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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-34

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宴会場『プロメテウス』の間

 ビンゴゲームが始まって、初のリーチを宣言したのはココナだった。

「フッフッフ……ついに私の時代が来たのだ! さぁ、次を頼む!」

 ココナは誇らしげにそう言った。

「では抽選を続行します。 ジャララ……Bの42番!」
「……次!」

 ビンゴにはならなかったようで、ココナは次の抽選を促した。

「ジャララ……Nの11番!」
「……次!」
「ジャララ……Bの26番!」
「……次!」

 それから数回抽選したが、ビンゴにはならず。

「ええい! 次だ! 次っ!」

 ココナがイラついてそう言った瞬間、事態が動いた。

「「「リーチッ!!」」」

 同時に三人がリーチを宣言した。

「フフ。 追いつきましたぜ姐さんたち?」
「よしっ! いけるっ! この調子!」
「ダッシュ7様、 私が救出しますので、 待っていて下さいねぇ~っ!」

 リーチを宣言したのは、ヤス子、アマンダ、みのりだった。

「フンッ! 早く上がればイイと言うものではない!」

 明らかに動揺しているココナは、そう自分に言い聞かせていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『ダイダロス』の間

 ラチャナの作戦が上手くいき、会場に残っているのはとうとう三船兄弟と静流たちのみとなった。
 時計を見た三郎は、長兄である二郎に声をかけた。
 
「ふむ……ジロ兄、そろそろお開きにするか?」
「そうだな三郎。 四郎、 支配人を呼べ」
「……」

 二郎がそう言ったが、返事が返ってくる事は無かった。
 少し引きつりながら、二郎は言い直した。 

「……シレーヌ、 後を頼む」
「はぁい♪ ジロ兄様♡」
 
 二郎に言い直されたシレーヌは、直ぐに立ち上がり、パタパタとスタッフのもとに向かっていった。

「ふぅ……面倒な奴だ」
「まぁまぁ……大目に見てやってよジロ兄」

 冷ややかな目でシレーヌを見ている二郎に、三郎は苦笑いしながらシレーヌをフォローした。
 すると、その横からナナが割り込んで来た。

「それよりどぉすんのよアイツ! すっかり出来上がっちゃって」
「ハチの奴、 無礼講にも程度ってもんがあるだろう……」

 八郎はカオルと酒を飲み、その周りを式神たちが取り囲んでいる。
 兄弟たちは冷ややかな目で八郎を見ていた。

「ロク兄、キャサリンに迎えに来てもらった方がイイかな?」
「でもよう、 ハチの奥さんって、キレるとヤバいんだよな。 見た目は最高なんだけど……」

 ナナがそう言うと、五郎が会話に割り込んだ。

「放っておけ。 ガキじゃあるまいし」 

 呆れ顔の六郎がそれを止めた。
 勘定を済ませたシレーヌが、長テーブルに寄って来た。

「は~い、 今夜はお開き。 撤収よぉーんっ♡」

 シレーヌの言葉が、事実上この宴会のシメとなった。
 それを聞き、二郎と三郎はさっさと身支度を整えた。

「凝りない奴め。 少しはイタい目に遭うと良い。 サブ! 俺の部屋で飲み直すぞ!」
「わかったわかった……やはり今年もこうなったか……」

 五郎と六郎が話している。

「どうだロク? シメにラーメンでも食うか?」
「それがイイ。 とっとと行こうぜゴロ兄!」
「アタシも便乗するわ。 シレーヌ姉さんは?」

 割り込んで来たナナがシレーヌにこの後の予定を聞いた。

「私は……アッチの宴会を覗いて来ようかしら?」

 シレーヌは睦美たちの宴会が気になっているようだ。 
 少し離れた丸テーブルに座っている八郎にも、宴会終了の声は届いていた。


「「「「お疲れ様、 でぇーっす♡♡♡」」」」


 そう言って式神たちは頭を下げ、てきぱきと帰り支度を始めた。

「何じゃい! もう終わりか? つまらん!」

 八郎は腕を組み、不満げに言った。
 するとカオルがすかさず、八郎に耳打ちをした。

「じゃあ、 私の部屋で飲み直そっか?」
「何? イ……イイのか?」

 八郎は自分の耳を疑った。
 カオルは八郎の耳元でささやいた。

「もっと面白いお話、 聞きたいなぁ♡」フゥー
「は、はひぃ……」

 静流たちも会場を出る支度を始めた。

「おい静流、アッチの宴会、まだやってるんじゃねぇ? 見に行こうぜ?」
「そうだな。 どうなったか気になるし、 行ってみるか」
「アニキも行きますよね? アッチ」
「おうよ!」
「お二人は、 どうされます?」

 静流はラチャナたちに聞いた。

「アタシはひとっ風呂浴びて寝る。 仕事も無事終わったしね。 はー疲れた♪」

 ラチャナが軽く伸びをして、先に退室した式神たちを回収に行こうとするが、薫がそれを止めた。

「おいおい、まだ終わってねぇだろ? 八郎のおっさん、どうすんだよ?」
「大丈夫だって♪ さっき話した通りやれば、 キミなら楽勝だからさ♪」

 軽口を叩くラチャナに、薫は溜息混じりに言った。

「わあったよ。 乗りかかった船だしな。 けどよ、 この借りは高いぜ?」
「今回のはツケにしといて♪ じゃ♡」

 そんな薫に、ラチャナはそう言ってウィンクし、二本指で敬礼した。 
 そしてラチャナはエスメラルダに声をかけた。 

「閣下はどうなさるんです?」
「アタシも入ろうかねぇ。 露天風呂」



              ◆ ◆ ◆ ◆



エントランス ロビー

 フジ子を見つけたジョアンヌは、事情を説明すべくロビーのソファーに座らせた。

「ですから、 ママはシズルー大尉に会わせろと息巻いてまして……」
「え? もうそこまで話が進んでいるのですか?」
「はい。 大尉殿はまだこちらに?」

 不安げな顔のジョアンヌがフジ子に聞いた。

「いらっしゃると思いますが……対応して頂けるかどうかは……」
「……ですよね。 何とか穏便に済ませる方法はありませんか?」

 ジョアンヌとフジ子は、腕を組んで首を傾げる仕草を同時に行った。

「「う~ん……」」

 そしてフジ子はポツリと呟いた。

「あの方にも火の粉が?……それだけは避けないと……とんだ誤算だわ……」ブツブツ
「フジ子、 さん?」

 青ざめた顔で何かを呟いているフジ子を見て、この状況がかなりヤバい事を悟ったジョアンヌ。 

「やはりあの方に相談するべきか……」

 フジ子は首に提げていた、自分の髪の色と同じマホガニーの勾玉を握りしめた。
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