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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-7

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ロビー ラウンジ――

 ラウンジで解散した一同。
 静流たちは荷物を置きに、男部屋である『ゼフィランサスの間』に行こうとしていた。
 すると、背後から声をかける者がいた。

「ねぇ静流! このあと何するの?」
「真琴? ええと、 実はまだ決めてないんだ……」

 周りの者たちも、興味津々で静流たちの会話を盗み聞きしている。
 静流の煮え切らない態度にしびれを切らし、真琴が静流に聞いた。

「ヒマしてるんだったら、 海……行かない?」
「海か……どうする達也?」
「何でもシズムンたちがグラビア撮影するらしいってよ。 目の保養にはなるかもな!」

 達也はニヤつきながらそう言った。
 すると、唐突に静流を呼ぶ者がいた。

「おい静流! コヤツらを何とかしてくれんか!?」
「メルク? どうしたの?」

 声の方を見ると、メルクが何人かに詰め寄られていた。

「静流様! お願いです! メルクさんを説得して下さい!」
「どうしたんです? 白ミサ先輩?」

 詰め寄っていたのは、白黒ミサとマネージャーの鳴海だった。
 白ミサは静流に懇願した。

「メルクさんに、グラビア撮影に参加してもらいたいんです!」
「ええっ!? メルクを撮影するんですか?」
「奇跡のフォトジェニック……この逸材、 スルー出来ません!」
「鳴海マネ?」

 静流はとっさに鳴海マネを見た。 
 鳴海は興奮気味に静流に言った。

「女性である私でもわかります! この魅惑的なオーラ……只者ではありません!」
「この美貌に加えて絶妙なプロポーション……間違いなくイケます!」フーフー
「メルクさん! お願いします! 撮影に参加して下さい!」

 三人に言い寄られ、困惑しているメルク。

「う~む。 困ったのう……」
「メルク、 何か問題でもあるの?」
「ワシは一刻も早く温泉に入って、 そのあとはアルコールを摂取するのじゃ!」

 メルクはそう言って、口をとんがらせた。
 静流は鳴海に聞いた。

「鳴海マネ、 撮影ってすぐ終わりますか?」
「ご要望であれば、 最速で終わらせます!」チャ
「水着とか、 全く準備してませんけど?」
「ご安心下さい! 全てこちらで用意いたしますっ」チャ

 静流の質問に、鳴海はズバズバと即答した。
 横にいてニコニコしているシズムに、静流は聞いた。

「シズムはどう思う?」
「私も、 メルクちゃんと写真撮りた~い♡」
「こ、これ! 抱き着くな!」

 シズムがメルクを抱きしめると、メルクはうっとおしそうにもがいた。

「「「お、 おぉ……!」」」

 二人の絡みを見ていた鳴海たちから、感嘆の声が漏れた。
 そんな様子を見ていた静流は、微笑みながらメルクに言った。

「メルク、 少しぐらい付き合ってあげなよ。 減るもんじゃないし」
「静流様ぁ!」

 静流にそう言われ、逡巡しているメルク。 
 
「さて、 どうしたもんかのう……」
「悪いようには致しません! 私どもはアナタ様の美貌を被写体に収めたい一心でお願いしているのです!」

 必死に懇願する鳴海を見て、静流がメルクに提案した。

「そう言えば温泉にも水着で入るエリアがあったなぁ。 メルク、 水着、 借りておけば?」
「そうなのか? それを早く言え!」

 それを聞いたメルクは、静流にツッコミを入れた。
 白ミサは恐る恐るメルクに聞いた。

「では、メルクさん? 撮影の件は?」
「了解した。 但し、 手短に頼むぞ?」

「「「いよっしゃぁ!!」」」

 鳴海と白黒ミサは、交互にハイタッチしながら喜んだ。

「こうしちゃいられません! 二人共、 準備を!」
「「了解!」」

 三人はそう言うと、 足早に去って行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



利用者専用ビーチ――

 静流と達也は、メルクのグラビア撮影を見るべく、水着に着替えてビーチに向かった。

「アニキも来れば良かったのに……」
「薫さんって、 そう言うのあまり興味無いみたいだね……」

 同じ部屋の薫とジルは、海水浴はパスしたようだ。
 残念そうに言う達也に、静流は嬉しそうに言った。

「達也ってばすっかり薫さんを『アニキ』扱いしてるよね?」
「何となく自然にそう呼んでた。 わかるだろ?」
「うんうん。 確かに頼りになるよね」

 達也は目を輝かせて静流に言った。

「かっけぇよなぁ……俺が女子だったらぜってー惚れてる!」

 そんな事を話していると、誰かが後ろから声をかけて来た。

「おーい、 静流クーン!」
「シズムに、 白黒ミサ先輩!?」

 静流たちが振り向くと、こちらに走って来るシズムたちがいた。
 
「むっほぉー! こりゃ結構!」

 シズムはストライプ柄の布面積が若干狭いワンピースを、白黒ミサはそれぞれのパーソナルカラーである白と黒の三角ビキニを着ていた。

「どぉ? 似合ってる?」

 三人はグラビア用のポーズを取った。

「スゴいな……みんな芸能人みたいだ」
「ヤだなぁ静流クン、 私たちも一応芸能人なんだけど?」

 シズムは頬を膨らませて拗ねた。

「ごめんごめんそうだった! 先輩たちも良くお似合いで!」
「気に入ってもらえて光栄です!」

 そうこうしている間に、誰に背後から声をかけられた。

「よぉご両人! 待たせたな!」

 静流たちが振り向くと、そこには水着姿のメルクたちがいた。

「メルク!? その恰好は?」
「ぶふぅ!? 何て破壊力だ!?」

 腰に手をあて、自慢げに水着姿を披露するメルク。
 達也は鼻血を垂らしてよろけた。
 メルクが身に付けていたのは、南米系の美女が好んで着けるタイプの黒いマイクロビキニであった。
 
「どうじゃ? ワシに欲情したか? うりうり♪」

 そう言ってメルクは静流の方にTバックのお尻を向け、クネクネと腰を回した。

「如何です? これで世の男どもは骨抜きになる事間違い無しです!」

 メルクの横から出て来た鳴海は、ハイレグのワンピース姿だった。
 鳴海の水着姿も、男どもを引き寄せるには十分魅力的であった。 

「うんうん。 やっぱ拝み倒して正解だったね♪」
「右京さん?」

 一眼レフのカメラを首にかけた右京が、撮影本番前のシズムたちを撮りながら呟いた。
 右京はビキニの上にTシャツを着ている。
 静流は小さめの声で右京に聞いた。

「右京さん、 この手の水着って、 最初から用意してたんですか?」
「モチのロンです! グラビアは如何に目立つか、 が勝負ですからね。 あの子たちにはあれが戦闘服なんですよ!」

 右京はそう言って、シャッターを切った。

「そうか。 みんなはプロで、 これは仕事ですもんね……」
 
 静流は少し離れた所にいるシズムたちを、感心しながら眺めていた。
 すると、横からいきなりメルクが現れた。

「これ静流! 早く欲情せんか! ほぉれ♡」

 メルクは前かがみになり、腕を膝にあて、胸の谷間を強調するポーズをとった。
 しかし静流にはほとんど効いていなかった。

「欲情って……強制されてもねぇ?」
「うむ? おかしいのう……コヤツの記憶では、 この仕草でほとんどの男が欲情するんじゃが……」

 奥の方で達也が大の字になって気を失っているのが見えた。
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