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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-46

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インベントリ内 休憩所 VIP席――

 ユーザーへの感謝イベントが終わった。
 アクター四人を【レプリカ】で複製した静流だったが、魔力の消費が激しく、イベントが終わる頃には、三人掛けソファーに横になり、息絶え絶えだった。
 そうこうしていると、また数人VIP席に入って来た。

「「お疲れ様です、GM!」」 
「例の件、万事オッケーです!」

 入って来たのは、白黒ミサとシズムだった。
 手でOKのサインをした黒ミサが、恐らく頒布品の調達の件を睦美に報告した。

「おお! ご苦労だった……ぐぇ」

 睦美は、相変わらず忍に詰め寄られていた。
 ちなみに白黒ミサたちにとって、忍は『静流派』の創設者であり、隠密、体術等の師匠でもある。

「お師さん?GMが何かしたのですか?」
「した。 静流をこき使って、こんな体にした!」

 忍の目線を追うと、ソファーに横になっている静流が見えた。

「し、静流様!? どうなさってので……はっ!」

 黒ミサが何かに気付いたのに、忍が反応した。

「どうしたの? 黒瀬?」
「実は、オカ研のイタコが言ってました。 静流様に関して、良くない『ビジョン』が見えた……らしいのです」


「「「「なな、何ですって!?」」」」 


 黒ミサの発言に、レプリカを含めた一同が反応した。
 オカ研のイタコが見る【予知夢】は、的中率が半端では無い事を誰もが知っていた。

「それって、かなりマズいって事じゃねぇ?」
「具体的に、板倉先輩はどんな夢を見たんですか?」
「お静は助かるんだよな? 先輩たち?」
  
 その視線を受け、黒ミサは右手を突き出し、ドヤ顔で言い放った。 

「でも大丈夫! イタコから預かって来たコレを使えば……あり? 無い」
「ちょっと黒? どういう事?」
「今まで持ってた紙袋が、消えた!?」

 白黒ミサは、今一つ状況が把握出来ないでいた。 
 その中でひとり、毅然とした態度で静流に近付いて来る者がいた。

「シ、シズム? どうしたの?」
「お姉様、ちょっと退いて!」

 いつものふわふわした態度ではなく、真剣なまなざしで薫子たちを睨んだシズム。
 その雰囲気に気圧され、薫子はシズムに席を譲った。

「ん? シズム? どうしたの、そんな怖い顔して?」
「静流クンは黙ってて!」

 険しい表情のシズムが、紙袋から小箱を取り出し、中から小瓶を出した。

「あ! アレだ! シズムンが持ってたのか?」
「何をするんだい? シズムン!?」

 白黒ミサの前で、小瓶の蓋を開け、一気に口に含んだシズム。
 そしてそのまま、静流に顔をよせ、口移しした。

「むちゅ。 ちゅー」
「むぐっ!? んぐっ!?」


「「「「うげぇ~!?!?!?!?」」」」


 口に含んだすべてを飲ませたシズムが、ゆっくりと口を離した。
 絶句しているみんなが固唾を呑んで見守っていると、静流の全身が紫のオーラで包まれた。

 パァァァァ……

 紫のオーラが体内に吸い込まれ、フリーズしている静流。

「さっきのシズムン、鬼気迫る感じだったよね? 我を忘れていたような?」
「静流クンがタイヘンだったから、とっさに思い付いたの。前にマンガで読んだから……」ポォォ

 先程の自分の行為を思い出し、真っ赤な顔になる静流。

「今の薬、効いたのか?」
「効いてもらわなきゃ困るわ。じゃないと納得いかない!」

 達也の問いに、真琴が何故かイラだちながら答えた。 
 そうこうしているうちに、静流の目が覚めた。

「うっ、うう……ん」

 シズムは恐る恐る静流に話しかけた。

「静流クン? 大丈夫?」
「シズム。ありがとう。もう大丈夫だ!」ムク
「へうっ!?」

 そう言って静流は上体を起こし、シズムを抱きしめた。

「シズム、ちょっとこのままでいさせて……」
「ぷしゅぅぅ」

 静流に抱き付かれ、状況がさっぱりわからないシズム。

「ふう。ありがとう。さっき飲ませてくれたの、本物のMPポーションなの? スゴい効き目だね?」

 シズムから離れ、静流はテーブルに置いてあった小瓶を手にした。

「『マホビタンD』? 聞いた事ないな……」
「それは、オカ研のイタコが静流様にと私共に託したものです」
「イタコさんが?」
「何でも、『ビジョン』が見えたらしくて……」

 白黒ミサは、静流にイタコとのやり取りを説明した。

「……そんな事が。ありがとう、先輩たち」ガバッ
「「ふぐっ!?」」
「お陰で助かりました。僕は、イイ先輩を持って幸せです」
「も、勿体なき、お言葉……はぅ」

 静流は白黒ミサを抱き寄せ、耳元でささやいた。
 マホビタンDを飲んでからの静流の振る舞いに、違和感を覚えた一同。

「静流、もう平気なの?」
「薫子お姉様! アナタの励ましで、ここまで頑張れた……ありがとう」ヒシッ
「ひゃう!?」
「静流! 私も頑張ったんだよ!」
「わかってるよ忍ちゃん。ちゃんと声、届いてたよ……」ヒシッ
「おふっ」

 誰かと会話する度にハグをする静流に、一同は呆気に取られていた。

「やけに積極的やな。魔力切れの反動か?」

 そう言ったカナメが、小瓶が入っていた箱にあったメモに気付いた。

「ん? 何や? コレ」
「あの飲み物に関するものか?」

 睦美はカナメから渡されたメモを見て、一瞬目を見開いたが、数回頷き、納得した。

「ムッちゃん、なんて書いてあったん?」
「このメモによると、魔力を一瞬で全回復させる副作用として、『リビドー』の欠乏を補充する為に異性との接触を欲する、つまり『欲情』する、らしい」


「「「うぇぇぇ!?」」」


 睦美が読み上げた内容に、静流本人も含め、驚愕の声を上げた。
 魔素の根源はズバリ『性欲』である事から、容易に想像は付くが、常人には『理性』があり、そういった欲求を制する事が出来る。
 とりわけ静流に関しては、基本的に異性への干渉は避ける傾向にあり、性的欲求などは皆無と言って良い。

「……さっきから落ち着かないんだ。誰かをこの手に抱いてないと……ゴメン、サラ」

 そう呟いた静流は、おもむろに近くにいたサラを抱き寄せた。

「はひぃぃぃ……わ、私は大丈夫です。好きなだけ抱きしめて……下さい」
「……ありがとう。イイ匂いだね。石鹸の香り……」
「はわわわ……や、やっぱり恥ずかしいです」ドンッ

 静流がサラの胸元に顔を摺り寄せてきたタイミングで、サラは恥ずかしさの余り、静流を突き飛ばした。

「わっ! ゴメン、お蘭さん……少し寄り掛からせてくれない?」

 サラに突き飛ばされた静流が、蘭子にしがみついた。

「お、お静!? おめぇ、どうしちゃったんだ!?」
「自分でもわからないんだ……お蘭さんの二の腕、もちもちしてる……」
「止め……ろよ……ボゴるぞ?」

 静流にのしかかられている蘭子は、右手を握りしめるが、静流に色々な所をまさぐられ、すぐに力が抜けてしまう。
 
「おい、ホントにどうしちまったんだ? 静流?」
「達也ぁ、男同士ならイイのかな?」ガシッ

 心配そうにのぞき込んだ達也と目が合った途端、静流は達也に抱き付いた。

「女の子を襲うのは倫理的にマズいだろ? だったら男同士で『リビドー』を補填するしか無いでしょ?」 
「それも、倫理的にマズいと思うぞ? おいコラ、シャツに顔うずめるな!」

 達也を『床ドン』の体制に持ち込んだ静流。

「キャハハハ、止めろよ静流、くすぐったいぜ!」
「……止めない。じきに気持ちよくなるから」

 これまでの様子を見ていた睦美は、鼻の穴にテッシュを詰めながらうめいた。

「し、静流キュン、落ち付きたまえ、どうどう」

 まさか、静流に対して『どうどう』をする羽目になるとは、睦美には想定外だった。

「じゃあ、何とかして下さい……それとも、先輩が相手してくれます?」
「……オファーが来たのなら、やぶさかではないな。よし、おいで!」

 睦美が両手を広げ、静流を迎い入れようとした。 
 その時、睦美の前を黒い影が覆った。

「そうはさせません!」バッ!
「ま、真琴?」ガシッ

 静流を受け止めたのは、真琴だった。

「先輩は対策を考えて下さい! ここは私が……食い止めます……くふっ」
「わ、わかった。少し残念だが、そうしよう」

 真琴に飛びついた静流は、真琴の胸に頬ズリを始める。

「はふぅ……真琴って……母さんみたいな匂いがする……」
「それ……どういう、意味?」

 今の静流の言葉に、ピクリと反応した真琴。

「意味って? そのままだけど?」

 今の静流の言い草に、真琴は両手を組み合わせ、頭上に振り上げた。

「アタシはアンタの……オカンじゃねぇ!!」ガスッ!
「うごっ!? 真琴のミデア・クラッシャー……お見事」ガク

 静流の頭頂部に組み合わせた真琴の拳が炸裂し、静流は気を失った。

「もろに食らったぞ!? 死んだんじゃねぇの?」
「真琴……ドンマイ」

 静流を見て青くなっている達也と、なぜか上機嫌の蘭子。

「今のうちに早く対応策を! メルクさん! 何とかして!」

 PCの画面にいるメルクに詰め寄る真琴。

〈そうは言ってものう……そうじゃ! お主たち!〉 

 メルクは呆然と立ち尽くしているレプリカたちに声をかけた。

「へ? ボクたち?」
〈お主たちの『経験値』を、オリジンに注ぐのじゃ!〉
「成程。スキンシップなら腐る程やってるもんね、この子たち」

 リリィは、メルクの言わんとした事をいち早く悟った。
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