……」
「それもそうだけど、戦艦を買い取る資金だって、バカにならないでしょうに……」
「その件については、沈没したかつての戦艦をサルベージする、というのはどうでしょう?」
「バカね。ソレを引き上げるコストと、調査費用諸々だってかかるでしょ?」
「はうっ、イタいとこ突いてきますね……」

 アマンダに現実の重みを気付かされ、意気消沈な三人。

「一旦この計画は置いといて、資金繰りの策を練りましょう」
「そうですね。先立つものは、やはりお金、ですから……」

 そんなこんなで、休憩時間が終わった。




              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋――

 静流はベッドに寝そべり、漫画を読んでいた。
 その傍らには豹モードのロディが丸くなって寝ている。
 部屋には他に、真琴と美千留がいた。

「う、うーん……そうだ、メルクに来てもらうか」
「何?メルクって」
「丁度イイ。紹介するよ」

 静流はノートPCを起動し、メルクとのコミュニケーションアプリである、『ポケットクリーチャー シャイニングブラックパール』を立ち上げた。
 早速メルクを呼び出すと、表面がゴツゴツした岩系ポケクリがひょこっと出て来た。

〈よう静流! 呼んだか?〉
「やぁメルク。零号機の具合はどうかな?」
〈問題無い。直ぐにでも出撃出来るぞ?〉

 静流と会話している、画面に映っている岩系ポケクリを見て、真琴と美千留が興味を示した。

「何? このゴツいの。しゃべってるよ?」
「これって、AIなの? オシリスみたいに」

 静流は先日のミッションで、ココナの義足の素材だったメルクリアの事を、かいつまんで説明した。

「へぇ。そんな事があったのか」
〈という事じゃ。よろしく頼む〉
「しず兄、仲間はコイツだけ?他には? 水系とか電気系とかは?」
「今の所はメルクと、ブラム、くらいかな?」
「それだけ? ロディは入れないの?」
「試したことはありませんが、可能かと。では失礼」シュン

 ロディはそう言うと、一瞬でノートPCの画面に入った。

〈静流様、出来ました〉
〈ぬぉ!? いきなり何じゃ?〉
〈私ですよ。ドロップアイテムの〉
〈おお、お主か。おどかすでない〉

 画面のロディが、メルクに挨拶している。

「やけにあっさり入れたね? ロディ?」
〈恐らく、『憑き物』に優しい環境なのだと思います〉
「ん? 憑き物と言えるかわからないけど、まだココにもいるよな……」

 静流は、自分の首の辺りを指さした。
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