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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-4

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桃魔術研究会 第二部室 10:00時――

 第二部室で【複製】を五体製造する事に成功した静流。
 雪乃とレプリカの出来を確認している。

「フム。 品質はこんなもんでしょう。及第点ね」
「ありがとうございます。 雪乃お姉様」パァァ

 雪乃に認められたのが嬉しかったのか、雪乃に満面の笑みで礼を言う静流。

「みゃう!? アナタ、誰にでもその対応なの?」
「え? 別に相手毎に変える必要、あるんですか?」

 雪乃に指摘された事がピンとこなかったのか、不思議そうに首を傾げる静流。
 近くにいた真琴が雪乃に言った。

「こういう奴なんです。八方美人というか何と言うか……」
「アナタも苦労したのね? この子、薫と同じで女難の相がくっきりはっきり出ている……不憫だわ」

 雪乃はオデコに手をやり、顔を左右に振った。
 するとそこに、長い金髪をポニーテールにした、つり目のヤンキー風美人が現れた。

「よぉヅラ! どうやら上手く行ったみたいじゃねぇかよ?」
「リナ、遅いじゃない! 寝坊したの?」
「ワリィ、 二度寝しちまった!」
「リナ姉! 来てくれたんだ」
「おう静坊。また会ったな」

 リナとは昨夜、『塔』で会って、その日の出来事を話してあった。

「夕べ静坊の話を聞いた時、ズラだったら役に立つんじゃねぇか、って思ってな」
「まんまと乗せられたわ……昨日は薫子と忍が参加したのでしょう? ワタシだってたまには下界の空気を感じたい時もあるのよ?」

 今日の成功の立役者である雪乃をこちらに誘導したのがリナだったのは、予想外の事だった。

「薫はまたどこかのダンジョンに行ってしまうし、退屈で仕方なかったの。 丁度良かったわ」

「そうだったのか。ありがとう! 二人共!」パァァ

 静流が再びニパを繰り出した。

「お、おう……調子狂うなぁ」
「うっ、またもや食らってしまったわ……小悪魔め」

 ニパを食らったお姉様たちは、何やらそわそわしていた。

「リナ姉が来てくれたって知ったら、お蘭さん喜ぶぞぉ♪」
「個人戦って10:30時だったわよね? もう会場にいるんじゃないの?」
「そっか。とりあえず第一部室に行きましょう」

 膜張メッセに通じている【ゲート】を使用すべく、第一部室に向かおうとした静流。

「ええと、この子たちの面倒は、先輩たちにお任せしてイイんですか?」
「勿論だとも。安心してくれ。完璧にやり遂げるさ」グッ

 レプリカたちを睦美に丸投げするつもりの静流。
 睦美は親指を立て、自信満々で引き受けた。

「静流キュン、一応ヘルスチェックの為に、 昼食時に顔を出してくれんか?」
「それは構いませんが。 どうせココの食堂を使うと思いますから」
「コイツらの魔力量によっては『チャージ』してもらう事になるかも知れんから」
「わかりました。 くれぐれも面倒事は御免ですからね?」
「だ、大丈夫だ。 私が責任もって監督するから、キミは今日一日、コミマケを楽しんでくれたまえ」

 静流は先輩たちを交互に見つめてから、悪戯を思いついた子供のような顔で言った。

「隠しても無駄ですからね? この子たちの記憶を覗く事だって出来るんですから」
「承知した。 失望はさせんよ」

 静流が真琴たちの元に行ったのを見て、睦美たちは深いため息をついた。

「ふぅ。 ほれ、ダッシュ6ちゃんで妥協しといたんが正解やったろ?」
「ああ。 流石に『ネコミミメイドのシズミ君』はドン引き必須だったろうな……」

 睦美たちはダッシュ6のトレードマークである、桃色のストレートヘアを撫で、メリハリのあるボディを舐め回す様に眺めている。

「フムフム。 実にけしからんわがままボディだな……」
「さぁて、ナニして遊ぼうか? ヌフ」

 その時、睦美が何か思い出したようで、静流に声をかけた。

「おっと待ちたまえ、静流キュン!」
「え? 何です? 睦美先輩?」
「何か、忘れて無いかい? 腕輪とか?」
「ああ! 『サチウスの腕輪』ですか!」
「今持って来る、待っていてくれ」

 睦美はオフィスに行き、腕輪が入った袋を静流に渡した。

「でも、メガネも着けていますし、今日は必要無いんじゃないですか?」
「万が一って事もある。 用心に越したことは無いだろう?」
「それもそうですね。お気遣い感謝します」パァァ
「はうっ……出来る様になったな、静流キュン……」

 静流の何気ないニパを浴び、よろめく睦美。 

「念のため二つ着けた方がイイ。 キミ以外に触らせるなよ?」
「わかりました。 ありがとうございます」

 こうして静流たちは、 【ゲート】が設置してある第一部室に向かった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



桃魔術研究会 第一部室 10:15時――

 時計を見た素子が蘭子に言った。

「蘭ちゃん、 そろそろ会場に行って、 エントリーを済ませた方がイイですね?」
「そうだな。 行くか」

 蘭子たちが席を立ち、ゲートの前に行こうとした時、部室の扉が開いた。

「お疲れ様でーすっ」

 扉を開け、入って来たのは静流と真琴、シズムだった。

「お静! 早いな。もっとゆっくりして来ると思ったぜ?」
「そのつもりだったんだけど、いろいろあってね……」
「静流様! 丁度良かった。 私たちも今、行こうとしてた所なんです」
「そうでしたか。 こちらはあと二人来ますので」

 蘭子がメンツを確認すると、静流に聞いた。

「お? 土屋の奴は来てないのか?」
「ああ、達也は今日、伊藤さんとデートらしいよ」
「朋ちゃん、かなりご立腹だったみたい。土屋の奴、端末の電源落ちてて、静流の家を出る時に気付いたらしいの。 真っ青な顔してたわ」
「そうか。まぁ奴がいようがいまいが関係無いか……」

 そんな話をしていると、部室に二人入って来た。

「御機嫌よう。後輩サンたち」
「おす、邪魔するよ」

 入って来たのは、雪乃とリナだった。

「葛城雪乃お姉様と、篠田サブリナお姉様……お懐かしゅうございます……」
「アナタ、ギャルゲー担当の……?」
「早乙女素子でございます! 雪乃お姉様!」

 素子と雪乃は面識があるようだ。

「アネキ! お疲れッス!」
「おう蘭子、見に来てやったぜ?」

 蘭子は深々と頭を下げ、リナは蘭子の肩をポンと軽く叩いた。

「ま、そう固くなるな。 落ち着いて掛かれよ?」
「はいっ! 頑張ります!」

 挨拶が済んだので、静流は一同に声をかけた。

「では皆さん、行きましょうか?」

「「「「おぉ~!!」」」」



              ◆ ◆ ◆ ◆



膜張メッセ 10:20時――

 第一部室に設置された【ゲート】をくぐると、そこは広大なホールに出た。
 個人サークルの桃魔のブースを覗くと、設営をほぼ終わらせた部員たちが挨拶して来た。

「お疲れ様です! 静流様!」
「ご苦労様です。 薄い本、完売出来るとイイですね?」
「はい! お任せ下さい!」

 部員たちに挨拶を済ませた静流は、蘭子に声をかけた。

「じゃあお蘭さん、三回戦からは直接会場で応援するから、頑張ってね?」
「おう。やるだけやってみるさ」

 ポケクリバトルの個人戦にエントリーすべく、蘭子は会場に向かった。
 昨日の団体戦で好成績だった蘭子は、三回戦から出場出来るシード権を得ている。
 蘭子と別れた静流たちは、献血カーの方に向かった。
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