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2章 魔法使いとストッカー
42 グランド様と話そう
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「ジェシカ? すまないがこちらへ一旦来てもらえるか~?」
少し離れたルーベン様が大きな声で私を呼ぶ。
「すみません。少しだけ席を外しますね?」
『あぁ。しかし、すぐにここを離れようと思うから早くしてくれ』
「どこかへ行かれるのですか?」
『いや… ただ離れた方が良いと考えた』
「わかりました。では早く済ませます」
私は早足でルーベン様達の元へ向かう。
「どうかされましたか?」
「途中から話し声が聞こえたんだが、ジェシカの声しか分からなくてな… その、会話をしていたのか?」
「あぁ、そうです。直接竜の声が聞こえる様になりまして。後で報告しますよ?」
「そうか。で? 我々が近づいても大丈夫そうだろうか?」
「恐らく大丈夫です。そうだ! 一緒に竜の元へ行きましょう、アダム様も。少し竜と話をしなければならない件がありますので」
腕を組んで後ろで待機していたアダム様が声を出す。
「国の案件か?」
「いえ、これからの事です」
ルーベン様とアダム様は顔を見合わせ頷く。決まったね。
ぞろぞろと護衛を連れて、私達は再び竜の元へ戻る。
「グランド様、お待たせいしました。こちらはこの国の第一王子のルーベン様、宰相のアダム様です」
2人は最上の礼をしてグランド様の足元に傅く。
『ほぉ~、サイヤスの子孫か。少し目元が似ているか?』
「サイヤス?」
ルーベン様は『はっ』となって顔を上げる。
『この国の初代の国王だ』
「ジェシカ? サイヤスと言ったか?」
あ~、そうだった。声が聞こえるのは私だけだった。
「あ~、ちょっと待って下さいルーベン様。グランド様、他の者にもあなた様の声は届きませんか?」
この3角会話、この先続くかと思うと正直面倒臭い。
『そうだなぁ、サイアスの子孫のルーベンは可能性はあるが… 魔力が高くなければ恐らく無理だ』
「魔力量か… とりあえず、話せる様になるにはどうすればいいのでしょう?」
『我が魔力を送るのは危険だから、我に送ってみるといい。先程のジェシカの様にな。あぁ、すまぬ、先程は吸い取ったんだった。ははは』
はははじゃ無いよ。結構しんどいんですけど?
「わかりました。ルーベン様。こちらへ」
ルーベン様は恐る恐るグランド様の目の前にやって来る。ちょっと腰が引けている。
「会話が出来る様になるかは分からないそうですが、一度グランド様にあなたの魔力を送ってみて下さい。上手く行けば会話が出来る様になるそうです」
ルーベン様はゴクリと喉が鳴る。そろっとグランド様の額に手を置いて魔力を流した。
『どうだ? ルーベン、我の声は聞こえるか?』
手を離してじっと手を見ていたルーベン様が、グランド様の声が聞こえたのかびっくりしている。成功かな?
「はい。聞こえます! 頭の中に響いています!」
『よし。で? ジェシカ、どうするのだ? 我は先程も言った様に離れた方が良いだろう?』
「いえ。少し時間を頂けないでしょうか? すぐに経つ理由はありませんよね?」
『まぁ、そうだが… こやつらがこの洞窟の外で逗留しているのは知っている。我は邪魔だろう? 何度か攻撃されたしな』
「じゃ、邪魔などと! そんな事は決してございません。グランド様、実はあなた様がどの様なご気性で、どの様な目的でここに居らっしゃるのか分からなかったので、様子を見させて頂いておりました。攻撃した事、誠に申し訳ございません」
『いいさ。そう言う事なら話でもしようか? お前達は何が知りたい?』
いきなり話を振られてルーベン様は焦っている。ふふふ、いつもスカしてるのに不思議な感じ。
「ちょっと待って下さいね。アダム様? グランド様が何か質問はないかって言ってますけど?」
やっと、順番が回ってきたアダム様はグランド様を真っ直ぐ見つめて端的に答える。
「私はお声が聞こえませんので、一方的に話します事お許し下さい。まず、負傷された経緯。第2にこれからどうされるのか。第3に国へ、王宮へお越し下さる事は可能か。お答え出来る範囲で結構です、よろしくお願い致します」
お~、流石。物怖じしないんだ。やるねアダム様。
『負傷の経緯は後でジェシカに聞くと良い。次はこれからどうするかか。未来の事か? それとも、今からどうするかと言う事なら、東北にある山を目指そうと思っている。以前居た『大山』にはもう戻れないしな。またヤツが来るかもしれない。最後は、王宮へ行っても良いが一時だけだ。人と神は関わるとロクな事がない。これは経験上の事実だから了承して欲しい』
「かしこまりました。しかしアダム? 一度王宮へ来て頂いてすぐ帰すのは… 外聞的にどうなのだ?」
「いえ、ただ単に王と会って欲しかっただけです」
グランド様を呼び付けるとか。どんだけアダム様ってエド様中心?
う~ん。そうなると… そうだ!
「あの~、ちょっといいでしょうか? 少しの間、『一時』なら時間を割いて頂けるのですよね?」
『ん? あぁ』
「では、この洞窟に滞在されてはいかがでしょう? それならばややこしい事にもならないでしょう? 今は、グランド様が我々に敵意が無いと分かっていますし、今この洞窟は王族が精査している対象で立ち入り禁止です。ちょうどいい。この夏の間だけでも居てもらって、国側は色々話を聞いて、グランド様はこの水晶でしばらく療養すると言うのはいかがでしょう? 治ったとは言っても体力とかまだまだですよね?」
『しかし、それでは人に迷惑が…』
「迷惑など! ジェシカいい案だ。時間を頂けるのであれば、父上も視察としてここに来る事は可能だろうし」
「よし! グランド様どうでしょうか? ルーベン様もいいと仰ってます。アダム様はあぁ言いましたが、王宮に行って見せ物になるのも嫌でしょう? 欲深い人間に接触するのも煩わしいでしょう? 何より、人々に『竜』を認知されると今後の人生色々と面倒臭いですよ?」
『ぷははははは。今後の人生が面倒臭い? 我の心配か? 面白い人間だ。そうだな、療養してもいいなら1月程、この場所に居たい。その間に、話をするなら好きにして良い』
「「ありがとうございます」」
思わずハモってしまった私とルーベン様。
こうして、夏の間、竜のグランド様がこっそり洞窟に住む事になった。
ルーベン様は一旦外へ出て、体制を組み直すそう。少し遅れているもう一つの案件があるそうで、早々にこの場所から撤退して行く。
私は負傷の経緯と攻撃して来た魔法使いについて、これからエド様とアダム様に報告してから帰る。そう、領へ帰るぞ! 夏休みするぞ! おう!
てか、夏休みの自由研究、これにしちゃう? 『竜の生活』なんてね。
少し離れたルーベン様が大きな声で私を呼ぶ。
「すみません。少しだけ席を外しますね?」
『あぁ。しかし、すぐにここを離れようと思うから早くしてくれ』
「どこかへ行かれるのですか?」
『いや… ただ離れた方が良いと考えた』
「わかりました。では早く済ませます」
私は早足でルーベン様達の元へ向かう。
「どうかされましたか?」
「途中から話し声が聞こえたんだが、ジェシカの声しか分からなくてな… その、会話をしていたのか?」
「あぁ、そうです。直接竜の声が聞こえる様になりまして。後で報告しますよ?」
「そうか。で? 我々が近づいても大丈夫そうだろうか?」
「恐らく大丈夫です。そうだ! 一緒に竜の元へ行きましょう、アダム様も。少し竜と話をしなければならない件がありますので」
腕を組んで後ろで待機していたアダム様が声を出す。
「国の案件か?」
「いえ、これからの事です」
ルーベン様とアダム様は顔を見合わせ頷く。決まったね。
ぞろぞろと護衛を連れて、私達は再び竜の元へ戻る。
「グランド様、お待たせいしました。こちらはこの国の第一王子のルーベン様、宰相のアダム様です」
2人は最上の礼をしてグランド様の足元に傅く。
『ほぉ~、サイヤスの子孫か。少し目元が似ているか?』
「サイヤス?」
ルーベン様は『はっ』となって顔を上げる。
『この国の初代の国王だ』
「ジェシカ? サイヤスと言ったか?」
あ~、そうだった。声が聞こえるのは私だけだった。
「あ~、ちょっと待って下さいルーベン様。グランド様、他の者にもあなた様の声は届きませんか?」
この3角会話、この先続くかと思うと正直面倒臭い。
『そうだなぁ、サイアスの子孫のルーベンは可能性はあるが… 魔力が高くなければ恐らく無理だ』
「魔力量か… とりあえず、話せる様になるにはどうすればいいのでしょう?」
『我が魔力を送るのは危険だから、我に送ってみるといい。先程のジェシカの様にな。あぁ、すまぬ、先程は吸い取ったんだった。ははは』
はははじゃ無いよ。結構しんどいんですけど?
「わかりました。ルーベン様。こちらへ」
ルーベン様は恐る恐るグランド様の目の前にやって来る。ちょっと腰が引けている。
「会話が出来る様になるかは分からないそうですが、一度グランド様にあなたの魔力を送ってみて下さい。上手く行けば会話が出来る様になるそうです」
ルーベン様はゴクリと喉が鳴る。そろっとグランド様の額に手を置いて魔力を流した。
『どうだ? ルーベン、我の声は聞こえるか?』
手を離してじっと手を見ていたルーベン様が、グランド様の声が聞こえたのかびっくりしている。成功かな?
「はい。聞こえます! 頭の中に響いています!」
『よし。で? ジェシカ、どうするのだ? 我は先程も言った様に離れた方が良いだろう?』
「いえ。少し時間を頂けないでしょうか? すぐに経つ理由はありませんよね?」
『まぁ、そうだが… こやつらがこの洞窟の外で逗留しているのは知っている。我は邪魔だろう? 何度か攻撃されたしな』
「じゃ、邪魔などと! そんな事は決してございません。グランド様、実はあなた様がどの様なご気性で、どの様な目的でここに居らっしゃるのか分からなかったので、様子を見させて頂いておりました。攻撃した事、誠に申し訳ございません」
『いいさ。そう言う事なら話でもしようか? お前達は何が知りたい?』
いきなり話を振られてルーベン様は焦っている。ふふふ、いつもスカしてるのに不思議な感じ。
「ちょっと待って下さいね。アダム様? グランド様が何か質問はないかって言ってますけど?」
やっと、順番が回ってきたアダム様はグランド様を真っ直ぐ見つめて端的に答える。
「私はお声が聞こえませんので、一方的に話します事お許し下さい。まず、負傷された経緯。第2にこれからどうされるのか。第3に国へ、王宮へお越し下さる事は可能か。お答え出来る範囲で結構です、よろしくお願い致します」
お~、流石。物怖じしないんだ。やるねアダム様。
『負傷の経緯は後でジェシカに聞くと良い。次はこれからどうするかか。未来の事か? それとも、今からどうするかと言う事なら、東北にある山を目指そうと思っている。以前居た『大山』にはもう戻れないしな。またヤツが来るかもしれない。最後は、王宮へ行っても良いが一時だけだ。人と神は関わるとロクな事がない。これは経験上の事実だから了承して欲しい』
「かしこまりました。しかしアダム? 一度王宮へ来て頂いてすぐ帰すのは… 外聞的にどうなのだ?」
「いえ、ただ単に王と会って欲しかっただけです」
グランド様を呼び付けるとか。どんだけアダム様ってエド様中心?
う~ん。そうなると… そうだ!
「あの~、ちょっといいでしょうか? 少しの間、『一時』なら時間を割いて頂けるのですよね?」
『ん? あぁ』
「では、この洞窟に滞在されてはいかがでしょう? それならばややこしい事にもならないでしょう? 今は、グランド様が我々に敵意が無いと分かっていますし、今この洞窟は王族が精査している対象で立ち入り禁止です。ちょうどいい。この夏の間だけでも居てもらって、国側は色々話を聞いて、グランド様はこの水晶でしばらく療養すると言うのはいかがでしょう? 治ったとは言っても体力とかまだまだですよね?」
『しかし、それでは人に迷惑が…』
「迷惑など! ジェシカいい案だ。時間を頂けるのであれば、父上も視察としてここに来る事は可能だろうし」
「よし! グランド様どうでしょうか? ルーベン様もいいと仰ってます。アダム様はあぁ言いましたが、王宮に行って見せ物になるのも嫌でしょう? 欲深い人間に接触するのも煩わしいでしょう? 何より、人々に『竜』を認知されると今後の人生色々と面倒臭いですよ?」
『ぷははははは。今後の人生が面倒臭い? 我の心配か? 面白い人間だ。そうだな、療養してもいいなら1月程、この場所に居たい。その間に、話をするなら好きにして良い』
「「ありがとうございます」」
思わずハモってしまった私とルーベン様。
こうして、夏の間、竜のグランド様がこっそり洞窟に住む事になった。
ルーベン様は一旦外へ出て、体制を組み直すそう。少し遅れているもう一つの案件があるそうで、早々にこの場所から撤退して行く。
私は負傷の経緯と攻撃して来た魔法使いについて、これからエド様とアダム様に報告してから帰る。そう、領へ帰るぞ! 夏休みするぞ! おう!
てか、夏休みの自由研究、これにしちゃう? 『竜の生活』なんてね。
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