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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-48

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インベントリ内 休憩所 VIP席――

「「「「静流ぅぅぅ!?」」」」

「た、ただいま戻りました?」

 VIP席に静流たちが戻って来ると、一同から心配や驚愕といった様々な表情で迎えられ、静流は困惑した。

「静流!? もう大丈夫なの?」

 静流の顔を見て、すぐに駆け寄って来たのは真琴だった。

「うん! もう平気!」

 全快をアピールすべく、腕をぐるぐる回す静流。

「皆さん、ご心配おかけしました」ペコリ

 一同に頭を下げた静流に、リリィが気まずそうに話しかけた。

「こんな事になるなんて……アタシが【分身】の事なんか思いつかなければ……ゴメン」
「いえいえ。むしろ感謝です! リリィさん」
「え? そうなの?」
「僕の『可能性』が増えたんですから。苦しさより、嬉しさの方が勝ってます」
「そっか! じゃあ結果オーライだね♪」むにゅう
「リ、リリィさん!?」 

 リリィは静流の首に手を回し、自分の胸に押し付け、小声で言った。

「静流クン、『そうなった』時は遠慮なくアタシを頼ってイイからね。ウフ」
「へ? 何が何だか、良くわかりませんが?」

 リリィにじゃれつかれている静流い、真琴は聞いた。

「静流……さっきの事、覚えて無いの?」
「さっき? ああ、シズムの? 必死だったんだ。僕は気にしてないよ?」

 やはり静流は、シズムが口移しで『マホビタンD』を飲ませた辺りから先は覚えていないようだ。

「そう? そうなんだ……」

 真琴は、自分が静流を殴った事を今まで気にしていたが、本人が覚えていない事で少し安堵した。

「シズム、さっきは助かった。ありがとう!」
「よ、よかったね♪ もう大丈夫、なの?」
「うん。シズムが飲ませてくれた薬、スゴく効いたよ。体感的にはドクポの5倍はあるんじゃないか?」
「そうなんだ。静流クン、怒ってない?」
「怒る理由が見当たらないし。だってシズムは『キス魔』だもんね?」


「「「へ? うぇぇぇ~!?!?」」」


 静流の爆弾発言に、一部の者が反応した。
 蘭子がいぶかしげに静流に聞いた。

「お静、シズムンが『キス魔』ってのは本当なのか? いくら親戚でも、そんな事許されるはずないだろ?」
「え? うん。朝晩あいさつ代わりにされるけど?」
「何、だと……?」

 蘭子はショックの余りフリーズした。
 今のやり取りに、達也が興味を示した。
 ちなみに、シズムがロディだという事は、クラスでは真琴と担任のムムしか知らない。

「ま、まさか……ディ、ディープなのだったり?」
「そんなんじゃないよ。ただ唇をペロッと舐められるだけ。よくある事でしょ?」
「そんな室内犬みたいなヤツ、リア充以外考えられないぜ!?」

 静流は自分の言った事をはんすうしながら、シズムを見つめた。

「リ、リア充なんて……照れるなぁ」ポォォ
「へ? う、うん?」

 顔を赤くし、モジモジしだすシズムに、静流の顔から血の気が引いていく。
 ここにいる全員がシズムの正体を知っている前提で、シズムをからかったつもりだった。

「じょ、冗談だよ達也、それ、ウチで飼ってる豹のロディの事」
「あの灰色の、豹の事か?」
「そうそう。だから問題ないでしょ?」
「確かに。仁科の奴が『常温』の所を見ると、嘘じゃないみたいだな?」
「何よそれ! 私は温度計か!?」

 上手くごまかせた様で、胸を撫で下ろす静流。
 遅れて来た睦美たちが、VIP席にいる面々に告げた。

「さぁ、もうすぐ閉館だ! 撤収しよう!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 カチュアと鳴海は、ジンのレプリカにイカされた後、VIP席のソファーでうなだれていた。

「旅立たれたのね? ジン様は……」
「あぁ……私も連れてって欲しかった……」

 そんな状態のカチュアに、サラが気まずそうに言った。

「あの、先生、もう帰りませんか?」
「そうね……外出申請はティータイムまでだったけど、早めに帰るか……」

 アスモニアは、時差で6時間遅れとなる為。日本が夕方だと、あちらは昼前となる。
 朝は学校で待ち合わせたが、帰りは直接帰るつもりの静流。

「みんなは一旦学校に帰るの? 僕は直接ウチに帰ろっかな。真琴もその方がイイよな?」
「え? あ、うん。そうしようかなぁ……」

 真琴の煮え切らない態度に、静流は首をひねった。

「どうしたの真琴? 浮かない顔して」
「な、何でもない! じろじろ見ないで!」
「ふぅん。ま、イイか。達也はどうする? ウチからのが近いよね?」
「お、久しぶりだな、静流んち行くの」
「あまり変わり映えしてないから、期待しても何もないけどね」

 そんな事を言っている静流に、蘭子が話しかけた。

「アタイも、お静の家、行きたい」

 蘭子の申し出に反応したのは、真琴だった。 

「でも、蘭ちゃんの家って、太刀川だったよね? 学校からのが近いんじゃない?」
「そっか。なら部室の【ゲート】を使えばイイね」
「見たいんだ。さっき話してた豹を……」
「ロディの事? うん、わかった。じゃあ一緒に行こう」
「イ、イイのか? アタイも行って」
「イイよね? シズム?」
「モチロン。大歓迎だよ♪」

 結局、静流の家を経由するのは、静流、シズム、真琴、達也、蘭子となった。

「私も、静流の家に行きたい!」
「忍? 我慢しなさい! 大勢で押しかけたら迷惑でしょう? 私だって、美千留ちゃんに会いたいけど、我慢してるんだからね?」
「だって、だってなんだもん!」
「そんな歌の歌詞があったわね……もう、無茶言わないの!」

 忍は静流の家に行くのをしぶしぶあきらめたようだ。

 インベントリから『塔』を経由して帰るのは、五十嵐家御一行とリリィ、流刑ドーム組、あとは学園組だった。

「じゃあ、塔までは一緒だね」


 一方、学校の部室経由で帰るのは、鳴海と睦美、白黒ミサ、右京、左京、他の部員である。

「静流様、明日は基本オフですので、お好きにお過ごし下さい。ミサミサとシズム様には荒井マネが対応しますので」チャ
「鳴海マネ、朝早くからお疲れ様でした」
「……仕事、ですから」チャ

 鳴海は今朝、四時に静流を起こすポカをやらかしている。
 コミマケの一般参加者に、朝四時から並ぶ猛者がいる事を聞いた鳴海が勘違いし、フライングしたのだ。

「では皆さん、お疲れ様でした」

「「「「お疲れ様でした!」」」

 睦美たち学校経由組は、そう言って献血カーを出て行った。
 献血カーを出た睦美は、建物に設置してある時計を見て大きく頷いた。

「ふむ。便利なものだな。時間を融通できるとは、正に聖遺物よな……」

 つられて時計を見た黒ミサが、時計を二度見した。

「え? まだ16:45時だって!? あの車に何時間いたと思ってるんだ?」
「私は気付いてたわよ。説明されたでしょ? あの空間はな、時間の流れを調整出来るって」
「……信じ難いが、実際に体験したのだ。信じよう」

 白ミサにそう言われながら、何回も首を傾げている黒ミサ。

「車を不可視モードにして下さい。あと鍵は必ず締めて下さいね?」
「オッケー。バッチリやっとく」

 献血カーの後処理をリリィに任せ、睦美たちは撤収作業をしている個人サークルのブースに顔を出した。

「お疲れ様です! GM」
「ご苦労だった。明日も頼むぞ!」

「「「「はいっ!」」」」



              ◆ ◆ ◆ ◆



桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 撤収作業を全て終わらせ、オフィスに戻って来た睦美たち。

「ふう。お疲れカナちゃん」
「ムっちゃんこそ。 で、これから何を始めるんや?」
「決まってるだろ? 『静流キュン量産計画』だよ」
「はぁー。懲りないねぇ、鬼やな」
「私の仮説通りなら、今日の様な失敗にはならない。手を貸してくれ」
「わかったわかった。その仮説とやらを聞こうか?

 睦美たちの長い夜が始まった。
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