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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-44

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宴会場『プロメテウス』の間

 ビンゴゲームの『特賞』は、『男体盛り』で既にダッシュ7と七本木ジンのレプリカをゲットしている勝者から、宴会終了後のレプリカ同伴権を奪取する為に執り行う、『ラストアタックチャンス』の挑戦権だった。
 ノリノリで進行を進める睦美。 

「先ずは先ほどの勝負『男体盛り』の勝者、竜崎ルリ様、 ジルベール・ハクトー様、 こちらに!」

 睦美が二人を呼ぶと、それぞれがレプリカを連れて中央に来た。
 ルリはダッシュ7にお姫様抱っこされていたが、ステージで降ろされ、距離を取られた。

「ああ、 ダッシュ7さまぁ……われても末に、 逢わんとぞ思ふ……ムフ」

 ジルはジンの左腕を抱き抱えていたが、周りの視線が刺さり、手を離した。

「おお神よ! まだ私に試練を課すのですか?」

 ジルは手を組み、半ベソ状態で天井付近を仰いだ。 

「それでは『挑戦者』のニナ・イシカワ様、 植木瞳様、 こちらに」
「ほーい」「はい……」

 睦美に呼ばれ、中央のステージに来た二人。

「どうでもイイから、 とっとと終わらせて頂戴!」

 そう言ったカチュアを含め、ほとんどの者が興味を示さなくなった。

「興が冷めた……風呂にでも入るか」
「それなら露天風呂行きましょうよ! 姫様♪」

 ココナの呟きに、ケイが興味を示した。

「姫様!? 部下である瞳の勝負ですよ? 最後まで見守りましょうよ……」

 夏樹はそんな二人にツッコミを入れた。

「遅ぇな静流の奴、 どこ行ってんだよ……」
「心配すんなって、 アイツらには『静流センサー』が付いてる。 直ぐに見つかるさ」

 興味が全くない男たちは、そう呟きながらぼーっと中央を眺めていた。
 睦美はポケットから金貨を出し、一同に見せた。

「これで役者は揃いました。 ルールは簡単。 このコインの、 裏か表かで勝負はサクッと決まります。 早速始めましょう!」

 最初はダッシュ7を賭け、ルリと瞳の対決だった。 

「先ずは藤堂ルリ様、 植木瞳様、 コインの確認をお願いします」

 睦美はコインの裏と表を二人に見せた。

「ではルリ様、 裏と表、 どちらにしますか?」

 睦美は現在の所有権を持つルリに、先にどちらかを聞いた。

「ぐぬぬぬ……裏!」
「では、 自動的に瞳様は表です。 よろしいですね?」
「は、 はい……」
 
 睦美は右手人差し指を軽く曲げ、コインを置いた。
 そして構えを取り、一同に言い放った。

「それでは一戦目、 慎重かつ大胆に『ラストアタックチャ~ンス』!」

 睦美は親指でコインの端を鋭く上に向かって弾いた。
 弾かれたコインは回転しながら天井に向かって高く飛んだ。
 そして回転しながらゆっくりと落ちて来るコインを、左手の甲で受け止め、瞬時に右手で覆った。

「どちらさんもよござんすね? いざ! 勝負!」パッ

 そう言って睦美は、覆っていた右手をぱっと外した。

「裏! 裏です! 勝者! ルリ様!」
「むっほぉぉぉ!!」
 
 ルリは拳を握りしめ、喜びをかみしめた。

「負けたんですか? そうですか……ふぅん」

 瞳は悔しがる事は無く、他人事のように頷いた。
 そんな瞳に、ルリが手に何かを握らせた。

「はいコレ、 差し上げます♪」
「え? イイんですか?」

 瞳に握らせたのは、参加賞のタワシだった。

「うわぁカワイイ~。 欲しかったんですよ、 ピンク色のタワシ♪」

 無関心だった瞳が、目をキラキラさせながら嬉しがった。
 睦美は直ぐに二戦目に取り掛かった。

「では次に、 ハクトー神父様、 ニナ・イシカワ様、 コインの確認をお願いします」

 睦美はコインの裏と表を二人に見せ、現在の所有権を持つジルに、先にどちらかを聞いた。

「では神父様、 裏と表、 どちらにしますか?」

 ジルは目を閉じ、手を組んで祈り始めた。
 そしてゆっくりと口を開いた。

「表……表でお願いします」
「では、 自動的にニナ様は裏です。 よろしいですね?」
「うん。 オッケー♪」
 
 睦美は右手人差し指を軽く曲げ、コインを置いた。
 そして構えを取り、一同に言い放った。

「それでは二戦目、 大事な大事な『ラストアタックチャ~ンス』!」

 睦美は親指でコインの端を鋭く上に向かって弾いた。
 弾かれたコインは回転しながら天井に向かって高く飛んだ。
 そして回転しながらゆっくりと落ちて来るコインを、左手の甲で受け止め、瞬時に右手で覆った。

「どちらさんもよござんすね? いざ! 勝負!」パッ

 そう言って睦美は、覆っていた右手をぱっと外した。

「裏! またもや裏です! 勝者! ニナ様!」
「くうっ……おお神よ、 あなたはこの私に、 ひと時の安らぎすらも許して下さらないのですか?」

 虚空に手を伸ばし、絶望の表情を浮かべるジル。

「あれ? 勝っちゃったの? ラッキー♪」

 思いがけない勝利に驚いたニナは、無邪気に喜んだ。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 シズルーとキャリーが『軍人将棋』で勝負している最中に、思わぬ珍客がやって来た、
 かつて『名将』と呼ばれたエスメラルダ・ローレンツと、旧知の仲である赤星ラチャナであった。
 キャリーを尋問し、エスメラルダはこの勝負が『訳アリ』だとわかると、何故か勝負の続行を促した。

「面白そうだね。 続けな? 酒のアテに丁度イイ対局だ」

 笑っているのか怒っているのかわからない形相のエスメラルダだった。

「へ? イイのですか? 閣下?」

 思わずラチャナは間抜けな声を上げた。

「知りませんよ? このコがどうなっても? フフフ」

 キャリーは自信たっぷりにそう言った。

「フッ……まるでお前が勝つって、 決まってる様な言い草だね?」
「まぁ私も今まで、 結構な修羅場を経験していますからね」
 
 エスメラルダの指摘にも、キャリーは動じなかった。
 エスメラルダはシズルーに言った。

「こんな事言ってるよ。 どうなんだいシズルー?」
「問題無い。 続けるなら付き合う」

 冷静沈着のシズルーを見て、エスメラルダは小さく数回頷いた。

「そう言う事だ。 勝負を再開しな」 
「では、 お言葉に甘えて♡」

 そう言ってキャリーは、わずかに口の端を吊り上げた。

 二人増えた為に隣のテーブルを連結させ、そこにエスメラルダとラチャナが座った。
 二人はビールと乾き物を頼んだ。
 キャリーは席に着くなり、シズルーに疑いの目を向けた。

「次、 アナタの番だけど……まさかカンニングしてないわよね?」
「くだらん勘繰りはよせ。 興が冷める」

 シズルーは顔色一つ変えないでそう言った。
 ジョアンヌがキレ気味にキャリーに言った。

「ママ! シズルー様は一切盤面には触れていません! 審判の私が保証しますっ!」
「そう? ならイイけど」

 とても納得している様には見えないキャリー。

「では、 参る」

 シズルーは敵陣の突入口と司令部の中間にある駒を前に2マス進めた。

「ふぅん……なるほどね」
(戦車? と見せかけて騎兵かも……ひとまずやり過ごすか)

 キャリーはその駒をスルーし、敵陣で放置してあった『飛行機』を司令部付近の駒に乗せた。
 『飛行機』で直接司令部を占領する事は出来ない為、司令部手前の駒を根こそぎ排除するつもりなのだろう。

「勝負!」

 ジョアンヌが駒をめくった。

「オープン! 『軍旗』……後ろの駒を確認します」

 『軍旗』は駒の中では最弱だが、後ろに置いてある駒と同じ能力を与えられる。
 つまり、後ろに置いてある駒が相手より強ければ相打ちに持ち込めるのだ。

「ちゅ、 『中将』!? 判定、 ドロー!」
「な、何ですって!?」 

 結果的に『軍旗』に負けた『飛行機』が共に盤面から弾かれた。
 
「私の番だな……」

 この結果に眉一つ動かさずに、自陣の駒に手を伸ばすシズルー。
 すると、店の入口から、新しい客が入って来た。

「いらっしゃいませ」
「すいません、 ちょっと人探しを……あっ!」

 入口付近から中に入って来た女性が、何かを見つけて小さい声を上げた。
 その女性は店の外に出て両手で大きく〇を作っている。

「あれ、フジ子だよね? 何やってんだろ?」

 目を細めたラチャナは、入口付近にいる女性をフジ子だと認識した。
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