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2章 魔法使いとストッカー

68 魔法陣のお勉強

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「お嬢様、今日は魔法陣の基本的な勉強をしましょう。古代魔法陣はその後です」

 朝からマーサがウキウキでやってきた。

「ありがとう。確か、学校じゃ次の学期から教わるのよね?」

「二学年は魔法陣の構築論です。お嬢様は一学年の魔法陣の理論学をお休みされていますので、それも兼ねてお教えしますね。テストではいい成績でも、本を読んだだけじゃコツも掴めませんし」

「コツ? 魔法陣にそんなモノがあるの?」

「はい! コツと言うか魔法陣を開発した者のクセみたいなものですが」

 へ~、魔法陣って全部違うのかな? 今ある魔法陣を書き写すだけじゃないんだね。

「じゃぁ、みんなオリジナルの魔法陣とか書けたりするの?」

「専門科へ進んだ者なら大抵は書けると思います。ほら、お嬢様のご学友のフィンやテオは魔法陣の研究をしていますので恐らく書けますね」

「そうなんだ~」

「オリジナルの魔法陣の書き方は三学年ですから… お嬢様には一足先にお教えします。私がいなくてもランド様もいますし、大丈夫ですよ」

 テンション高めのマーサに釣られて私もなんだか楽しくなってきた。

「じゃぁ、私のクラスの水の操作の魔法陣は? 対抗戦のやつ。あれはイーサン君のオリジナルなの?」

「あれは元々操作系の魔法陣があるので、そのまんまを書き写しているだけですね。物を振動させる魔法陣ですよ。しかし、あんなマイナーな魔法陣を知っているとは正直驚きました。あとは上下左右に物を動かす魔法陣とか、何枚か重ねて工夫しているようです」

「イーサン君は操作系の魔法陣が得意なんだって。三年になったらすごいのを思いつきそうだね」

「そうですね、イーサンは将来有望ですね。さぁ、余談はこれくらいで、では、始めましょうか」

 と、早速魔法陣を書くのかな~とワクワクしていたのに… 座学になった。マーサは生き生きと授業を始める。机の前に用意した黒板に理論学をカキカキし始めた。

「これって普通に授業じゃん… ちぇ~」

 と、ボソッとつぶやいた私に笑いを堪えながらランドは頭を撫でる。

「基礎がしっかりしてれば魔法陣は開発しやすい。ぷぷぷ、ほっぺたが膨らみすぎだ」

 ランドはツンと私のほっぺたを突いてから、後ろのソファーで本を読み始めた。ドアにはロッシーニが控えていて、マーサの話を真剣に聞いている。
 ふ~しょうがない。真面目に授業を受けるとしますか。



 こんな調子でマーサは理論学と構築学、書き方を一週間で私に叩き込んだ。

「なんとか間に合いましたね。これで私は心置きなく学校へ行けます」

 マーサは明日から学校だ。いいな~。

「にしても、朝から晩まで魔法陣、魔法陣で… ちょっと休みたい」

「それならお嬢様、明日は休みにしようか?」

「いいの!」

 ランドはがんばった私にご褒美をくれるみたい。

「ランド様、あまりお嬢様を甘やかさないようにお願いしますね。では、お嬢様もお教えしたことを落っことさないように」

 パチンとウィンクしてマーサは清々しい笑顔で去っていった。

「やったね! 何しようかな~。スルーボードでスカッとしようかな~」

「お嬢様、スルーボードもいいが俺と出かけないか?」

 へ? ランドとお出かけ?

「どこに? 領からは出られないよ?」

「領内だ。北の郊外に高台があって見晴らしの良い場所を見つけたんだ。ロダン様には俺から許可を取っておくよ。ピクニックに行こう」

「ピクニック! 行く~!!!」

 ドアの前で何故かロッシーニがそわそわしている。

「ロッシーニもいいよね?」

「あ~、はい恐らく許可が出るかと。お嬢様、申し訳ございません、今から少し離れます」

 と、ランドに言うと、そそくさと部屋を出ていった。代わりにケイトが入ってきた。

「ロッシーニと交代しました。どうかされましたか?」

 ケイトはハテナな感じではあるけど、お茶を入れ直してくれている。

「急にそわそわしちゃって… ロッシーニ。それよりケイト、明日の護衛って誰?」

「明日は、ランド様とロッシーニ、ユーリとアークだったかしら」

「アークか。久しぶりだな~。最近は朝から晩まで同じメンバーだったから新鮮かも」

「ふふふ、そうですね。明日は何かあるのでしょうか? マーサ様ももう学校へ戻られますし」

「明日はね、ピクニックに行くんだ」

「まぁ、ピクニックですか」

 ケイトはランドを見てから私を見る。ん? ダメ?

「それでロッシーニは… では許可が降りたらですね?」

「そうだよ。ジャックにサンドイッチと鶏揚げをたのも~っと」

「それは私から伝えておきます。他は必要なものはございませんか?」

 最近、何もない穏やかな日々がうれしいのか、ケイトがすごく優しい。いや、前から優しいんだけど。笑顔がちょっと違うんだよね。
 あれやこれやとピクニックについて話していると、いつかを思い出すリットが現れた。バンとドアを開けたと思ったら大声で叫ぶ。

「おい! 俺も行く!」

 少し遅れて、ロッシーニがぜいぜい言いながら走ってきた。

「はぁ、はぁ、リ、リット様、明日はお嬢様の護衛の日ではないですよ?」

「いい、代わってもらう!」

「そんな勝手は…」

 ケイトもちょっとムッとしながらロッシーニに参戦した。

「問題ない! 護衛が強いに越したことはない! ロダン様と交渉してくる」

 と、言ってさっさと出ていってしまった。
 私の横で静かに怒っていたのはランドだ。いつかの王都行きのようにケンカにならなきゃいいけど。
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