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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-11

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ファミリーレストラン『天下布武』――

 昼食がてら、数日後に行われる追試の事や、その後に控えている忘年会の打合せを行っていた静流と睦美。
 そこに奥からニッコリと微笑みながらヤス子が近づいて来た。

「はぁーい! サービスの『抹茶クリーム信玄もち』でございまぁーっす!」

 ヤス子はテーブルのそれぞれの前にスイーツとお茶を置いた。

「え? 頼んでないけど?」
「だからサービスだよサービス♪」

 静流は困惑していたが、睦美は素直に受け取った。

「うむ。 その心意気やよし! うはぁ」
「イイんですか睦美先輩? っていつもと立場、 逆になってる?」

 スイーツを前に顔が緩んでいる睦美に、たまらず静流がツッコんだ。

「据え膳食わぬはなんとやら、 というだろう? では頂きます♪」
「師匠? 店長さんに怒られても知らないからね?」
「うんうん大丈夫。 さぁ召し上がれ」

 そう言ってヤス子は、お盆を胸のあたりで抱えながら静流たちがスイーツを食べている所をニコニコしながら見守っていた。

「うん美味しいよ師匠。 スイーツだけでも勝負できそうだね?」
「うむ。 見事な和洋折衷だ。 機会があったら他のも頼んでみよう」
「そう言ってもらえると、 赤字覚悟で出した甲斐があったぜ♪」

 好感触だったのを確認し、ヤス子はお盆を抱えながら器用に手もみしながら静流に話しかけた。

「ところでさぁ、 さっきの話、 アチキも一枚嚙みたいんだけど、 ダメかなぁ?」 

 スイーツを口に運ぶ直前で手を止めた睦美。

「む? 何の事だ?」
「トボけないでくだせぇ、 『ぼ』が付くイベントの事ッス♪」

 ヤス子の意図が読めたのか、睦美は溜息をついた。

「ふう。 そう来たか……」
「それって忘年会の事?」
「イエーッス♪ ちょっと小耳に挟んだもんで♪」

 睦美は流し目で達也たちの方を一瞬見た。
 少なからず奴らからの情報も得ていると睦美は確信した。 

「お前さん聞いていたのか? 三番目の女サイボーグ並みの聴力だな……」
「だってぇ、 蘭の字ばっかりイイ思いしてズルいぃ~アチキもアネキに会いたいぃ~!」

 甲冑姿で駄々をこねるヤス子は、萌えキャラとしては意外とさまになっていた。

「どうするんだ静流キュン? 今回は他校の生徒も参加しているし、 突っぱねる理由は無いと思うが?」

 睦美がそう言うと、静流は目の前で駄々をこねているヤス子ににこやかに言った。

「イイよ。 一人増えても変わらないだろうし」
「やった! サンキューお静ちゃん♪」

 ヤス子はその場でぴょんと跳ねた。
 静流はそれを見て続けた。

「ただーし! この事は他言無用。 部屋の定員とかあるから、 追加メンバーは師匠が最後だからね?」
「アチキが最後のメンバー!? うはぁ、 テンション爆上がりだぜ! わかった! 誰にも言わない!」

 そう言っているこの瞬間も、『自慢したいオーラ全開』のヤス子だった。
 そんなヤス子が不意に何かを思い出し、手をポンとついた。 

「あ! そうそう先輩殿。 さっきの話でやんすがね?」
「おお、何かわかったのか?」

 ヤス子がこの店の情報を掴んだようだ。
 三人がテーブルの中心部に向かって頭を低くした。

「主任に聞いたんスが、 アメリカの『ジョニーズ』とかってファミレスと業務提携してるとか言ってました」

 それを聞いた二人は大きく頷いた。

「ビンゴだな。 静流キュン」
「間違いありませんね」

 ヤス子が続けた。

「うんーっと、『フランチャチャウ』とか何とか言ってったッス!」
「それを言うなら『フランチャイズ』だろう?」

 睦美は的確にツッコミを入れた。 
 ヤス子は一礼してスキップしながら奥に戻って行った。

「これで合点がいった。 少なくともこれでパクリ疑惑はなくなったな……」
「ええ。 それなら問題なさそうですね」 

 静流は安堵してスイーツに手を付けた。
 睦美は出されたお茶を飲みながら、壁にある時計を見た。

「さて、 そろそろ出るか?」 
「そうですね。 行きましょう」

 静流たちが席を立ち、レジの方に歩いて行った。
 途中でヤス子が静流たちに声をかけた。

「今後とも御贔屓に。 じゃあまたな♪」
「ご馳走様。 詳細はメールで送るね」

 レジで会計を済ませ、店を出た二人。

「ありがとうございましたぁー!」

 店内から静流たちが出ていく所を見届けた追試トリオ。
 出て来た食事を頬張りながら、イチカが安堵の表情を浮かべた。

「ふぅ。 バレなくてよかったぁ」
「篠崎お前、 ホントにバレてないって思う?」
「え? 違うの?」
「多分バレバレだと思うぜ。 あの先輩って隙が無さすぎるしな……」

 そんな事を話していると、ヤス子が奥から飲み物を持って来た。

「へへーん。 アチキも行ける事になったぜ!」
「ヤス!? どうやってお静に取り入ったんだ?」

 蘭子の問いに、ヤス子はドヤ顔で言った。

「それはアチキのこのプリティーなルックスに、 お静ちゃんはメロメロだったからな!」

 そう言ってヤス子は得意げにポーズをとった。

「はいはい。 師匠、 寝言は寝てから言えよ?」
「キミ、 自意識過剰ちゃん?」

 達也とイチカは、あきれ顔でそう言った。

「意外とアリだったり? 少なくともイヤな顔はしてなかったぜ?」
「けっ! ほざいてろよバァカ」

 蘭子はイラつきながらフォークでプチトマトを刺し、口に放り込んだ。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 店を出た静流たちは、バス停に向かって歩いていた。

「まぁまぁでしたね。 価格もリーズナブルでしたし」
「そうだな。 スイーツのメニュー次第で今後の利用を検討しよう」

 店内の事を思い出し、睦美は溜息混じりに言った。

「アイツら、 とっとと家に帰れと言った筈だったが……」
「まぁまぁ。 ここは子ロディに任せましょう。 経過は親ロディがフルタイムで管理していますから」
「点を取り過ぎてもダメだからな……丁度イイ馬鹿さ加減でないと」
「それって、普通に点を取る事より難易度高めですよね……」

 睦美はまた溜息をついて、静流に聞いた。

「しかしアイツら、 今までどうやって幾多の修羅場をくぐり抜けて来たのだ? 別の意味で尊敬するぞ……」
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