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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-36

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インベントリ内 プレイルーム――

 約束の3分が経ち、部員が声を張り上げた。

「アクターのみなさぁーん! 休憩は終了でーす!」

「「うへぇ~」」 

 薫子とブラムが、頼りない返事で四つの部屋の近くに寄って来た。
 ノーマル静流のロディは、真顔のままその後を付いて行く。

「はぁ……結局、また地獄に戻るの?」
「静流サマ、【分身】は習得出来なかったのかなぁ?」

 そう言ってうなだれた二人に、ロディが声をかけた。

「お二人共、あちらをご覧下さい」
「ん? あっ!」

 二人が見た先に、四人のアクターがこちらに歩いて来るのが見えた。


「「「「お待たせぇ~」」」」


 四人のアクターが手を振りながら近付いて来た。

「成功、したの?」 
「そうみたい」

 三人の前に、四人の静流が揃った。

「薫子お姉様、お疲れ様。後はボクらに任せて♪」パァァ
「ブラムもお疲れ。こっちはもう大丈夫♪」パァァ
「ロディ、キミも休んでイイぞ。ボクたち、似た者同士だね♪」パァァ
 

 「「「きゃっふぅぅぅん♡♡」」」


 レプリカのニパを食らい、何故かロディまで大きくのけ反った。
 後から来たのは、睦美、カチュア、そしてオリジン静流だった。

「どう? 面白いでしょ?」
「し、静流? 本物?」
「こいつらは【レプリカ】で作った僕の分身なんだ」

 オリジン静流がレプリカの一人と肩を組んだ。

「スゴいでしょ? こんな事も出来るんだよ?」むにぃ~
「痛いなぁ! 何すんだよ!」

 静流がレプリカの頬をつねった。
 レプリカは不機嫌そうにオリジンに言った。

「痛みは後で【融合】した時にフィードバックするんだぞ!? 覚えとけ!」
「ゴメン、ちょっと悪ノリした。複写したそれぞれに感情がある事を、みんなに示したかっただけなんだ」
「いいよもう。わかってるから」

 今のやり取りは、まるで双子の静流が漫才をしている様に見えた。
 見回りから帰って来たカナメと右京が、プレイルームにやって来た。

「ムっちゃん、調子はどぉ? うわっ!静流キュン祭りやなぁ」
「フグッ!? 静流様がいっぱい……ここは天国ですか?」
 
 静流に付いていたロディは、アクターのロディと融合し、シズムの姿になった。

「静流キュンたちはVIP席で休んでくれてイイよ」
「ふぅ。残りの分、やっつけるか。静流クン、埋め合わせ、期待してるわね♡」

 睦美とカチュアは、それぞれ管理事務所と医務室に戻った。

「じゃあキミたち、しっかりやりたまえよ?」
 
 オリジン静流は、手を後ろに組み、胸を張ってレプリカたちに告げた。

「うへぇ……イイなぁ、本体」
「罰ゲームみたいなもんだよ……運が悪かったんだ」
「グズってもしょうが無いだろ? さ、始めるよ?」

 うなだれているノーマルとシズベールを、シズミがなだめている。

「こうなりゃヤケだ。とっとと終わらせるぞ!」
「「おぅ!」」

 それを見たシズルーが、オリジンを指さし、言い放った。

「せいぜい『記憶の更新』を楽しみにするんだな! 震えて待て! ってね」ビシィ

 そのあと四人は、トボトボとそれぞれの部屋に入って行った。

「何やろ? 哀愁漂う背中やな……」
「ちょっと可愛そうね……静流、大丈夫なの?」
「たまにモニターしてチェックするから、平気でしょ?」

 心配そうなカナメと薫子に、頼りない返事をする静流。

「みんな僕なんだし、目標は同じ『完売』なんだから、問題無い……と思う。多分?」

 そう言いながら、プレイルームを後にする静流たち。
 ロディは歩きながらノートPCのメルクに小声で話しかけた。

「メルク師匠、イイのですか? このままでは静流様が……」
〈放って置け。一度痛い目に遭っておいた方がよいじゃろう〉
 
 メルクは溜息混じりにロディに言った。

「しかし、あ奴の魔法スキルは異常だな……」
「どう言う事です? 師匠?」
「あ奴は無意識に魔法を都合よく【改竄】しておる。普通に考えて意思まで【複写】出来るわけ、なかろう?」
「確かに。性質は【増殖】に近いですね……」
「師事する者がおらんと、危なっかしくて見ておれんわい……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 管理事務所――

 アクターの件がひと段落し、睦美はお茶を飲んでいた。
 するとノックのあとに白黒ミサと左京が入って来た。

「GM、只今戻りました!」
「ご苦労。重版の件はどうなった?」

 睦美はデスクに両膝を突き、『あのポーズ』で結果を聞いた。
 白ミサが満面の笑みで睦美に報告した。

「お喜び下さい! 二千部の追加頒布、許可が下りました!」
「そうか……よくやった」

 頒布する部数は、あらかじめ申請時に申告したもの以外認められない。
 コミマケ開催中に頒布部数を増やすなど、前代未聞である。

「運営が個人サークルの売り上げを、出口調査していたらしいんです」
「丁度今日の分が完売になりそうで、私共が対策会議をしていた頃みたいです」

 会議の末、明日の分を小出しに頒布する事になり、今に至っている。
 明日の分の在庫がピンチとなり、運営に掛け合っていたのだ。

「それでウチの頒布品が集客に貢献している、と?」
「はい。明日早々に撤収されては困る、と言われました」
「成程な。では運営の思惑に乗ってやるとするか」
 
 睦美は腕を組み、今後の対応を指示する。

「フム。今日の分はストップだ。在庫はどの位ある?」
「千部足らずです。あとは、ネット販売用に刷ったものが500部程あります」
「どうします? あと500部……」

 全員が腕を組み、首を傾げている。

「ココに印刷所を作るか?」
「それも手だけど、出費がかさむわよ?」
「材料費もありますしね……」

 暫く考えていた睦美が、何か思い付いたようだ。

「緊急措置もやむなしか……よし!」
「GM、何か、対策案が浮かびましたか?」
 
 左京が睦美に近付いた。 

「左京、出来るだけ上質な紙を用意出来るか? 最悪再生紙でも良しとする」
「それなら……『生徒会報』に使用する紙があったと思います」
「とにかく、手すきの部員を総動員して、部室にありったけの紙を集めろ!」
「御意!」

 左京は一礼し、管理事務所を出て行った。

「出来れば使いたくはなかったが……」  
「仕方ないですよ。私はアリだと思いますがね?」
「頼りっきりになるのは、本意ではないのでな」

 睦美と白ミサが話している意味が、黒ミサにはわからなかった。

「すいませんGM、言っている意味がさっぱりわからんのですが……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 プレイルーム――

 アクターがレプリカに挿し変わって数巡目、レヴィたちの順番が近付いた。

「そろそろ順番が回って来そうです。心の準備は出来ていますか?」
「ムフゥ。ついに、この時が来たのですね?」
「問題無い。いつでもイケるぞ」
「どうしよう……急に緊張して来ちゃった」
「みのり、落ち着いて」
「そう言う萌殿も、リラックスするのであります」

 程なくプレイルームに通される一同。
 目の前に四つのドアが見えた。 

「きゃっふぅぅぅん♡」
「おっふぅぅぅぅ」
「ぐぼぁぁぁぁ」

 部屋から何やら悩ましい声が聞こえて来る。

「お楽しみの様ですね。ムフフフ」
「一体、中でナニをしていたら、こんな声が出るんだ?」
「大尉殿、よだれが……」

 部員がレヴィたちを呼んだ。

「次、団体様、どうぞ!」
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