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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-49

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保養施設内 バー『ジャムル・フィン』

 軍人将棋でキャリーを撃破し、勝利の報酬だった『部下たちを好きにする権』を『放置』する事でこの場を回避しようとしていたシズルーだったが、エスメラルダに阻止された。
 エスメラルダはシズルーに聞いた。

「シズルー、 この子たちを『アレ』以外で満足させられるとしたら、 何が出来る?」
「…………」

 聞かれたシズルーは、顎に手をやって暫く黙考した。

(参ったな……どうやって逃げるか……これはどうだろう?)

 やがてシズルーが口を開いた。

「『オイルマッサージ』なら、多少心得があるが……」

 静流は依然、奇しくもこの保養施設でオイルマッサージを澪たちにやった事があった。
 その際に指導してもらったのは、そこにいるフジ子だった。

「シズルー様のオイルマッサージ……それは究極の『癒し』です! 私が保証します!」

 瞬時に察したフジ子がフォローを入れる。

「ほう……それは興味あるね。 どれ、 アタシもやってもらおうかね?」
「ボス? 正気か?」

 そう言ってシズルーは、エスメラルダを見て眉を若干ゆがめた。

「だったら私もお願いしようかしら? 肩も凝ってるし……」
「キャリー!? まぁ図々しい……アナタは勝負に負けたのよ! 諦めなさい!」
「フジ子……アンタなんて外野の癖に、 隙を見て便乗するつもりなんでしょう? そんなの許さないから!」

 途端に店内が騒がしくなった。
 姉たちはひそひそと相談を始めた。

「どうすんのよ忍……あの年増連中、 侮れないわよ?」ヒソ
「一刻も早く静流を解放させる為には、この流れに乗るしかない……」ヒソ

 その後、シズルーに相手をしてもらうのは自分だと言い張る者が続々と出現し、店内はカオスな状態となっていた。
 イラついたエスメラルダは、ふと何かを思いついた。

「キャリー、 アンタが借りてる部屋、9人部屋だったね?」
「え? そうですが、 相部屋希望の二組のカップルに半分貸す事になったんですよね……」

 キャリーからそれを聞いたエスメラルダはニヤリとした。

「9人部屋か……丁度イイじゃないか。 とっとと済ませるよ!」
「はぁ?……閣下、 何を仰っているんです?」

 エスメラルダの言う事に理解が追い付かない一同。

「シズルー、 お前がココにいる全員にオイルマッサージとやらをするんだ!」

 さらにカオスな事を言い出すエスメラルダに、シズルーはイラつき、テーブルを叩いた。

「何? 冗談にも程がある!」ドンッ
(何でそうなるの!? こんな筈じゃなかった!)

 エスメラルダはシズルーにとどめを刺した。

「そうでもしないと収拾がつかないだろ? これは命令だよ!」
「……わかった。 引き受けよう」
 
 逃げ場のなくなったシズルーは観念し、某A級スナイパーのセリフをまねた。

「きゃあ! シズルー様が私たちを気持ち良くさせてくれるって♡」
「ああ……諦めなくて良かった!」

 シズルーの返事を聞いたジョアンヌたちは、手を取り合って喜んだ。

「な、なぁに……適当にあしらってイカせちゃえばイイのよ。 シズルー! ガンバ……」
「ヌメヌメマッサージ……少し、 嬉しいかも? グフ」

 薫子は動揺し、忍はソワソワしている。

「ねぇ……全員って、 アタシも?」

 先程まで面白がって見ていたラチャナは、呆気に取られて薫子たちに聞いた。

「ま、 そう言う事みたいよ♪」
「ツイてるね。 タナボタ案件?」

 紆余曲折があり、シズルーは結局、ここにいる関係者全員をもてなす事になった。



              ◆ ◆ ◆ ◆


保養施設 ロビー

 部屋が整うまでの間、ロビーで飲み物を飲みながら待つことにしたニナ達。
 テーブル付きソファーに各々のレプリカを隣に座らせ、対面で座って談笑している。
 年齢はルリの方がはるかに上だが、階級が同じ少尉な事からか、ニナとはフランクに接している。

「しっかし、 部屋の都合がついて良かったよね?」
「全くです。 ある意味、 神懸ってると言ってもイイですね……むほぉ」

 レプリカたちが気になるのか、周りの客たちがざわついている。

「見て見て? あそこにいるのって、 ほら、 昔いたイケメン俳優の……」ざわ… 
「ジン様! 七本木ジン様よ!」ざわ…
「でもジン様って、かなり前に突然行方不明になったのよね?」ざわ…
「ドッペルゲンガーかしら? 何にしても羨ましい……」ざわ…
「その奥にいる殿方も素敵よねぇ……」ざわ…
 
 そんな光景を見ながら、ニナとルリはささやかな優越感に浸っていた。

「凄い集客力だね? さすが元有名人♪」
「流石は『レジェンド・オブ・イケメン』ですぅ」

 思い出したように、ルリはニナに聞いた。

「ところで、最も肝心な『プレイ内容』なのですが……」
「まぁ、 詳しく話すと興奮度が下がるといけないから、 簡単に言うね?」
「ぐほっ!? その言葉だけで興奮してしまいますぅ」

 ニナは得意げにルリに言った。

「さっきチラッと言った『道具』って、『フルンチング』っていうの。 知ってる?」

 道具の名を聞いたルリが、即座に反応した。

「え? そ、 ソレって、 『疑似マラ界の聖剣』と呼ばれている、 おナベ垂涎の『魔淫具』では?」

 疑似マラとは、いわゆる『電動コケシ』の類である。
 

「そうらしいね。 軍の養成所にいた頃、 とある後輩にプレゼントされてね♪」

 ニナはボーイッシュな風貌から、後輩女子に言い寄られることがしばしばあったらしい。

「もらったコも含めて何人かに使ったけど、 みんな一分持たないでイッてたよ♪」 
「おほっ、 聞きしに勝る素晴らしい性能ですね? で、 ご自分で使用した感想は?」

 ルリは興奮しながらニナに聞いたが、ニナは複雑な顔になった。

「されがさぁ……正直、 イマイチなんだよね……」 
「なぬ!? どうゆう事?」

 ニナの意外な返事に、ルリは耳を疑った。

「『相手を三こすり半で確実にイカせる』と言う伝説の聖剣ですぞ?」
「昔はイカせる専門だったし、『ひとりエッチ』だと何か萎えちゃうんだよね……」
「成程……さしずめ『疑似ED』と言った事ですか……」
「でもさ……」
  
 ニナはそこで言葉を切った。

「ジン様なら、私をイカしてくれそうじゃん? 当然『中イキ』だよ♪」
「イキましょう。 私も全力でサポートいたしますゆえ……ぶふぅ」

 そう言ってルリは、ニナの手をグッと握った。

「ん? 何か騒がしいですね……はっ!」

 ルリたちが我に返って辺りを見回すと、いつの間にかロビーに人だかりが出来ていた。

「あらら、 いつの間にこんなにメスが? フェロモンムンムンですねぇ」
「タハハ……まいっちゃうな」

 皆に注目されて、アタフタしている二人に、フロントの方から受付がパタパタと小走りで近づいて来た。

「あ! 丁度良かった♪ 部屋の準備出来た?」
「お待たせしてすみません……少し手違いがありまして……」

 受付はペコペコと頭を下げた。

「準備があと30分程かかりそうなのです……」

「「えぇ~っ!?」」

 二人はあからさまに不機嫌になった。

「で、 ですのでお待ち頂いている間、こちらの『黄金風呂』でお寛ぎ下さい!」
 
 受付はパンフレットを開き、二人に見せた。

「「おぉ~っ!」」

 パンフレットには、六畳程の部屋の中央に、黄金に輝く円形のバスタブが配置してあった。

「こちらはVIP中のVIP御用達のお風呂で、一般のお客様は通常、使用不可の代物で、 当然『混浴』でございますっ!」

 それを聞いた二人は、次第に機嫌が良くなっていった。

「ま、 まぁそれならイイか♪」
「し、 しょうがないですね。 それで手を打ちましょう……ヌフ」
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