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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード56-66
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インベントリ内 特設会場
いよいよ『七本木ジン様 凱旋記念座談会』が始まった。
モモは最優先事項である現在の状況をジンに真っ先に聞くと、驚くべき内容だった。
「ボクは今、 光はおろか、 音も触感も無い。 息をしているかもわからない真っ暗な異空間に閉じ込められている……」
「それって、『昏睡状態』みたいな事?」
「確かにそうだね。 眠ったままで意識が戻らない『植物人間』みたいなもの、 かな?」
ジンの突然のカミングアウトに、傍聴者たちはリアクションに困っていた。
「酷い……酷過ぎる!」
「五感を奪われているなんて、 最早生きているとは言えません……おお神よ!」
シレーヌは悲痛な叫びを上げ、ジルは手を組んで額に当て、祈り始めた。
「ジン様、 かわいそう……」
「私たちに出来る事があればイイのですが……」
ジンの身を案じたケイは落ち込み、みのりはジンを慰めようとするが言葉が出てこなかった。
そんな周りの反応に、ジンはニコッと笑い、無理におどけてみせた。
「なぁに気楽なもんだよ♪ お腹も空かないし、トイレも必要ない。 辛いと言えば、 眠くならない事くらい、 かな?」
「えっ? 寝なくても平気なの?」
ケイは思わず声を出した。
「全然平気だよ♪ 強いて言えば長ーい夢をずーっと見ている感じ?」
「やせ我慢はイイから。 で、 そんな状態になったいきさつは?」
痛々しい態度のジンに、モモは苛立ちながら尋問を続けた。
「何処から話そうか……モモや四郎は知っていると思うけど、 学校を卒業して少し経った頃、 ボクは街でスカウトに会ったんだ。 その時はとっても嬉しかった♪」
ジンの顔に自然と笑みが浮かんだ。
「代表! グッジョブでした!」グッ!
そう言ってシレーヌに親指を立てたのは、 自称『筋金入りのジン様推し』である鳴海だった。
「不本意だけど、 朔也を見つけたのは私じゃない……」
「えっ!? では誰が?」
鳴海は驚いて聞き返した。
「本当に不本意だけど……梨元よ」
「は? 梨元さんが!?」
梨元とはミフネ・エンタープライゼスの常務取締役であり、シレーヌの右腕である。
何でも、かつては敏腕スカウトマンだったらしく、シズムの面接の付き添いで訪れた静流に声をかける等、その眼力は今でも衰えてはいないようだ。
「なしもっちゃんかぁ……懐かしいなぁ……」
「アンタに会ったって伝えたら、 ビックリして腰を抜かすでしょうね……」
数十秒間程物思いに耽ったあと、ジンは続けた。
「ボクは親と長老を必死に説得した。 結果的にボクが芸能活動をする事を許す条件は、 『エルフの里』からの『指令』をこなす事だったんだ……」
そこで、傍聴者からツッコミが入った。
「ねぇ、 ちょっとぉ……『エルフの里』って、 何?」
「そんなRPGみたいな所、実在するの?」
「とりあえず、お菓子ではないみたいね?」
「コホン。 静粛に!」
話が脱線して行くのをいたたまれなくなったモモが、咳払いした。
「『エルフの里』という言い方は、そこに住んでいる者しか使わないの。 知らないのも無理は無いわよ……」
モモは東京の西多魔郡のとある集落である事だけを説明し、詳細は伏せた。
「その里には、 いにしえの特殊な『掟』があってね……かくゆう私たちも『双子』というだけの事で散々な目に遭ったし……」
薫の母親であるモモと、静流や美千留の母親であるミミは双子であったが、里では双子が生まれる事を忌むべきものと捉えられており、モモたちの親は胎児の頃に片方の成長を魔法で遅らせ、モモが生まれた一年後にミミを生むという偽装出産を行った経緯がある。
「『エルフの里』の住民はハイエルフの特性を強く持っていて、 魔法に関しては特級クラスがゴロゴロいたの。 それで大小さまざまな依頼が引っ切り無しに舞い込んで来て、 里の運営費はその報酬で賄っていたわ……」
「折れるしかなかった。 下界で働くなんて以ての外だったんだ」
モモのフォローが入り、ジンは語り出した。
「里のミッションは、最初は簡単なものだった。 いなくなったペットを探すとかね……」
「何それカワイイ」
「それなりに大変だったけど、 飼い主の喜ぶ顔が好きだったなぁ……」
「フン、 まるでガキの使いだな?」
イクが吐き捨てる様に言った。
「でも、ミッションは次第にヤバいものになって来たんだ……」
そこで言葉を切り、ジンは溜息をついた。
「ある会社の極秘情報を盗み出したり、その為にそこの女子社員と寝たり……時には上司のオジさんともそんな関係になったり……」
「うひゃあ……スパイものを地で行くノリですなぁ……」
ジンの言葉に適切に合いの手を入れているのは、司会の左京である。
「ジン様とそうゆう事になれるなら、 何でもしゃべっちゃいますよねぇ♡」
「ボクが不倫相手になって、相手をハメる『別れさせ屋』みたいな事もやったよ……」
「そりゃまた絵になりますねぇ。 昼ドラにありがちな展開ですなぁ?」
その時、悲痛に近い声で叫んだのはカチュアだった。
「ひ、 酷い! 何でジン様ばかりがそんな『汚れ役』のような指令を受けなければならなかったの?」
「こんなボクでも心配してくれる子がいるんだ……キミは優しいね?」
「あぅっ!? あ、あたしは純粋にジン様に対する仕打ちがあまりにも……はぅ」
ジンと直接会話出来た事に動揺して、テンパってしまうカチュア。
「『適材適所』……これに尽きるね。 ボク、 戦闘系のミッションはからっきしだったから……」
「と言う事は、 ジン様の他にも依頼をこなすエージェントが?」
「ああ、いたよ。 国の諜報機関や秘密結社、 統合軍にもいた」
「わが軍にもでありますか!?」
佳乃が素っ頓狂な声を上げた。
「主に内偵だね。 派閥争いの中で、 お互いの弱みを握っておきたいとかね……」
そんな話を聞いたケイは、口元を緩ませながら呟いた。
「何かスパイ映画みたいで、 ちょっと憧れちゃうなぁ……ムフ」
「バカねぇ。 命がけのミッションとかもあるのよ? はぁ、 くわばらくわばら……」
すかさずみのりがツッコミを入れた。
その時、今まで黙っていたネネが口を挟んだ。
「補足するけど、 現在はそう言った活動はしてないから、 疑心暗鬼になる必要は無いわよ?」
「えぇ~っ!?」
「なぁんだ、 スパイはいないのか……ちょっとガッカリ」
ケイは残念そうに肩を落とした。
「木ノ実先生? そこら辺の事情に詳しいんですね?」
「幼馴染のよしみで、大体の事はわかるわ」
左京の問いに、ネネは素直に答えた。
「キミかぁ木ノ実ネネ君、 一度あった事あるよね?」
「確かに会いましたけど、かなり前ですよ?」
ジンの言い草に、ネネは訝しげに言った。
「ボクはね、 一度会ったコは忘れないタチなんだ♪」
「ま、 そう言う事にしておきましょう……」
ネネはジンの言っている事を話半分で聞いていた。
「嘘をついていると思っているのかい? 僕にはね、 ある特殊スキルがあるんだ」
「何ですか? そのスキルとやらは?」
ネネは眉間にしわを寄せ、ジンに問いただした。
「百聞は一見に如かず。 そうだな……キミ! まだ名乗っていないよね?」
ジンはランダムに傍聴者を指した。
「キミは『ヨーコ・キャロライン・皆殿』クンだね?」
「へ? あ、 は、 はい……」
ジンに名前を言い当てられ、反射的に起立してしまうヨーコ。
「どう言う……事?」
今起こった事についていけない傍聴者たち。
「ボクにはね、 その人の名前が頭の上に見えるんだ。 初対面は赤、 一度でも会っていると青で表示される」
「つまり、 個人のステータスが丸見え、 って事?」
アマンダは顎に手をやり、ジンに聞いた。
「鋭いねアマンダ・如月クン。 さすが技術少佐♪」
「ひゃっ! 見られちゃったの私!? きゃあんっ! 恥ずかしいっ♡」
アマンダは咄嗟に、『まいっちんげポーズ』を取った。
「まさか……スリーサイズまで見られちゃうとか? 悪夢だわ……」
アマンダの態度を見て、 みるみる顔が青くなっていくヨーコ。
「さぁてね。 どこまで見れるかは、 プライバシー的に問題あるから伏せておくよ♪」
ジンはそう言って、ヨーコに親指を立てて白い歯を見せた。
いよいよ『七本木ジン様 凱旋記念座談会』が始まった。
モモは最優先事項である現在の状況をジンに真っ先に聞くと、驚くべき内容だった。
「ボクは今、 光はおろか、 音も触感も無い。 息をしているかもわからない真っ暗な異空間に閉じ込められている……」
「それって、『昏睡状態』みたいな事?」
「確かにそうだね。 眠ったままで意識が戻らない『植物人間』みたいなもの、 かな?」
ジンの突然のカミングアウトに、傍聴者たちはリアクションに困っていた。
「酷い……酷過ぎる!」
「五感を奪われているなんて、 最早生きているとは言えません……おお神よ!」
シレーヌは悲痛な叫びを上げ、ジルは手を組んで額に当て、祈り始めた。
「ジン様、 かわいそう……」
「私たちに出来る事があればイイのですが……」
ジンの身を案じたケイは落ち込み、みのりはジンを慰めようとするが言葉が出てこなかった。
そんな周りの反応に、ジンはニコッと笑い、無理におどけてみせた。
「なぁに気楽なもんだよ♪ お腹も空かないし、トイレも必要ない。 辛いと言えば、 眠くならない事くらい、 かな?」
「えっ? 寝なくても平気なの?」
ケイは思わず声を出した。
「全然平気だよ♪ 強いて言えば長ーい夢をずーっと見ている感じ?」
「やせ我慢はイイから。 で、 そんな状態になったいきさつは?」
痛々しい態度のジンに、モモは苛立ちながら尋問を続けた。
「何処から話そうか……モモや四郎は知っていると思うけど、 学校を卒業して少し経った頃、 ボクは街でスカウトに会ったんだ。 その時はとっても嬉しかった♪」
ジンの顔に自然と笑みが浮かんだ。
「代表! グッジョブでした!」グッ!
そう言ってシレーヌに親指を立てたのは、 自称『筋金入りのジン様推し』である鳴海だった。
「不本意だけど、 朔也を見つけたのは私じゃない……」
「えっ!? では誰が?」
鳴海は驚いて聞き返した。
「本当に不本意だけど……梨元よ」
「は? 梨元さんが!?」
梨元とはミフネ・エンタープライゼスの常務取締役であり、シレーヌの右腕である。
何でも、かつては敏腕スカウトマンだったらしく、シズムの面接の付き添いで訪れた静流に声をかける等、その眼力は今でも衰えてはいないようだ。
「なしもっちゃんかぁ……懐かしいなぁ……」
「アンタに会ったって伝えたら、 ビックリして腰を抜かすでしょうね……」
数十秒間程物思いに耽ったあと、ジンは続けた。
「ボクは親と長老を必死に説得した。 結果的にボクが芸能活動をする事を許す条件は、 『エルフの里』からの『指令』をこなす事だったんだ……」
そこで、傍聴者からツッコミが入った。
「ねぇ、 ちょっとぉ……『エルフの里』って、 何?」
「そんなRPGみたいな所、実在するの?」
「とりあえず、お菓子ではないみたいね?」
「コホン。 静粛に!」
話が脱線して行くのをいたたまれなくなったモモが、咳払いした。
「『エルフの里』という言い方は、そこに住んでいる者しか使わないの。 知らないのも無理は無いわよ……」
モモは東京の西多魔郡のとある集落である事だけを説明し、詳細は伏せた。
「その里には、 いにしえの特殊な『掟』があってね……かくゆう私たちも『双子』というだけの事で散々な目に遭ったし……」
薫の母親であるモモと、静流や美千留の母親であるミミは双子であったが、里では双子が生まれる事を忌むべきものと捉えられており、モモたちの親は胎児の頃に片方の成長を魔法で遅らせ、モモが生まれた一年後にミミを生むという偽装出産を行った経緯がある。
「『エルフの里』の住民はハイエルフの特性を強く持っていて、 魔法に関しては特級クラスがゴロゴロいたの。 それで大小さまざまな依頼が引っ切り無しに舞い込んで来て、 里の運営費はその報酬で賄っていたわ……」
「折れるしかなかった。 下界で働くなんて以ての外だったんだ」
モモのフォローが入り、ジンは語り出した。
「里のミッションは、最初は簡単なものだった。 いなくなったペットを探すとかね……」
「何それカワイイ」
「それなりに大変だったけど、 飼い主の喜ぶ顔が好きだったなぁ……」
「フン、 まるでガキの使いだな?」
イクが吐き捨てる様に言った。
「でも、ミッションは次第にヤバいものになって来たんだ……」
そこで言葉を切り、ジンは溜息をついた。
「ある会社の極秘情報を盗み出したり、その為にそこの女子社員と寝たり……時には上司のオジさんともそんな関係になったり……」
「うひゃあ……スパイものを地で行くノリですなぁ……」
ジンの言葉に適切に合いの手を入れているのは、司会の左京である。
「ジン様とそうゆう事になれるなら、 何でもしゃべっちゃいますよねぇ♡」
「ボクが不倫相手になって、相手をハメる『別れさせ屋』みたいな事もやったよ……」
「そりゃまた絵になりますねぇ。 昼ドラにありがちな展開ですなぁ?」
その時、悲痛に近い声で叫んだのはカチュアだった。
「ひ、 酷い! 何でジン様ばかりがそんな『汚れ役』のような指令を受けなければならなかったの?」
「こんなボクでも心配してくれる子がいるんだ……キミは優しいね?」
「あぅっ!? あ、あたしは純粋にジン様に対する仕打ちがあまりにも……はぅ」
ジンと直接会話出来た事に動揺して、テンパってしまうカチュア。
「『適材適所』……これに尽きるね。 ボク、 戦闘系のミッションはからっきしだったから……」
「と言う事は、 ジン様の他にも依頼をこなすエージェントが?」
「ああ、いたよ。 国の諜報機関や秘密結社、 統合軍にもいた」
「わが軍にもでありますか!?」
佳乃が素っ頓狂な声を上げた。
「主に内偵だね。 派閥争いの中で、 お互いの弱みを握っておきたいとかね……」
そんな話を聞いたケイは、口元を緩ませながら呟いた。
「何かスパイ映画みたいで、 ちょっと憧れちゃうなぁ……ムフ」
「バカねぇ。 命がけのミッションとかもあるのよ? はぁ、 くわばらくわばら……」
すかさずみのりがツッコミを入れた。
その時、今まで黙っていたネネが口を挟んだ。
「補足するけど、 現在はそう言った活動はしてないから、 疑心暗鬼になる必要は無いわよ?」
「えぇ~っ!?」
「なぁんだ、 スパイはいないのか……ちょっとガッカリ」
ケイは残念そうに肩を落とした。
「木ノ実先生? そこら辺の事情に詳しいんですね?」
「幼馴染のよしみで、大体の事はわかるわ」
左京の問いに、ネネは素直に答えた。
「キミかぁ木ノ実ネネ君、 一度あった事あるよね?」
「確かに会いましたけど、かなり前ですよ?」
ジンの言い草に、ネネは訝しげに言った。
「ボクはね、 一度会ったコは忘れないタチなんだ♪」
「ま、 そう言う事にしておきましょう……」
ネネはジンの言っている事を話半分で聞いていた。
「嘘をついていると思っているのかい? 僕にはね、 ある特殊スキルがあるんだ」
「何ですか? そのスキルとやらは?」
ネネは眉間にしわを寄せ、ジンに問いただした。
「百聞は一見に如かず。 そうだな……キミ! まだ名乗っていないよね?」
ジンはランダムに傍聴者を指した。
「キミは『ヨーコ・キャロライン・皆殿』クンだね?」
「へ? あ、 は、 はい……」
ジンに名前を言い当てられ、反射的に起立してしまうヨーコ。
「どう言う……事?」
今起こった事についていけない傍聴者たち。
「ボクにはね、 その人の名前が頭の上に見えるんだ。 初対面は赤、 一度でも会っていると青で表示される」
「つまり、 個人のステータスが丸見え、 って事?」
アマンダは顎に手をやり、ジンに聞いた。
「鋭いねアマンダ・如月クン。 さすが技術少佐♪」
「ひゃっ! 見られちゃったの私!? きゃあんっ! 恥ずかしいっ♡」
アマンダは咄嗟に、『まいっちんげポーズ』を取った。
「まさか……スリーサイズまで見られちゃうとか? 悪夢だわ……」
アマンダの態度を見て、 みるみる顔が青くなっていくヨーコ。
「さぁてね。 どこまで見れるかは、 プライバシー的に問題あるから伏せておくよ♪」
ジンはそう言って、ヨーコに親指を立てて白い歯を見せた。
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