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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード50-5

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桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 蘭子が出場したがっている『コミマケ』の催し物である『ポケクリバトル』は、5年ぶりに開発が決まった『ポケクリ』のデモンストレーションを目的としたものだった。
 運営の会社が、睦美たち率いる『桃魔術研究所』の商売敵である『プラセボ・ソフトワークス』だった事で、睦美の闘争心に火が付いたようだ。

「この勝負、負けられないぞ? 静流キュン?」
「そんな大袈裟な。 勝っても負けても、楽しめればイイんじゃないんですか?」
「確かに一般参加ならそれでイイだろう。だがわかってくれ、企業としてのプライドが、それを許さないのだ!」ビシッ!

 決めポーズをとった睦美に、静流が聞いた。

「その何たらって会社、ウチの開発部門と関係あるんですか?」
「大ありだね。『プラセボ』はギャルゲーでは知名度もそこそこある同人ソフトメーカーだ」

 素子が不敵な笑みを浮かべ、睦美に言った。

「そのプラセボが、『ポケクリ』の新作を開発とは、随分な大風呂敷を広げたもんですね」チャ
「大方かつての開発陣を取り込み、資金援助したのだろうな。捕らぬ狸のなんとやらってやつだよ」

 そんなことを話していると、いきなり達也が騒ぎ出した。

「おいみんな……大事な事、忘れて無いか?」
「え? 何?」
「ソフトは無料配布だが、肝心の本体はどーすんだ!?」 

「「「あちゃー……」」」

 現実に引き戻された蘭子たちは、がっくりと肩を落とした。

「よりによって最新の『スイッチ』かよ……」
「出荷台数が少なくて、入手困難らしいですよ?」チャ
「畜生、ユーザー無視とはイイ度胸じゃねえかよ!」

 蘭子たちが地団駄を踏みながら文句を言っていると、横からシズムが口を挟んだ。 

「ねぇねぇ静流クン、『ジュンテンドースイッチ』なら、ウチにあるよ?」
「へ?、ええ!?」

「「「な、なんですとぉ!?」」」

 想定外のシズムの言葉に、一同は1オクターブ高めの奇声を上げた。

「仕事でゲーム実況した時、もらったの。 今は美千留ちゃんに貸してるけど♪」
「美千留が? あいつめ……口止めされてたの?」
「うん。聞かれるまで言うなって♪」

 あっけらかんとそう言うシズムに、静流は呆れていた。

「シズム。今度からは僕にちゃんと報告しようね?」
「うん。わかったぁ♪」ニパァ

 予想外の展開に、一同は安堵した。

「よし! 奇跡的にハードもゲット出来そうだし、ベータ版を入手すれば準備OKだなっ」  

 とりあえず今日の所は解散となった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




睦美のオフィス兼カナメのラボ 数日後――

「例のブツは、入手出来たんか?」
「はい。バッチリです!」

 数日後の放課後に、それぞれが入手したものを持ち寄り、睦美のオフィスに集合した。

「先ずは僕から。じゃーん!」
 
 静流がジュンテンドースイッチをみんなの前に置いた。
 
「「「おおー!!」」」

 みんながスイッチに、羨望の眼差しを向けた。
 最初に達也が手に取った。

「電源は? これか? おお……」

 達也が電源を入れると、数秒で起動した。

「ひゅう。うおぉ、解像度ハンパねえな?」
「美千留からぶんどって来た。さすが最新型だね。見ててね?」

 静流は本体をドックに挿し込むと、あらかじめ繋いでいたモニターにゲーム画面が映し出された。
 シズムが本体と一緒にもらったソフトは『ゴリオカート』だった。

「スゲェ! 据え置きとしても問題無く遊べるんだな?」
「そうなんだ。コントローラーも標準で二個あるし、もっと増やす事も当然可能だ」

 静流は試しに、達也と蘭子に『ゴリオカート』をやらせてみた。

「うっひょー! おもしれー!」
「こいつは確かに、独り占めしたくもなるな」
「だろう? 美千留の奴、追及したら『バレたかぁ!』って開き直って、ウチのテレビに繋いで散々付き合わされたよ……」

 ひとつのレースが終わり、蘭子はシズムに感謝の言葉を述べた。

「シズム、サンキューな!」
「エへへ。お役に立てて、光栄でーすっ」

 ひとしきりいじり倒したあと、達也は上着のポケットから、スイッチ用のゲームカードをみんなの前に置いた。

「じゃあ、俺の戦利品ね。ほい」

 そのゲームカードは、無料配布のソフト『ポケットクリーチャー・ギルガメッシュ』のベータ版であった。

「太刀川の『マロンブックス』でゲットしたぜ!」
「やるじゃん達也。お疲れ」
「コレが説明書。パッチ対策済みらしいから、繋げれば移動出来るらしいぞっ」

 静流はゲームカードをスイッチ本体に挿し、ポケクリを立ち上げた。

「よし、立ち上がったぞ。とりあえずチュートリアルを終わらせないと……」

 静流はストーリーモードを進め、『ずかん』を入手する事に成功した。
 その間に素子は、説明書にあった旧作のポケクリの移動方法を読んでいる。

「フム。旧作のポケクリは、一度ネットのサーバーに送る必要があるみたいです」チャ
「どーすんだ? コイツじゃネットに繋げないぜ?」
「問題無いみたい。ご丁寧に、PCを使う方法が載ってるわよ。カナちゃん、お願いね♪」チャ
「はいな!」

 カナメは素子から受け取った説明書を斜め読みし、ため息をついた。

「ふぅむ……成程な。セコい事やらかしとんなぁ、運営は」
「カナメ、ネットに晒すのは運営に筒抜けになるし、戦略的に不利だ。なるべく避けたいのだが?」
「そこやムっちゃん。奴さんたち、参加者の手の内を把握しようと企んどるな……」

 睦美の心配はドンピシャだったようだ。

「何とか出来そうか? カナちゃん?」
「ああ。問題無いわ。玄人相手やし、向こうも『タラレバ』でやってるんやろ? バグは付きもんやし」

 カナメはサクサクと作業に取り掛かった。

「先ずは説明書通りに、蘭ちゃんの図鑑の中身をコイツに入れる!」

 カナメはPCに蘭子のブンダースワンを繋ぎ、データを転送した。

「ほぉ。蘭ちゃんて、案外几帳面やったりしてな?」
「う、うるせぇ、悪いか?」
「そうやない。お前さんの図鑑、ほとんど埋まっとるやないか?」
 
 カナメの言葉に反応し、図鑑の中身を静流たちが見た。
 
「本当だ。スゴいラインナップだね」
「苦労したんだぜ? コレなんか、小学生に頭を下げて、やっと交換してもらったし」
「そこまでするのか? お見逸れしやした、お蘭の姐御」

 達也はそう言って蘭子に頭を下げた。

「茶化すな! でも、どーしてもゲット出来ないポケクリもいてな……」
「それはしょうがないよ。『レジェンド級』はレア中のレアだもん」
 
 コンプ出来ていない蘭子を、素子は慰めた。

「でも良かったね。完全新作なら、また新種が増えるって事でしょ?」パァァ

「「きゃっふぅぅん」」

 思いがけず静流のニパを食らった蘭子と素子は、大きくのけ反った。

 次にPCからネットを介し、スイッチにデータを送った。

「おし。ここまでは順調やな」

 その工程を今まで黙って見ていた睦美が、カナメに話しかけた。

「カナメ、私は手の内を見られたくないと言ったはずだが?」
「エエんや。 全く見せないと相手も警戒するやろ?」
「じゃあ、どうするんだ?」
「静流キュンのとっておきの四体は、既存のポケクリに『偽装』させる」
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