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2章 魔法使いとストッカー

57 もうしません! 1

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 ガヤガヤと撤収作業をする騎士や魔法使いたちを尻目に、アダム様に少し離れた場所に誘導された。

「ジェシカ、例の本は持ってきたか?」

 私は預かった二冊の本を出しながらアダム様に苦情を一言。

「アダム様、あんな直ぐに『こいつは古代語ができる』ってバラしちゃって… こんな不意打ち。今日二回目ですよ! 勘弁して!」

「しかし、こんな大袈裟な謁見に大義名分は必要だろ? エドまで来ているんだ。『勘違いでした』じゃお前の分が悪い。誓約があるんだしとりあえずは学校卒業までは大丈夫だ。漏れることはない」

「でも… あっ、この翻訳もあるんですが要ります?」

「当たり前だバカ者。しかし、あんなに枚数があるのにもう出来てしまったのか… 本当にお前と言うやつは… さっきの魔法庁長官には気をつけろよ。ボケっとするなよ」

 苦笑いをしながら私の翻訳したノートをめくるアダム様にロダンがすかさず質問をする。

「失礼、宰相様。長官に何かあるので?」

「あぁ… のメンデル前領主と旧知の仲だ。が、私情で国を裏切るとも考えにくいが」

「本当に?」

「やつは良くも悪くも魔法一筋、筋金入りの研究者だからな。一応影はつけてはいる」

「了解しました」

 ロダンは納得したのか礼をして後ろに下がった。

「アダム様、この二冊ですが賢者様の個人的な日記と四体の神竜についての観察日記でした」

「なんと! 全神竜! それで? これらの本についてジェシカが気になった点はあるか?」

「そうですね~、賢者様はイタズラ好きなのかなってイメージです。年も若かったようですし、片手で数えるぐらいですが、日常生活で役立ちそうな古代魔法が書かれていました。もう一冊は、神竜たちの観察日記です…」

 どう説明しようかな。私がざっと読んだ感じは夏休みの宿題の『アリの観察日記』に似ているんだよね。

「ん? 歯切れが悪いが、完全に翻訳できていないのか? 後でもいいぞ?」

「いえ、本当に観察しただけの賢者様が見て感じた感想? みたいな内容で。本当にそうなのか? と問われれば神竜たちに一つ一つ確認しないといけないようなあいまいな情報です」

「それは… どうするか。安易に翻訳を残して後世で誤解されてもしょうがないし… よし、こっちの翻訳は一旦返す。エドと相談した後にまた連絡するとしよう。それでいいか?」

「はい。では、私の方からもいいですか?」

 アダム様は翻訳した賢者様の日記に夢中だ。私を見ずに『ん』と言って次々にページをめくっている。

「今回のこの翻訳も、あのおじいちゃん達に私ってバレます?」

「いや、今ではない。数年後の予定だ。元々は王家の遺産だしな、エドが保管する。検証自体もお前が卒業するまでは待つつもりだ」

「アダム様! うそ! そんな優しい気遣い初めて!」

「何がうそだ。そもそもこんなに早く翻訳されるとは我々も思ってもいなかったんだよ。それより、お前、婚約者の話は進めているのか?」

「何で今その話題!? こないだ保留にしたばかりなのに」

「そうでもないぞ。あれこれと能力が明るみになってきているんだ。早くしないと王命での政略結婚になってしまうぞ? それは嫌なんだろう? ルーベン様は違うらしいし、なぁ?」

 ニヤニヤとエド様の様に、アダム様が私の後ろの二人に視線を向けている。

「ずっと前にも言いましたが、学校が始まったばっかりって言ったでしょ! もう!」

「はいはい、まぁ期待しないで朗報を待ってるよ。で、この後は?」

 アダム様は次にロダンに向けて話を振る。

「はい、この足で『女神の泉』に行こうかと。早急に輪を取り除くのがお嬢様には最良ですので」

「わかった。その後は王都屋敷か?」

「はい」

「今回のグランド様との会話内容はエドに聞くとして、報酬だがこれは計算しづらい。何せ古代魔法の完全翻訳だ。おそらく金か領地、はたまた昇爵に値する価値があるが、ジェシカはそれは望まないだろう? ジェシカの望む物を用意しよう。考えておいてくれ」
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