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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-21

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ポケクリバトル会場 ソロ充の控室 13:15時――

「コッチコッチ。 急いで♪」
「そんなに引っ張らないで下さい、準決勝が始まっちゃう」
「準決勝なんて眼中ないんでしょ? わかってるんだから」

 ソロ充は、蘭子たちが決勝の対策で悩んでいるのを見ていたので、そう思ったのだろう。

「違います、 準決勝は楽勝なんて少しも思ってませんから……」 
「トーナメント表を見れば一目瞭然じゃない。 素直に認めなさいよ」

 静流の手を引き、自分の控室に連れ込もうとするソロ充。

「さ、 早く入って! 別に取って食おうってワケじゃないんだから」
「わ、わかりましたから、押さないで下さい……」

 これほど強引に事を進めようとするのは、妹の美千留くらいしか思い当たらなかった。 
 部屋に入ると、ソロ充はあるソフトを立ち上げた。

「剣盾? ソードシールド、ですか!?」
「幻のベータ版よ♪ 本チャンが発売する直前に開発が中止になったの」

 ソロ充は得意げに説明を始めた。

「私は昔、 バイトで『カップコン』に出入りしててね」
「カ、カップル・コンピューターで働いてたんですか?」
「大学生だった。 その時にイロイロ失敬して来ちゃったの♪」
「じゃあ、バッシュさんとも?」
「勿論。あの人は主任さんだった。 仕事熱心な人だったよ……」

 ソロ充はそう言うと、少し寂しそうな顔をした。

「それで! このベータ版で手っ取り早く取得できる技があるのよ!」
「その技、とは?」
「フフン。 ま、イイからイイから♪」

 静流の問いを、ソロ充ははぐらかした。

「アナタはギシアンちゃんを使ってこれからボスと一戦交えるのよ!」
「ボス? ですか?」
「私もサポートするから。 要は『レイドバトル』ね♪」

 レイドバトルとは、他のプレイヤーと共闘してボスのポケクリと戦う協力プレイである。

「ポケクリにそんな機能を導入する計画だったのか……」
「オンライン化が目玉だったからね。 今度は間違いなく実装になるわよ♪」
「ソロ充さんは、その後プラセボに入ったんですか?」
「まさか。今の私は『フェミ通』の編集者よ♪」
「『フェミ通』!?」

 フェミ通は、『フェミコン通信』と言う家庭用ゲーム機の総合情報誌である。

「今回は取材も兼ねて出場したの。お陰で面白い特集記事が出来そうよ♪」

 そう言ってソロ充が親指を立てた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 蘭子の控室 13:20時――

 静流がソロ充に連れて行かれてから、10分が経過した。
 蘭子は苛立っていた。

「……ったく、ソロ充の奴、 お静をどこに連れて行きやがったんだ?」

 そう呟きながらも、蘭子は次の試合の準備に集中した。
 するとドアをノックし、突然ADが控室にせわしなくやって来た。

「『ツンギレ』様、 スタンバイお願いします!」
「うぉ!? うす……」

 蘭子はADに促され、ゆっくりと動き始めた。

「しょうがねぇ、 行って来るか……」
(お静の奴、何処にいるんだ?)

 蘭子はおもむろに椅子から立ち上がり、控室を出た。
 ADの後を付いて行くと、対戦用ボックスの前でADが立ち止まった。

「では、ボックスに入って次の指示をお待ち下さい」
「え?……うす」
(お静の奴、何やってんだ?)

 ADに話しかけられても上の空の蘭子に、ADは何かを察し、蘭子を励ました。 

「緊張してるんですね? 大丈夫! 応援してますよ♪」
「は、はぁ……」
(お静の奴、大丈夫なのか?)

 神妙な面持ちで対戦用ボックスに入る蘭子。

(ヤベェ……アイツの事が気になって仕方ねぇ……)

 やがて蘭子の頭の中は、静流の事で一杯になっていった。
 四人がボックスに入ったのを確認し、シロミが指示を出した。

「それでは皆さん、バトルルームに入って下さい!」

 バトルルームとはゲーム内の部屋で、プレイヤーがアバターとして中に入る仕組みになっている。
 シロミの指示で蘭子がコントローラーを操作すると、大型スクリーンにアバターが出現した。

「準決勝に駒を進めたプレイヤーは、この四人だ!」



「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」



 大型スクリーンに四人のアバターが表示され、会場がひと際沸いた。
 クロミが簡単にプレイヤーを紹介した。

「東Aブロック、『ツンギレ』選手!」
「「「わぁぁぁ!」」」

 最初に『ツンギレ』と紹介された蘭子のアバターは、赤いスカーフの紺色のセーラー服で、ヒダ多めの床すれすれ超ロングスカートだった。

「東Bブロック、『セイラ・鱒』選手!」
「「「わぁぁぁ!」」」

 次に『セイラ・鱒』と紹介されたアバターは、金髪ボブカットの女性キャラで、ピンクをベースにした渓流釣りファッションだった。

「西Aブロック、『バッシュ』選手!」
「「「わぁぁぁ!」」」

 次に『バッシュ』と紹介された全身黒のアバターは、フルフェイスのヘルメットを被り、革ツナギを着ていた。

「そして西Bブロック、『オリジナル笑顔』選手!」

 最後に『オリジナル笑顔』と紹介されたアバターは、ひと昔前のビジュアル系バンドを連想する、パンク系ファッションだった。
 クロミの紹介が終わり、シロミが進行を続けた。

「それでは早速、東ブロックの準決勝を始めまぁす!」

 大型スクリーンに、二体のアバターとプレイヤー名が表示された。


『ツンギレ VS セイラ・鱒』
「「「「うぉぉぉー!!」」」」


 懐かしいBGMと共にそれぞれに『START!』の文字が映し出された。
 それぞれのステータス画面に、選出したポケクリが表示された。

  蘭子が召喚したポケクリは、

・ブルーアイズ・レッドドラゴン(炎/ドラゴン)
・ギランバレ(電気/地面)
・メッチャヤバイハナ(草/悪)

 であった。対するセイラ・鱒が召喚したポケクリは、

・ラミパス(フェアリー/水)
・ガイオウガ(ノーマル/水)
・チョレイ(格闘/水)

 であった。
 ポケクリが表示された途端、会場がざわついた。

「おい……ツンギレのチョイス、 ヤバくね?」ざわ…
「水責めか?」
「お互いに禁止級だぜ? 属性なんてお構いなしかよ……」ざわ…

 セイラは小手調べにチョレイを召喚し、ツンギレは最初からブルーアイズを召喚した。

「ブルーアイズ!【かみちぎる】!」グシャ
(お静の奴、今頃何してんだ?)

 チョレイは、ブルーアイズのごく初歩的なノーマル攻撃であえなく撃沈した。

 
「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


「一撃で倒しやがった……バフでもかかってるのか?」ざわ…

 セイラは次に、フェアリーのラミパスを召喚した。

「ラミパス!【ゆうわくこうせん】!」ピピピピ

 ラミパスから♡マークの光線が放たれた。
 属性の相性から、効果は抜群のはずだが……。

「効果は今一つ? き、効いてない!?」

(お静の奴、 アタイの気も知らないで、 勝手な事しやがって……)ゴゴゴゴ

 それどころか、ブルーアイズの体中を、ドス黒いオーラが覆った。

「な、何が起こったの!? うっ!」

 セイラがブルーアイズのステータスを見て驚愕した。

「【しっとのほのお】、 ですって!?」

 ブルーアイズは、ドス黒いオーラをまといながら構えた。

「ブルーアイズ!【大車輪タコなぐりパンチ】!」タタタタッ
(イヤイヤ。 アイツに限ってそれは無い……でもな)

 ラミパスは抵抗出来ないまま、大量のパンチを受けて霧散した。

 
「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 セイラは残されたガイオウガを召喚し、雨を降らせた。

「さぁ! 雨の効果で攻撃は倍よ! ガイオウガ、【しおふき】!」ブシャァァァ!

 雨を降らせた効果で上乗せされた【しおふき】は、ガイオウガの必勝パターンだった。

「これでブルーアイズは……ってまだ半分もHPが残ってる!?」

 なおもドス黒いオーラをまとったブルーアイズは、見る者を震え上がらせた。

「アイツ、 何で怒ってるんだ?」ざわ…
「嫉妬の炎は相手をやらない限り消えない。 はぁ、くわばらくわばら」

 ブルーアイズのターンとなり、ツンギレが技を指示した。

「ブルーアイズ! 【えびぞりハイジャンプかかと落とし】!」
(変な事考えるな! アタイのバカァー!!)

 コマンドを受信したブルーアイズは、垂直に高く飛んだあと、空中で背中を反らせ、ガイオウガに向かって落下した。
 えび反った反動と、自重から得られる運動エネルギーを右足のかかとに集中し、ためらいなくガイオウガに振り下ろした。

「凄まじいインパクトだ! 効果はイマイチのはずですが、見る見るHPが削れて行きます!」

 ガイオウガのHPが一瞬でゼロになり、ガイオウガは霧散した。
 興奮気味のクロミが実況席で立ちあがった。

「勝者、 『ツンギレ』選手! 圧倒的勝利です!!」

 
「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」


 会場が今日イチの盛り上がりを見せている事に、蘭子は今頃気付いた。

「ん? 終わった……のか?」

 画面を見ると、『WINNER』の文字と自分のアバターが映っていた。

「あれ? 勝ったのか? アタイ……」

 勝利の実感が全くない蘭子だったが、結果オーライとして自分を納得させた。

「ま、イイか。 ったく、お静の奴はソロ充と何処に行ったんだ?」
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