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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-6

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――

 テスト休み中の教室には、静流と睦美の他、達也・蘭子・イチカの追試組と、助っ人で静流が連れて来たロディがいた。
 追試でイイ点を取らないと、冬休みは『課題漬け』となり、とても遊んでいる余裕は無くなってしまうらしい。
 そればかりか、ムムちゃん先生の来年度の査定に響くとの事で、静流にクエスト依頼が来たという経緯だ。
 三人は先ほどロディから試験範囲の教科書及び参考書の内容を【ロード】し、強制的に脳に焼き付けた所だった。

「よし皆の者! これから模擬演習を行う!」
「うぇ~!? いきなりッスか?」

 睦美は腕を腰に当てて言い放った。
 三人はそう言われて急に顔を青くした。

「うろたえるな。 ロディ殿から『学習』を受けたお前らには造作も無い事だろう?」
「そうだよ。 やってみればわかるから」

 睦美の多少嫌味を含んだ言い草に、静流が乗っかった。

「これは私が去年受けた二年生の二学期末のテストだ」

 そう言って睦美は、教壇に三人に共通する追試科目である『魔法物理』のテスト用紙を置いた。

「魔法物理か……苦手なんだよな……」
「考えるより手を動かした方が楽だしな」
「早く、 帰りたい……」

 青い顔で下の方をじっと見ている三人に、睦美は穏やかな表情で告げた。

「この問題が解ければ今日は解散とする。 さらに追試当日まで休んでもイイぞ」  
「「「えっ!?」」」

 すると三人の顔に生気が戻って来た。

「本当か? 先輩?」
「よっしゃぁ! そう来なくちゃ!」
「おーし! いっちょやるか!」

 やる気がみなぎっている三人の前に、睦美は問題用紙を伏せた状態で配った。

「そうだ静流キュン、 キミも受けたまえ」
「へ? 僕もですか?」

 家から持って来たマンガを読んでいた静流に、睦美が声をかけると、静流は一瞬嫌な顔を浮かべた。

「なぁに、 折角いるんだからこいつらに付き合ってやってくれよ。 確認にもなるしな」
「わかりました。 睦美先輩がそう言うのなら」

 抵抗すると思っていた静流は、やけにあっさりと睦美の要求を受けた。
 そう言って微笑みながら見つめ合う二人。
 その二人のやり取りを見て、達也は何かがひっかかっていた。

「……何だろう? この以心伝心と言うか、 阿吽の呼吸と言うか……」

 達也の発言にうんうんと頷いたイチカと蘭子。

「わかる! 『ツー』と言えば『カー』、みたいな?」
「確かに……先輩とお静の距離が縮まった、 と言う事か?」

「「「う~ん……」」」

 三人は腕を組み、首を傾げて唸った。 

「お前たち、 まだ問題も見ておらんのに何を唸っている?」

 睦美は目を細め、達也たちを覗き込んだ。

「え? あ、 コッチの話です」
「き、気にすんなって」

 達也と蘭子は慌てて、手をブンブンと振った。

「そうですよ。 ただ殿下とシズルンがやけに仲イイよなぁっーて思っただけですから♪」

 イチカは悪びれもせず、思ったままの事を睦美に言った。

「そうか篠崎。 やはりそう見えていたか……ムフフフ」
「それはもう。 リア充一歩手前って感じでしたよ♪」
「やはり、 先日の事が功を奏したのだろう。 ムヒヒヒ」

 イチカにそう言われ、思わず舞い上がってしまう睦美。
 それを見ていた静流は、危険を感じて咄嗟にツッコミを入れた。

「睦美先輩!? 誤解を生み兼ねない発言は慎んで下さい!」
「おおスマンスマン。 ついうっかり先日の出来事を吐露してしまう所だった」
「お願いしますよ? もう……」
「悪かったよ。 お詫びに今朝焼いたクッキーをあげよう!」
「え? イイんですか? やったぁ♪」

 そう言って微笑み合う二人を、三人はただボーッと見ていた。

「ナニかあったねこの二人、 幸せオーラムンムンじゃねぇか……」
「あんだよそれ? どういうこった?」

 呆れ顔の達也に食って掛かる蘭子。

「簡単に言うと、 ふたりは『ラブラブ♡』って事かな?」
「何ぃぃぃ!?」
 
 イチカがそう言うと、蘭子は振り向き、イチカを睨んだ。
 そんな三人に気付き、睦美は教壇を指でつついて音を出し、三人に注目を促した。

「コホン。 では静流キュン、 これを」 
「仕方ない。 やるか」

 軽く咳払いした睦美は、静流の前に問題用紙を置いた。

「時間は15分。 よし、 始め!」

 追試の模擬テストが始まった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 開始早々、三人に動きがあった。

「うおっ!? 何だこりゃ!? 頭の中が騒がしいぞ!?」
「うわっ!? 文字が溢れてくる!」
「あわわわ、 なんかアタマの中が変だ!」
 
 始めは頭を抱えて唸っていた三人だが、暫くすると落ち着きを取り戻した。
 問題に集中しているのか、教室には用紙にペンを走らせる音しかしなかった。
 少し経った頃、睦美が時計を見た。

「10分経過。 おや静流キュン、もう終わったのかい?」
「ええ。 言っときますが、 手加減なしですからね?」
「スゴい自信だな。 よぉし! もし満点だったら、 私が何かしてやろう♪」
「何かって、 具体的には何です?」
「静流キュンの頼みだったら、何でもイイぞ?」
「えっ、 何でもイイんですか? 本当に?」
「二言は無い。 何なりと申すがイイ」

 そんな二人の会話などにはツッコまず、三人は黙々と問題を解いている。
 やがて制限時間の15分が経った。

「よしそこまで! ペンを置きたまえ!」

「「「ふぅ……」」」

 睦美の号令に一斉にペンを置き、大きく溜息をついた三人。

「今から採点を始める。 少し休憩だ」

 そう言って睦美は、集めた問題用紙を束ね、近くの机に座って採点を始めた。

 静流は三人の方に行き、声をかけた。

「どう? 楽勝だったでしょ?」 

 静流はにこやかにそう言ったが、三人の反応は今一つだった。

「それがさ……確かにビビッと来る問題はあるんだけど、さっぱりわかんないのもあったんだよな……」
「そうなんだ! 自分でも『何でコレが理解出来ないんだ!?』っていう所があってな……」
「ゼータがリーマン狩りしてるってバスカルにチクったってフック船長が言ってた……」

 予想を遥かに下回る三人の返答に、静流は困惑した。
 静流が顎に手をやり、暫く黙考した。

「待てよ。 ん? そうか! 睦美先輩!」

 何かに気付いた静流が、睦美を呼んだ。
 すると、睦美の背中がプルプルと小刻みに震えているのが見えた。
 静流の呼ぶ声に反応した睦美がくるっと振り向き、三人を睨みつけた。

「うがぁぁ! おんどりゃあ!」 

「「「ひぃぃぃぃ!!」」」

 いきなり怒鳴りつけられた三人は、みるみる内に小さくなっていった。
 静流が少し怯えながら、睦美に進言した。

「睦美先輩! 僕、気付いちゃいました」
「キミが言いたい事は大方想像が付くが、一応聞いておこう」

 静流に声をかけられ、少し落ち着いた睦美。

「多分ですけど、今のテストはあまり出来が良くなかったと思います」 
「ほう。 よくわかったな。 理由を聞こう」

 静流の洞察力に睦美は感心し、理由の説明を促した。
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