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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-22

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ポケクリバトル会場 蘭子の控室 13:45時――

 準決勝を勝ち抜いた蘭子は、その後の試合を直に見届けた後、控室に戻った。
 会場の自販機で買ったデュアルゴールドの蓋を取り、グイっとあおった。

「ぷはぁ! 予想通りとは言え、 参ったぜ……」

 するとノックもなく控室のドアを開け、入って来る者たちがいた。

「だだいまぁ! ツンギレさん、 決勝進出おめでとう!」
「ご、ごめんお蘭さん、大事な時に近くにいなくて……」

 入って来たのは、ソロ充と静流だった。
 ソロ充は悪びれた様子もなく、ニコニコと笑っている。
 静流は若干気まずそうにしていた。
 蘭子は顔を赤くして静流に怒鳴った。

「お静! どこほっつき歩いてた!? 心配したんだぞ!?」
「ごめん、 でもあの状況ならわかるでしょ?」
「うっ、確かにそうだな……」

 気まずそうにそう言う静流に、蘭子は取り乱した自分に気付き、一層顔を赤くして静流に言った。

「それで……収穫はあったのか?」
「う、うん。 それがね――」

 静流が説明を始めようとした時、横からソロ充が割り込んで来た。

「喜びなさい! 大収穫よん♪」
「アタイはお静から聞きたいんだ! 黙ってろ!」
「ちぇー。 私の解説の方がわかりやすいと思うんだけどなぁ」

 静流は所々ソロ充の補足を挟みながら、蘭子と別行動だった時の詳細を語った。

「何だって!? そんな代物があったのか?」 
「ソロ充さんは昔、カップコンにいたんだってさ」

 説明を聞き終わった蘭子は、驚きを隠せずにいた。

「で? 何でアタイに協力しようと思ったんだい? リア充さんよ」
「アナタと対戦した時、あの開発チームにいた頃を思い出して、ついお節介しちゃった、ってワケ」

 リア充はちろっと舌を出して、ニコッと笑った。
 静流は真剣な顔になり、蘭子に聞いた。

「さっき、直で見たんだよね?『オリジナル笑顔』の試合」
「ああ、見た。 バッシュは健闘したと思うけど、 負けた」
「バッシュさんはブラッカラムを出したんだね?」 
「出したよ。 でも、あんな戦い方もあるんだなって、 迂闊にも片桐に感心したぜ」

 ソロ充は眉をひそめ、蘭子に聞いた。

「彼の真名を知ってるって事は、少なからず因縁がありそうね? ムフゥ」
「少し、な」

 蘭子はかいつまんで片桐とのいきさつをソロ充に説明した。

「ディグデグの256面!? 確かにそんな都市伝説があったわね……」
「そのお方に奴は喧嘩を売ってボゴられたんだ。 格闘ゲーでの話だけどな」
「ふぅん。 でもそれって、その時に決着してるじゃない。 今更何か問題でも?」
 
 ソロ充は腕を組み、首を傾げた。

「あの後奴はあの方に何度も挑み、その都度負けた。 挙句の果てに奴は……あの人に告って玉砕した」
「ほら。 やっぱりこの物語は完結してる。 問題無いでしょう?」
「確かに。だが問題は、今その方が膜張にいるって事だ」 
「伝説の人が? ココに?」
「ああ。アタイはアイツを倒し、あの方を護る!」

 蘭子は静流たちに力強く言い放った。

「リナ姉を護る……か」
「頼もしいけど、勝算はあるのかしら?」
「それを今考えてたんだろ? コッチが聞きたいぜ……」

 そんな蘭子に、ソロ充が聞いた。

「そう言えばさっきの試合、どんな作戦だったの?」

 蘭子は改めて先ほどの試合を振り返ろうとした。

「わかんねぇ。 お静のばっか事考えてたら、試合が終わってた」 
「ぼ、僕の事!?」
「うっはぁ~っ♡ 甘酸っぱさ満点ね」

 ソロ充に冷やかされ、みるみる顔が赤くなっていく蘭子。

「う、 うるせぇ、 やっぱ今の無しだからな!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 オリジナル笑顔の控室 13:45時――

 時を同じくして、『オリジナル笑顔』こと片桐英二は、舎弟のクニヒコと控室にいた。

「いやぁ、 楽勝でしたねアニキ!」
「そうでもねぇよ。手順がズレてたらコッチがお陀仏だったぜ?」

 先ほどの準決勝を振り返っていた。

「決勝のツンギレの切り札は、バッシュと同じブラッカラムですよね? 対策はバッチリでしょうに」
「同種でも『個体差』がある。 あとはブルーアイズだ。 あれは侮れないぞ?」
「確かにそうッスけど、 アニキの必勝パターンにハメればコッチのもんですって」
「あくまでもクリーンに、 かつ確実に勝てるように慎重にいかないとな。 なにせこのタイトル獲得が新生『オリジナル笑顔』の初陣なんだからよ! クヒヒヒ」

 そう言って片桐はニヤけた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 蘭子の控室 14:00時――

 話題は西ブロックの準決勝時の様子になった。

「お蘭さん、 さっきの試合で何かおかしな点はなかったの?」
「ああ。 まとも過ぎる位にまともだった」

 静流の問いに蘭子は、落ち着いた口調で返事した。

「バッシュさんはブラッカラムを使ったんでしょ?」
「アイツは真っ向勝負を挑んで、 ブラッカラムを撃破したよ……」
「もしかして、特殊攻撃無しの、 ガチ?」
「ああ、 ノーマル技しか使って無かったよ」
「バフはかけてるわね? バキに使ったメンタル強化系の」
「それは勿論やってた。 じゃねぇと無理だろ、あんな一方的な試合……」
 
 次第に曇っていく蘭子の顔を見て、ソロ充がからかい半分にツッコミを入れた。

「でもさ、ツンギレちゃんだって、さっきやってたじゃん?」
「えっ? アタイが!?」
「チラッと見えたのよ アナタの戦いっぷり♪」

 驚愕の表情を浮かべた蘭子に、わざとらしく陰気な顔で言うソロ充。

「まさしくあれは、 地獄絵図だった……修羅と化したブルーアイズが、 ラミパスちゃんをタコ殴りにしてたの……」
「あ、あれは……物凄くむしゃくしゃしてたんだ」
「背後にドス黒いオーラをまとってたわね。 一体何があったのかなぁ?」
「お、お前なぁ! わかってるんだろ!? もう許してくれよぉ……」

 静流は二人のやり取りを不思議がっていた。

「ちょっとよくわからないんだけど、説明してもらえますか?」
「お静は知る必要無い!!」
「――だそうよ♪ フフフ」
「ん? ううん?」

 何故か逆ギレしている蘭子に、静流はますます不思議がった。

「もうイイだろ? それよりさっき聞いたギシアンの新技とやらを見せてもらおうか?」
「ああ、それはね……」

 静流はギシアンのステータスを蘭子に見せた。

「結構大変だったんだよ? ギシアンでジュノーンを撃破するの」
「ジュノーンだと!? そんなのとレイドバトルをやったのか?」
「私も及ばずながら協力したのよ? ねぇ? スパダリさん?」
「う、うん。 ソロ充さんには助けてもらいまくりで……」
「ああそうかよ! ったく、 どいつもこいつも……」

 今のやり取りにイラつた蘭子は、ギシアンのステータスをもう一度見た。

「ん? これは……確かに使えるかもな」

 蘭子は顎に手をやると、何やら考え始めた。

「シンキングタイム、 スタートね♪」
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