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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-43

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宴会場『プロメテウス』の間

 先程ついに二本ある『特賞』の内一枚を瞳が引き当てた。
 残るはあと一本で、残っている者は美紀、鳴海、右京、ニナの四人だった。

「抽選を再開します! ジャララ……Bの18番!」
「ほーい、 ビンゴだよ♪」
 
 再開して直ぐにビンゴが出てしまった。
 立ち上がったのはニナだった。

「うっ……また無関心タイプが引いた!?」
「ニナ先輩、空気読んで下さいよぉ……」

 右京がそう言うと、美紀が同意した。

「ねぇ静流クンの先輩、 ちょっと質問イイかな?」 

 ニナはステージに向かって歩きながら、睦美に聞いた。

「何でしょう? ニナさん?」
「アタシが『特賞』引いた場合って、どっちを選んでもOK?」

 ニナが奥にいるレプリカを交互に指しながらそう言った。
 その言葉に睦美は、ニヤッとしながらニナに返事した。

「勿論ですとも! お好きな方で『ラストチャンス』に望んで下さい♪」

 『男体盛り』の時、ニナはヤングチームだったので、ラストチャンスもヤング側のダッシュ7を選ぶのが自然と思われていた。

「あ、 そう。 ちょっと興味あるのよね? ジン様♡」
「な、 何ですって!?」

 ニナがジンの方を見て、ニンマリした。
 そんなニナの態度に鳴海が反応した。

「くぅっ……アダルト勢の残りは私だけで、あとはビンゴさえ揃えばこちらの思惑通りだったハズが……」

 ニナの自由奔放な態度に、鳴海は心底悔しがっている。
 
「では、こちらを」

 睦美がクジの箱をニナに差し出した。

「よぉし……これ!」スッ

 ニナは迷うそぶりも見せず、即座にクジを引き、睦美に渡した。
 受け取ったクジを開いた睦美の目がひと際大きく開いた。

「おめでとうございます!……ニナ様、 『特賞』、『ラストチャンス』挑戦権、 獲得です!!」カランカラン

 睦美はそう告げると、福引等でよく耳にするハンドベルを盛大に鳴らした。

「よっしゃぁ! 残り物には福があるってね♪」

 ニナは右手の拳を握りしめ、高く挙げた。


「「「どぅえぇ~っ!?」」」


 残りの者たちはその場でピョンピョン跳ねているニナをガン見し、奇声を上げた。
 この瞬間に、自分らの景品が『タワシ』である事が確定したからだ。 
 
「えーそれでは皆さんには、 参加賞としてこちらを♪」

 睦美はすかさずタワシを残りの者たちに配り始めた。

「こうなるんだったら、 とっととビンゴになった方が良かった……」
「等身大アクスタ、 イイなぁ……」

 睦美からタワシを渡され、途方に暮れている美紀たち。
 余韻に浸る隙を与えず、睦美は進行を進めた。

「これにて『年忘れビンゴゲーム大会』を終了します! 続きまして、大事な大事な『ラストアタックチャ~ンス』です!」

 睦美はそう言って、右手の拳を顔の付近でぎゅっと握った。

「何か、 いつの間にか名前変わってる?」

 真琴は首を傾げ、ボソッと呟いた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 店にふらっと入って来たエスメラルダとラチャナ。
 偶然を装っていたが、実際はラチャナの放った式神がキャリーの居場所を掴んでいた。

「お疲れ様です、 ボス」

 シズルーはエスメラルダを見るなりボソッと呟くように言った。
 しかも、椅子に座ったままで顔を向けただけであった。

「シズルー様のボスが、 あのローレンツ閣下!?」
「シズルー様所属のPMC、『ギャラクティカ・ミラージュ』の……ボス?」

 ジョアンヌは腰を抜かしそうになっている。

「何よそのネーミング!?……どうやら、 ガセではないみたいね……」

 キャリーは部隊名を聞き、妙に納得した。
 ラチャナが眉をひそめ、いぶかしげにエスメラルダに言った。
 
「随分横柄な部下ですね……ん? どことなく薫クンや静流クンに似てる……かも?」

 すると、エスメラルダがラチャナにシズルーの正体を簡単に耳打ちした。

「実はな、ごにょごにょ……」
「えっ!? あぁ……成程、 そう言う事ですか」

 エスメラルダに説明され、ラチャナは納得したようだ。
 仏頂面のシズルーが、 エスメラルダに言った。

「今は休暇中だ。 何処にいても問題無かろう?」
「確かにそうだが、あまりハメを外すんじゃないよ?」
「問題無い。 アルコールは一滴も口には入れていない」
「フフフ、 結構。 ま、 お前に限って取り乱す様な事は無いと思うがね」

 エスメラルダと対等に談笑しているシズルーに、キャリーと部下二人は依然驚いたままだった。

「閣下を前にして微動だにしない……この子、 とんでもない大物?」
「怖いもの知らずでクールな所、 素敵♡」
「流石シズルー様♡ 器が違いますっ」

 今も仏頂面でエスメラルダを見ているシズルーに、三人は口々に感想を述べた。
 ふと我に返ったキャリーは何かを思い出し、エスメラルダに聞いた。

「で、でも閣下は、 確かアスモニアのお嬢様学校に勤めていらっいましたよね?」
「ああ。 今でも勤めてる」
「では何故、 民間の軍事企業などに?」

 キャリーにそう聞かれ、エスメラルダは溜息混じりに言った。

「まぁ、 いろいろあってね。 頼まれて仕方なく名前だけ貸してるんだよ」
「そ、 そうだったんですね……それはそれは」
 
 神妙な顔で納得したフリをするキャリー。

「でも閣下、 最後にお目にかかった時より、 随分お若く見えますが……」
「ほぉ。 わかるのかい? 女には全く興味を示さないお前でも?」
「わかりますとも♪」

 キャリーは背中を丸め、揉み手をしながらエスメラルダを褒めちぎった。
 浴衣姿のエスメラルダを舐めるように眺め、感嘆の溜息を漏らした。

「お肌の艶とキメ……まるで十代の様な瑞々しさです……こちらの温泉にそのような効果が?」
「ココの温泉もイイが、 それだけじゃないよ」
「では、 どのような『施術』を?」

 キャリーの質問に対し、周りのすべての女性がエスメラルダの口元を注視した。

「フッ、『企業秘密』さね。 アンタの今後の出方で教えない事もないがね」
「私、 ですか?」

 キャリーはエスメラルダの言っている意味がわからず、首を傾げた。
 するとエスメラルダは、キャリーに尋問を開始した。

「で? お前さんはウチの秘蔵っ子と、 ナニをして遊んでるんだい?」
「ぐ、 軍人将棋を少々……」

 キャリーの額から脂汗がにじんでいる。 
 エスメラルダはテーブルに展開された盤面を見た。
 打ち勝った駒がオープンになっており、負けた駒は排除されている。

「ほう。 随分攻められてるね? アンタ」
「いえいえ。 まだわかりませんよ? これが軍人将棋の真骨頂ですから」

 キャリーはドヤ顔でエスメラルダに説明した。
 エスメラルダは眉をピクリと動かし、1オクターブ低い声でキャリーに聞いた。

「で? 『勝利特典』は何だい? どうせアンタの事だから、 何か賭けてるんだろう?」
「そそ、 それは……」

 エスメラルダに詰め寄られ、みるみる顔が青くなっていくキャリー。
 するとシズルーが横やりを入れてきた。

「何でも、 私の『ひと晩』をご所望らしい」
「ひっ!? アンタ、 何て事を……」

 赤裸々に語るシズルーに、素っ頓狂な声を上げたキャリー。
 一瞬で周囲の気温が数度上がった様に感じた。

「面白そうだね。 続けな? 酒のアテに丁度イイ対局だ」

 笑っているのか怒っているのかわからない形相のエスメラルダだった。
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