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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-3

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桃魔術研究会 第二部室 9:45時――

 静流が取得した魔法【複製】を昨日試してわかった事は、レプリカの『質』が極上で、それゆえに魔力のコストがかかり過ぎだった。
 その結果静流は、危うく魔力切れを起こす所だった為、睦美たちはその後、ほぼ徹夜で対策を考案したらしい。
 その過程で雪乃の協力を得た事で、構想は現実化し、今現在に至る。
 成功に浮かれている睦美たちに苛立ち、雪乃が説明を始めた。

「しょうがないわね。ワタシが説明しますの!」

 静流が腕に付けている操作パネルを、カナメたちは『ガジェット』と呼んでいる。
 元々は美術部の部長であり、花形光学機器の御曹司である花形実とカナメの合作であり、変装用の光学迷彩を投影するものだった。
 その後、静流が【化装術】を使用する際のイメージ補完用として役立ってきた代物である。

「アナタの『ガジェット』に、【複製】を行う際の補助機能を追加したのです」
「補助、ですか?」
「仮に『ミッションデータ』と呼ぶ事にしましょう。ミッションデータは、レプリカの製造条件の詳細を入力したものです」
「さっきはそのデータが入った状態だったんですね?」
「そう。そしてアナタが起動し、その条件でレプリカを製造出来るか演算させ、『承認』されたってわけ」
「成程。状況がやっとわかりました」

 静流は、ガジェットの液晶画面に表示されている『承認』の文字をまじまじと見た。

「僕の魔法は、やっぱり『イメージ』が重要なんですね?」
「そのようね。前に軍の技術少佐が言ってたんですの。アナタの魔法は、『イメージ』が全てだと」
「確かにアマンダさんに聞きました。実験で建物の一部を溶かしてしまった事がありまして……」

 アマンダが前に行った魔力実験の事を思い出し、静流の顔に青みがさした。
 カナメが二人の間に割り込んで来た。 

「それらを補う為に『ガジェット』を改良したんや! どや? エグいやろ?」
「これで、魔力切れを起こさずに済む……んですか?」
「せや。ミッションデータを入力すると、レプリカの可否、稼働時間とかが計算で出るようになっとる」
「へぇ。それはスゴい。カナメ先輩が考案したんですか?」

 静流は目を輝かせてカナメを見て言った。
 するとカナメは、手をブンブンと振り、照れながら全力で否定した、

「ちゃうちゃう。ムっちゃんの初期構想を、雪乃お姉様にアドバイスをもろて、オレとメルクはんでプログラムを構築したんや」

 続いて睦美が話に割り込んで来た。

「そのミッションデータは、私とカナメで昨日のアンケートを基に組んだものだ。見てくれ」
「えと……この設定だと、五人? ですか?」
「修正があれば受け付けよう!」

 静流は基本設定のタブを開き、設定の一部を閲覧した。

 シリアルナンバー1 ノーマル静流 
 シリアルナンバー2 シズルー大尉  
 シリアルナンバー3 シズベール
 シリアルナンバー4 七本木ジン
 シリアルナンバー5 ダッシュ6(バニーガールVer.)

「ジンさん、朔也さんのオファーがシズミより多かったんです?」 
「ジンの要望は、ネットの書き込みを考慮したんだ」
「成程。ん? ちょっと待って下さい?」
 
 静流は画面に映し出されているメンバー表を何回か見直した。

「ダッシュ6? ですか? 7じゃなくて?」 
「あ、ああ、その事か……」
「6は女性キャラですよね? 男性からのオファーがあったんですか?」
「う、うむ。それはだな……」
「しかも、バニーガールですか!?」

 矢継ぎ早に質問する静流に、睦美の顔から冷や汗が吹き出している。
 それを見てニヤニヤしていたカナメが、睦美をフォローした。

「それはなぁ静流キュン。ウチらの相手をしてもらう為にこさえたんや。ヌフ」
「左様。ダッシュ6クンは、私たちの専属秘書として召喚させてもらう」
「つまり、私物化……という事ですか?」

 静流は目を細め、二人に疑いの眼差しを向けた。

「カタい事言わんと。その位の報酬はあってもエエんと違う?
「そ、そうそう! 成功報酬だ! イイだろう? な? な?」
「う~ん、どうしよう……真琴、どう思う?」

 静流は即答できずに真琴に振った。

「アタシに聞かれても……先輩、その『ガジェット』を使えば、静流が昨日の様な状態にはならないんですね?」
「勿論。魔力を制限しているから、安全に【複製】を造れる」

 真琴の問いに、睦美は親指を立てて自信たっぷりに答えた。

「だったらイイんじゃない? アンタの為に徹夜してまで作ってくれたんだよ? その位大目に見てあげなさいよ」
「そうだね……わかりました。僕から修正をお願いする所はありません」

「「よっしゃぁ! キャッホゥ!」」 

 睦美たちはさっきより派手に喜びを表現している。
 そんな二人を、呆れ顔でため息をついた雪乃。

「ふう。アナタたち、まるでガキね。 では静流サン、始めますわよ?」
「はい、 了解しました」

 静流は一度深呼吸をしてから目を閉じ、忍者が術を使う際の様に、九字印の『臨』の印を結んだ。
 そして、目を開くと呪文を唱えた。


「行きます!【複製レプリカ】!!」ポォォ


 静流の身体全体が赤く輝き、左右に影が二体現れ、それが分裂して四体となり、続いてもう一体計五体の影が現れた。
 五体の影たちの頭上から、レーザー光線の様なものがゆっくりと下に下りて来て、徐々に形がはっきりして来た。
 それはまるで、3Dプリンターでフィギュアをプリントアウトしているようだった。

「ふむ。覚えたてとは思えない手際。 お見事です」

 雪乃は素直に感心した。

「ですが、術を発動する際のポーズ、痛々しいですわね……」
「雪乃お姉様、好きなようにさせてあげて下さい。武士の情けです」

 眉間にしわを寄せ、不満そうな雪乃を、睦美は苦笑いしながらなだめた。

「静流サンは、どうやら形から入るタイプのようですね? ま、イメージ力を高めるには効果的かもしれません」

 影の具現化が完了し、印を解いた静流は、ため息をついた。

「ふぅ……どうでしょうか?」

 静流の前には、ノーマル・シズルー・シズベール・ジンの四体と、バニーガール姿のダッシュ6が立っていた。

「むほぉ……こりゃぁたまらんなぁ……」
「想像以上の出来栄えだ! グッジョブ!」 
 
 睦美たちはとりわけダッシュ6の完成度の高さに感心していた。

「静流サン、レプリカたちに質問してみなさい」

 雪乃に促され、静流がレプリカたちに質問した。

「では、えぇと、キミたちの使命は?」

「お客様を満足させる事!」
「お客様の要望に、可能な限り応える事!」
「お客様に誠心誠意尽くす事!」
「お客様に、最高のひと時を提供する事!」

 四人のレプリカたちが、順番に返答し、静流は何度も頷き、納得していた。
 最後にダッシュ6が口を開いた。

「睦美お姉様とカナメお姉様に、愛情を込めてご奉仕する事!」

「え? 愛情?」じぃー
 
 ダッシュ6の物言いに静流が反応し、先輩たちに疑いの眼差しを向けた。

「は、ははっ、レプリカの戯言だよ。真に受けるな」
「せやせや。気にせんと、他に聞く事は無いか?」

 睦美たちが手をブンブンと振り、話題を変えようと必死になっている。

「ダッシュ6、キミの主な仕事は?」
「ワタシの仕事は、睦美お姉様とカナメお姉様の肉奴れ―― フガフガ」

 カナメが慌ててダッシュ6の口を塞いだ。

「肉奴隷……? それって……倫理的にどうかと思いますが……」
「ちゃうちゃう。昼飯の肉をどれにするか選んでくれるみたいや」
「ん? 本当に? ですかぁ?」

 静流は疑いを強め、カナメたちににじり寄って行った。

「本当や。昼はしゃぶしゃぶにしようって、な? ムっちゃん?」
「ああ。昼はノーパ……コホン、焼肉かしゃぶしゃぶで迷っていたのだよ……」
「ふぅーん。そうですか……」

 静流は暫く疑いの目を向けていた。

「ま、イイや。そう言う事にしときます。フム。見た目は問題無し、と」

 どうでも良くなったのか、他のレプリカの方に行った。

「ふぅ……何とか誤魔化せたか?」
「危なかった……次は完璧な条件付けをしないと……」

 胸を撫で下ろしている二人に、雪乃は薄笑いを浮かべながら告げた。

「フッ、静流サンのお目こぼしよ。あり難く受け取る事ね?」

「「ははぁー」」

 二人は静流に向かい、深々と一礼した。
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