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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-47

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インベントリ内 休憩所 VIP席――

 イタコからもらった『マホビタンD』の効果で、魔力切れの一歩手前で何とか回復した静流。
 しかし、副作用として静流が『欲情』してしまうハプニングが起こった。

〈であるからに、そ奴らを戻せば、正気に戻るじゃろう〉
「……フムフム。成程、理解した」

 メルクと睦美、カナメが今後の対応を話し合っていた。

「あの位やと『欲情』とは言えんな。 静流キュンが『グヒヒヒ~』ってなっとるんなら別やけど」
「異性に近付こうとした時点で、 静流キュン的には十分『欲情』だろう」

 真琴の『ミデア・クラッシャー』を食らい、気絶している静流。
 シズムの膝枕で可愛い寝息を立てている静流を見て、リリィは溜息混じりに真琴に言った。
 
「真琴ちゃん、もうちょっと加減してあげなよ? 悪気は無かったんだろうから」
「私って、魅力ないのかな……」

 欲情モードの静流に、『母さんみたい』と言われ、ついカッとなり、事に及んだ真琴。

「それだけ親近感がわいてるって事だよ。家族みたいな?」
「それじゃあ、美千留ちゃんと同じ扱いですよね……アタシの方がダメージ大きいよ……」

 そう言って真琴は肩を落とした。

「静流が寝てるときにベッドに潜り込んだり、脱衣所で偶然を装ってラッキースケベしたり……そんな時静流は顔を真っ赤にして照れてた……」ブツブツ…
「何やそれ!? 隣に住んでる特権か?」
「小学校上がる前は、お風呂にも一緒に入ってた……」ブツブツ…
「過去の栄光にすがっとる場合か? 先を見ろ!」

 真琴はやっと周囲に聞こえるレベルの声量で呟いている。
 カナメのツッコミには全く反応しない。

「よーし、レプリカども、集合!」

「「「うっす!」」」

 睦美の号令に、三人のレプリカは即座に反応した。

「おや? 一人足りんな」 
「おーい! 帰るよー!」

 シズミが隅っこにいるジンに声をかけた。
 ジンはカチュアと鳴海に、強引に相手をさせられていた。

「ボクを呼んでる。行かなくちゃ」
「イヤよ! 離れたくない!」
「お願い! もう少しだけ」

 ジンにまとわりついている二人の髪を、ジンは優しく撫でた。

「この続きは、夢でね。【気持ちよくなぁれ♡】」ポゥ

「「きゃっふぅぅぅん♡♡」」ビクゥン……ガク

 ジンの両手に紫色の霧が発生し、カチュアたちの頭部に触れた瞬間、二人はのけ反り、昇天した。 
 二人の姿勢を整え、ジンは立ち上がった。

「さて、終わらせようか?」



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 プレイルーム――
 
 イベントが終わり、部員たちが撤収した後の、がらんとした空間となったプレイルーム。
 そこにまだ気絶している静流を、四人のレプリカが運んできた。

「ストーップ。オリジンをそこにおろしてくれ」
「イエス、マム!」

 ココにいるのは静流と睦美、カナメと薫子、忍、あとはメルクだった。

〈準備は良いか? では起こせ!〉
「了解!」

 シズミが静流を揺すり、起こそうとする。

「おーい! 起きろー!」
「う…うぅん」

 ゆっくりと目を開けた静流。

「あ! 起きたよ!」
「よし、静流キュンを立たせてやれ」
「了解!」

 レプリカが四人がかりで静流を立たせた。

「あれ? いつの間にか寝ちゃってたの?」

 静流はキョロキョロと辺りを見回した。

「覚えて無いのかい? 静流キュン?」
「えと……確かシズムに口移しで薬を飲まされて……痛っ!」

 急に激痛が走り、静流は頭頂部をさすった。

「あとは特に……思い出せません」
「そうか……それは良かった」
「良かったんですか? それで」
「ああ。その方がイイ」

 睦美は、静流が『欲情モード』になっていた記憶が無い事に安堵した。
 するとレプリカたちが横やりを入れた。

「ヒドいぜ旦那ぁ、あっしらを忘れてやしやせんか?」
「プッ。 誰だよそのキャラ」
「いい加減、終わらせてはくれまいか?」
「そう言う事。寝ぼけてないで、とっとと終わらせるよ!」

 静流に気さくに話しかけて来るレプリカたち。
 その様子を見て、静流はメルクに話しかけた。

「メルク、聞きたい事があるんだけど」
〈なんじゃ? 静流?〉
「今見た感じ、レプリカたちが『個性』豊かになってるみたいなんだけど?」
〈そりゃそうじゃ。文字通り、こ奴らはお主の分身。記憶や感情はお主そのままじゃ〉
「どういう、事?」
〈お主の魔法が、『最適化』を勝手にやったせいじゃ。 魔力の燃費がアメ車並みなのはそのせいじゃの〉

 それを聞いた静流は、少し考えたあと、メルクに聞いた。

「どうしても【融合】しないとダメ?」
〈なんじゃと?〉
「明日もあるんだし、このまま、ってわけには……無理か」

 静流が何故かレプリカと融合する事を渋っている。

「そりゃ無理でしょ、またぶっ倒れるよ?」
「そうおセンチになられると、照れちゃうなぁ……」
「ボクらはキミの一部に戻るんだ。消えるワケじゃない」
「そうゆう事。ボクたちの記憶、受け取ってくれるよね?」

 レプリカたちにそう言われ、真剣な顔付で静流は告げた。

「勿論。お前たちを生んだ責任は取るよ」

「親父ぃ~!」
「パパ~!」
「父ちゃ~ん!」
「ダディ~!」

 オリジンとレプリカが抱き合った。

「何だろう? カオス過ぎて今一つ感動出来ない……」

 睦美は複雑な表情で、目の前の光景をただ眺めていた。

〈よし、では始めるぞ。やり方はロディから受け取ってるな?〉
「うん。わかってるよ」

 オリジンを中央に立たせ、周りをレプリカが囲んだ。
 オリジンは一度深呼吸をしてから目を閉じ、忍者が術を使う際の様に、九字印の『臨』の印を結んだ。
 レプリカたちもそれにならった。
 オリジンは数秒の沈黙のあと、目をぱっと開き、呪文を唱えた。


「行きます!【融合フュージョン】!!」ポォォ


 レプリカたちがオリジンの周囲を高速で回り始め、やがて赤いオーラとなった。
 そしてオリジンの身体を赤いオーラが覆い、オリジンに吸収された。

 シュゥゥゥゥ……

「終わったのか? 静流キュン?」
「ええ……多分?」

 睦美が心配そうに聞くと、静流は苦笑いで応えた。

〈もうそろそろじゃな。覚悟せい!〉
「覚悟って? う……うわぁぁぁ!!」

 メルクの発言を聞き返そうとした瞬間、静流の脳に四人のレプリカの記憶がなだれ込んで来た。
 頭を抱え、膝をついた静流に、薫子たちが駆け寄った。

「静流!! 大丈夫!?」
「メルク! 一体何が起こってるの?」

 忍の問いに、メルクは答えた。

〈恐らく、四人分の記憶が一気に脳に入って来たんじゃろう。じきに収まるわい〉

 メルクがそう言っている間に、静流は床にうつ伏せに倒れた。
 すかさず薫子が仰向けにし、太ももに頭を置いた。

「静流! しっかりして!!」
「う、ううん……大丈夫。もう平気だから……」

 すぐに気が付くと、薫子を制してよろけながら立ち上がる静流。

「物凄い数の相手をしたんだね……お疲れ、僕」
〈静流や、 これに懲りたら乱発は避ける事じゃな! ハッハッハ〉
 
 メルクは神妙な面持ちの静流をなじった。

〈時期尚早だったのじゃ。せいぜい精進するんじゃな。もっと技を磨き、魔力量が増えた時に試すがイイ。なぁに、お主ならそう遠くないじゃろうて〉

 メルクの慰めに近い言葉に、静流ははっとして睦美に聞いた。

「睦美先輩、明日はどうします? 不完全なレプリカだと、また迷惑が掛かるかもしれないし……」
「ちょっと待ってくれ、メルク殿、私の仮説を聞いてくれないか?」
〈うむ? なんじゃ?〉

 睦美はノートPCの画面に向かい、ヒソヒソとメルクと話し始めた。

「……という事であれば、魔力切れは起こさずに済むのでは?」
〈成程な。お主の言う事こそ、本来の『レプリカ』なのじゃ。あ奴のは特殊過ぎる〉
「では、可能という事でよろしいか?」
〈うむ。問題無いじゃろう〉

 ひとしきり対話し、納得しあった末に、睦美は静流に告げた。

「静流キュン、一晩メルク殿を借りたいのだが……」
「それは構いませんが、何かするんですか?」
「うむ。『明日のために』とでも言っておこうか……」

 睦美は多くを語らず、静流に自宅に帰るよう言った。

「お疲れ様。今日は上がってくれ。明日静流キュンは10時にココに来てくれればイイ。それまでゆっくり休んでくれ」
「そうですか。わかりました」
「カナちゃん、この後ちょっと付き合ってくれないか?」
「エエけど、報酬に何かオゴれよ?」
「恩に着る」

 睦美、カナメ、メルクを除いた一行は、VIP席に戻っていった。
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