上 下
507 / 516
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-65

しおりを挟む
保養施設内 宿泊棟 『デルフィニウムの間』

 ジンとフジ子、弥七とキャリーがほぼ同時に昇天したその時、周囲を桃色のオーラが覆った。
 数秒の沈黙ののち、ジンは大きなため息をついた。

「ふぅ……何とか終わったな」

 ジンは目がハートマークになって昇天しているフジ子に布団を掛けてやり、ベッドを降りた。
 隣のベッドでも、弥七が昇天したキャリーに布団を掛けてやっていた。

「ダンナ! これは一体……」

 すると弥七がある物を見つけ、ジンに聞いた。
 弥七が見つけた物は、細かな装飾が美しい、金属製の何かだった。

「貸したまえ。 これはね、『フルンチング』の本来あるべき姿なんだよ……ほら」カシャン

 ジンは自分の所にあった物を弥七に見せ、二つの何かを合わせた。

「フム。 何かの武器……でしょうか?」
「後で説明するよ。 さぁ、会場に急ごう♪」

 そう言って身なりを整えているジンに、弥七が頭を下げた。

「ジンのダンナ……此度はありがとさんにござんす♪」
「どうしたの? 改まって……」

 ジンが不思議そうに聞くと、弥七は少し照れながら言った。 

「女を悦ばせる事がこんなに気持ちイイ事だったって気付かせてもらい、 あっしは嬉しかったでやんす♪」
「それは良かった。『女体の神秘』に触れ、 キミの今後にプラスとなる事を期待してるよ♪」 

 身の回りの整理が終わり、ジンは弥七に言った。

「さぁ、 行くよっ♪」
「へい。 承知!」

 ジンたちは冷蔵庫を開け、インベントリに向かった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 特設会場

 会場では、ジンの到着を今か今かと待っている傍聴者がひしめいていた。
 睦美の所に、左京が速足で駆け寄り、睦美に耳打ちした。

「GM! ジン様がお見えになりました」コソ 
「そうか。 やっと来たか……」

 睦美は左京とやりとりをしたのち、イラついているモモに告げた。

「伯母上殿、 ジン様が到着されたようです。 早速初めても?」
「勿論よ! あの『メガトン級変態鬼畜ナルシストキザ男』どんだけ待たせるのよ!」

 憤慨したモモは右手を握りしめ、眉間に青筋を立てて小刻みに震えていた。
 そんな様子を見て、睦美は苦笑いしながら恐る恐るモモに話しかけた。

「伯母上殿はジン様を相当憎悪されている様ですが?」
「アノ人の胸糞エピソードなら、 ウンザリする程あるわよ!」
「ほぉ。 それは興味深いですな……ん?」

 そうこうしている間に、部屋の照明が突然消え、真っ暗になった。

「え? 何? 何? 何なの!?」
「なぁに? 停電?」

 アンナは驚いて騒ぎ出すが、ナギサはいたって普通に呟いた。

「では、照明のトラブルですか?」
「そんな筈、あるわけない!」

 レヴィの問いに、リリィが慌てて否定した。
 すると、忍ポツリと呟いた。

「これは……演出?」
「どうもそうらしいね……ほら」パッ

 薫子がそう言うと、ステージに一筋のスポットライトが点灯した。
 するとドラムロールが鳴り、複数のスポットライトが点灯し、ステージを様々な角度で目まぐるしく動いている。


 ドゥルルル……ジャン!


 ジャンのタイミングで幾筋のスポットライトが一点に集中すると、何者かのシルエットが浮かび上がった。
 何かの舞台衣装に身を包み、背中を向けている。



「「「「きゃぁぁぁぁーっ♡♡♡」」」」



 傍観者の中の数人が黄色い声を上げた。
 その反応を楽しむ様に、何者かはクルッと反転し、ポーズをとった。


「片目くらい、 いつでもお前の為にくれてやるさ!……オツカル」



「「「「ぎゃぁぁーっ! マンドレ~♡♡♡」」」」



 一部の傍観者が立上って絶叫しているが、ほとんどの者はポカーンと呆気に取られていた。
 首を傾げて眉間にしわを寄せたニナは、目をキラキラさせて『乙女モード』になっているレヴィに聞いた。
 
「レヴィ、 マンドレって何?」
「え? ご存じない!? 『ヴェルばら』ですよ?」
「あっ! それ聞いたことあるかも!」

 何かを思い出し、手をポンと叩いたニナ。

「あぁ! 『ヴェルファイアのばら』の『マンドレ』か!」
 
 『ヴェルファイアのばら』は、過去に舞台化やアニメ化もされている少女漫画の古典的名作であり、多くの武官を輩出した高貴な貴族の家に男として育てられた女オツカレと、その家に仕える従者とのラブロマンスである。

「ジン様は舞台版のマンドレを演じられています。 今でも語り草になるくらいの好演だったらしいですよ?」
「ほおぉ……」

 レヴィがそう解説すると、周囲の者が感心していた。

「そう言えば私、『オツカル』みたいって言われた事あるよ?」
「確かに! 少尉殿は『男装の麗人』を地でいってますもんねぇ」
 
 そんな事を話していると、照明が点灯して部屋が明るくなった。


「「「きゃぁぁ! ジン様ぁぁぁぁ~♡♡♡」」」


 部屋があかるくなり、ジンの全貌が明らかになると、一部のファンがまた黄色い声を上げた。

「やぁみんな! ボクは七本木ジン! 会えて嬉しいよ♪」

「「「きゃぁぁぁ♡」」」

 いちいち黄色い声で返事をする一部のファンたち。
 すると、ステージに上がって来た者がいた。
 
「えー僭越ながら、 わたくし片山左京が司会進行を務めさせて頂きますっ」
「うん。 よろしく♪」
「至急、席の用意を」パチン

 左京が指パッチンすると、作業用ゴーレムたちが長机とパイプイスを持って現れ、あっという間に記者会見風に配置された。
 中央の机にジンが座り、対面の最前列に尋問するモモが座った。
 ジンの机の横にあるパイプ椅子には左京が座っている。

「えーそれでは早速始めます。 五十嵐モモさん、 どうぞ」

 左京がモモに振り、モモがマイクを取り、神妙な顔つきでジンに聞いた。

「最初に一番聞きたいことを聞きます。 アナタは今、ドコにいるんですか?」
「いきなりそこ聞くぅ? 実はね……ボクにもわからないんだよ♪」

 ジンはそう言って、苦笑いしながら後頭部を掻いた。

「何ですって? 真面目に答えて下さい!」

 モモは眉間にしわを寄せて、声を荒げた。

「いたって真面目だよ。 ボクは今、 光はおろか、 音も触感も無い。 息をしているかもわからない真っ暗な異空間に閉じ込められている……」
「それって、『昏睡状態』みたいな事?」
「確かにそうだね。 眠ったままで意識が戻らない『植物人間』みたいなもの、 かな?」

 ジンの突然のカミングアウトに、傍聴者たちはリアクションに困っていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生チートで夢生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:4,873

異世界イチャラブ冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:1,775

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,781pt お気に入り:2,117

生徒会総選挙が事実上人気投票なのって誰得か説明してくれ

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:257

異世界召喚戦記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:688

姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:6

闇の獣人 女神の加護で強く生き抜きます(18禁)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:247

【5月25日完結予定】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:211,804pt お気に入り:12,390

処理中です...