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2章 魔法使いとストッカー

41 神の使者

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「うわ~!」

 洞窟の奥にこんな開けた場所があったなんて!

 私達一行は昼食後、ランドの転移で洞窟前の第一王子のキャンプ地へ飛んだ。事前調査で竜が攻撃的でない事がわかっていたので、少人数で対面する運びとなった。まずは第一王子と護衛達をランドが運ぶ。次に私達だ。

「すごい眺めだろ? 私も始めはびっくりしたよ」

 第一王子のルーベン様はにこやかに私をエスコートしてくれる。例の『触れられない』制約は許可済みだ。

「こんなにも美しい場所があるなんて… 感動です」

 目の前に広がる景色は、洞窟最奥で天井がポッカリ空いている。そこにそびえ立つ大きな樹の隙間から光が差し、草木が繁り小さな花も咲いている。まるで別世界のようだ。所々には例の水晶が転がっていて日の光をキラキラと乱反射させていた。

「あぁ、地上の楽園だな。申し訳ないが、早速竜を見てもらおう。対面すればわかると思うが重傷を負っている。何とも痛々しい姿だが心を確かにな」

「えぇ、お気遣いありがとうございます。エド様の話によると、万が一の場合はその竜を葬って欲しいとの事ですが… 私、無知でお恥ずかしいのですが、先程知った事なんですが、竜は神の使者なのではありませんか? 葬り去るのはいささか…」

 ルーベン様は苦笑いしながら訳を話してくれた。

「国としても何とか竜を治療したかったんだ。しかし叔父上の『癒』が効かなかった… 傷から漏れ出す魔力が凄まじくてね… このままではこの洞窟に魔獣が集まりかねないんだよ」

「傷から魔力ですか?」

「あぁ… 残念な事に魔力を辿って、近隣の、今は小さな魔獣だが、集まって来ているのは確かだ。私もこの陣営を離れ慣れないのはその為だよ。国と民を思えばこその決断なんだ」

 そっか… でも神の使者よね? 大変な事にならないかな?

「わかりました。差し出がましい口を聞きました」

「いや、いいんだ。私と君の仲じゃないか」

 パッチンとウィンク… うっ。

「… 今ここでする話ではありませんが、心がこもっていませんよ?」

「ははははは! 流石だね! お見通しかぁ。やっぱり君は面白い。まぁ、この話はまた後で… こちらだ」

 と、樹の近くまで来た私達の前に、1m四方の水晶に隠れて横たわる小さな生き物が現れた。

「こちらが竜だ。今は休んでいると思う。我々が何をしようともこの格好で全く動かない」

 大きな一文字の傷が背中に走っている。そこから少し血が滲んでいた。動かず静かに水晶に寄り添う竜。

 ん???

 よく見たら、これって恐竜???

 んんん???

 竜の前にしゃがんでじっくり観察する。

 そうだよ! これ! 異なる世界でよく見た『トリケラトプス』じゃない?

 大きな扇子の様に広がった頭にツノ。ちょっと図鑑と皮膚の色が違って派手だけど… これは正しく恐竜!

「恐竜?」

 と、私がボソっとつぶやいた途端、目の前の竜が目を開いて頭を起き上がらせた。

「殿下!」「お嬢!」「お嬢様!」

 周りの護衛達がビクッと反応して私を庇うように前に出てくる。

「ジェシカ嬢、こちらへ」

 ルーベン様も私の手を取り引き寄せようとする。

「いえ、みんな待って。この竜は大丈夫。私を信じて」

「し、しかし…」

 リットは私と竜を交互に確認している。ロダンは竜しか見ていない、ちょっと睨んでいるようにも見える。

「大丈夫。私の声に反応したなら何かあるのかも知れない。現に攻撃とかされていないじゃない? 大丈夫よ」

「いや、ダメだ」

 リットは私の腕を掴んで離さない。ランドもいつでも打てるように真後ろで魔法を展開している。

「じゃぁ、私と手を繋いで一緒に来て?」

 リットはロダンをチラッと確認し頷いた。

「… わかった」

 リットと手を繋いだ私は小さな声でルーベン様に提案した。

「ルーベン様、少し竜と話をしてきます。返答があるかどうかはわかりませんが、危険な事は絶対にしません。話しかけるだけです。いいでしょうか?」

「まぁ… しかしリットだけではなくランドも連れて行け」

「いえ、ランドは万一の為、魔法を展開するのに両手が塞がっていますので… そうですね~、ではロッシーニを連れて行きますね」

 ロッシーニに目配せし、こちらへ来るように指示を出す。ロダンも頷いている。

「それならば、私が…」

 と、ルーベン様が私の元へ来ようとすると、護衛達に止められていた。

「殿下、なりません。ここは後方にて待機です」

 アダム様がルーベン様を制止する。

 まっ、そうだよね。一国の王子なんだし。

「大丈夫ですよ。本当に話しかけるだけですから。その後、次どうするか話し合いましょう?」

「… あなたがそれでいいのなら… 仕方ない」

 私を挟んでリットとロッシーニが手を繋いで、竜の足元へ進む。うずくまった状態だが、頭は私の方を向いていた。

「初めまして。私はジェシカ。あなたは恐竜じゃない? 地球は知っている?」

 目をパチクリさせる恐竜。少し身体を起き上がらせた。

「私は地球の記憶があるの。前世ってわかるかしら? あなたは言葉はわかるのかしら?」

 恐竜からはうんともすんとも、鳴き声さえも聞こえないが、自分の鼻を傷へ向けて私を見る。それを何度か繰り返した。

「ん? そこを触って欲しいの?」

「お、お嬢。気をつけろよ。ロッシーニ、お前側の手を離せ」

 リットは触れる事には反対しなかった。よかった。

 私はそっと傷に触れる。痛々しい。傷口に思わず頬を歪ませる。

 ぽわ~ん。

 傷口がほんのり光った。

「お嬢? 『癒』を使ったのか?」

「いえ。発動させてない… でも、はぁはぁ、魔力が吸い取られたみたい」

 いきなりガクンと足が折れる。気を失うまでではないけれど、一気に持っていかれた魔力で力が抜けてしまった。

「おい!」

 リットは慌てて私を抱き起こしお姫様抱っこをしてくれる。

「ありがとう… はぁはぁ、もう大丈夫。さっきより気分がマシになったわ」

 まだほんのり光り続けている傷口。恐竜は優しい顔になって来ていた。

「あれって、私の魔力を吸い取って自分で治しているのかしら?」

「ん~。原理はわからないがそうなんだろうな。皆の元に戻るか?」

「もう少し見ていましょう」

 ロッシーニが抱っこされている私にコソッと話しかけてきた。

「お嬢様。あれは魔力が反応しているのでしょうか? 相魔?」

「相魔? 何それ?」

「いや… えっと…」

 急に赤い顔してしどろもどろになるロッシーニ。

「お、お嬢。まぁ、アレだ。ここで話す事でもないんだけど… まだ竜の背中が光ってるしな… 俺が言ったとケイトに言うなよ?」

 何の事だか分からないがとりあえずコクリと頷く。

「例えばこの先お嬢が結婚したとする。それで相手と自分の家魔法が違うだろう? 子作りする際に、何だ… 魔法をお互いに流し合うんだよ。馴染ませるんだ。そうしないと子が出来ない。自分の魔力を… 受け入れる気持ちが必要だからな。お互いに信頼した相手、つまり結婚相手に流す魔力を相互魔力、略して相魔と言うんだ」

 …

「う~ん。でも勝手に流れて行ったわよ。それって相魔な関係になるのかしら?」

「それもそうだな… 俺には分からん」

「そうですね… 不思議ですね」

 ロッシーニもう~んう~んと悩んでいる。

 そうこうしていると、恐竜の背中が光っていたのが消えた。

 恐竜はその場で立ち上がり、私の方へゆっくり向かってくる。

『我はグランド。この国の守り神だ。この度は世話になったジェシカ』

 唸るような声がしたと思ったら、頭にダイレクトに言葉が響く。

 キョロキョロと周りを見るが、聞こえているのは私だけ?

『そうだ。お前に話しかけている。私と魔力が繋がったからな』

 私はそのまま話す。みんなに聞こえるように。

「そうなんですね。元気になられて良かったです」

 他のみんなは驚きすぎて私と恐竜の様子を伺っている。横槍を入れず静かに私達の会話を聞く事にしたらしい。

『ジェシカの魔力は心地が良いな。彼の方を思い出すよ』

「彼の方?」

『創造神ホセミナ様だ。我を地球からこちらへ連れて来た神』

 今、地球って言った?!

「ホセミナ様ですか? 地球の記憶があるのですか? って、やっぱり恐竜?」

『あぁ、恐竜と言うのは知らぬが、大昔、地球で石の雨が降った時、我々が絶滅する寸前にホセミナ様が4頭だけこちらの世界へ連れて来た。そして知力と魔力を与え、この世界で守り神になるように命じられた。各々、守護する魔法の神として』

「では、あなたは火の守り神でしょうか?」

『あぁ。その後現れた人によってそれぞれの棲家に国が出来、各国を象徴する魔法、つまり国の守り神にもなったんだ』

「なるほど… では今回ここに居たのはどうしてでしょう? 今まで人の前にはあまり現れませんでしたよね?」

『ある者に襲撃されてな… 眠っていた我をいきなり… ここは傷を癒すのに最適なのだ。この結晶石から少しづつ魔力をもらって癒していたんだ』

「ある者とは?」

『人だ。どこで調べたのか… 我が眠る山の頂に突然現れ攻撃して来た。迂闊にもやられてしまったが、傷を負ったがヤツからは逃げる事は出来たよ』

「貴方様に傷を負わせるとは… 相当な魔法使いですね… 特徴は覚えていらっしゃいますか?」

『布を頭から被っていたからな… 魔力の色は恐らく黄色、風か?』

 風??? ま、まさか!

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