二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

王子の抱擁。

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私たちに向けて矢を放った者が一瞬見せた、どす黒い気配がそこから消えていた。

私たちが息を飲んで立ち尽くしていた暗闇の中に、大勢の足音がボールルーム目がけて押し寄せてきた。

「団長!!!ご無事ですか・・・?」

茶色の長髪の男性が現れ、黒い瞳を大きく揺らし不安気な表情で駆け込んで来る。

「・・ルードリフ!!!そなた達無事か・・!?そうだ、あちらの爆発は大丈夫だったのか?」

「首謀者のような、怪しい人物を3名捕縛しました。アレクシス様と、クレイドル様が団長の姿が
見えないので、気配を探りまして・・・。すぐにここへ駆けつけた所存にございます。」

大きなガタイの副団長は、よほど急いだのか息が上がっていた。

「・・・そうか。よくやった。」

その言葉にルードリフと魔術騎士団の数名は嬉しそうに破顔した。

「アルベルト王子・・・。・・・申し訳ありませんでした。
謝って済む事ではないですが、私は確かめなければならぬことが出来てしまいました。
私もまた、誰かの手の上で踊っている1つの駒なのかもしれません・・。
真実を見極める必要がありそうだ。」

揺れる赤い瞳は、苦しそうに眉根を寄せていた。

「ノア王子・・・。私はアルベルディアと戦いたくはない!!
誰も傷つけ合わぬ選択が出来ないのでしょうか!?
貴方をここで捕らえるつもりはありません・・。
しかし、貴方の国が戦う気で我が国の民を傷つけると言うなら・・・。
本気で戦うことになってしまう。しかし、美月の言ったように被害は甚大になる・・。」

そんな・・・。

シェンブルグ王国と、アルベルディア王国が戦っても誰も得など・・。

「ん!?」

私の突拍子もない声に驚いて、注目を引いてしまった!!

「あっ・・・。すみません!!!1つ、質問いいですか?」

緊迫感が漂う中で、赤いドレス姿の私は、剣を降ろしてゆっくりと右手を挙げた。

「・・・どうしたのですか?」

ノア王子は、優しい瞳を私に向ける。
アルベルトは、厳しい瞳を揺らしながら私を見た。

「シェンブルグ王国と、アルベルディア王国が戦って、得する国や人物っているんでしょうか?」

その場は水を打ったようにシーンと静まり返った。

魔術騎士団も、王子達もビックリしたように私を見ていた。

あれ?

何か・・

私、間違えた!?

「そうだな・・。その路線で考えてみないと真実は見えて来ぬかもしれない・・。」

アルベルトは、張りのある声を上げてノアを見た。

「そのようですね・・・。」

顎に手を当てて、何かを考えている様子のノアは閃いたように私達を見て名案を出した。

「どうでしょう?アルベルト王子、我がアルベルディア王国にいらしてみませんか?」

「・・・は?わたしが、アルベルディア王国へ・・?」

アルベルトは、非常に驚いた顔でノアを見下ろしていた。

魔術騎士団の者たちも、状況が理解できずに二人のやり取りをただ見ているだけだった。

「それは・・。危険ではありませぬか!!?アルベルディア王国の罠かもしれませぬ!」

魔術騎士団の副団長であるルードリフは、アルベルトの身を案じるように鋭い目線でノアを睨んだ。

アルベルトは、きっとさっきのノアの提案のその「心」を読んでいる。

そんな「罠」なんて腹黒い思想は、全く見えなかったんじゃないかな?

「ふーん・・・。面白そう!!科学の国・・。私も行ってみたいな!」

兵器が開発されている、そんな危険な国・・・。

だけど、私は一度アルベルディア王国の実情を見てみたいと思った。
その国に行かなければ、実態など見えて来ない。

自分の目で見る。

そして、そこから真実を見つける必要がある。

さっきイムディーナが言っていた、この世界の異変に関係のあるものだと
私の勘は強く主張していた。

「おいっ、美月もか!?・・・お前、我らと一緒に行くと言うのか??」

アルベルトは声を裏返して、美月の手を取った。

「危険だぞ!?女のお前に、そんな危険な旅を・・・。」

「いいよ・・。そんなの!!」

ビクリと不安そうに青いビー玉の瞳は私の茶色い瞳を映していた。

「・・しかし!!ノア王子は危険じゃなくても、アルベルディアは、敵国のような物だ・・。
命を狙われる危険な旅になるのだぞ?」

「私は・・・、選択をする為にこの国に来たのよ!?
・・・この世界の・・未来を決める為の二者択一をするの!!
父や母も命がけの旅をして、この国で戦ったんでしょ?
娘である私が、命を狙われる旅を怖がってなんかいられないわ。」

その場にいた者たちはざわっと揺れた。

この国を救ったとされた、ルーベリア王国の王子アルベルト、異世界の歌姫エリカの娘である。

美しく可憐なこの女性に、この世界の選択が再び委ねられると知り、驚きに目を見張っていた。

金色の瞳を強く見開き、イムディーナが前に出て微笑んだ。

「アルベルト殿下、ノア王子。・・・我が彼女をこの世界へと導きました。
水の間・・。通称「先読みの間」で、信託が下されたのです。
この世界の破滅を止める為の救済措置を願いました。
すると、世界を決する、「月の選択」を彼女に委ねると・・。
2つの月、そして世界の異変を決する為に彼女をこの世界へと転移させたのです。」

その言葉に、ノアの瞳が激しく揺れた。

「・・・やはり、異世界って、それなら君は・・・・。」

何かを言いかけたノアの言葉に被せるように、自分の名を告げた。

「私の名は、美月=ハツネ=ベルナルド。異世界から導かれ、この世界に現れました。
どうか、わたしにもアルベルディア王国の実態を見せてください。ノア王子・・・。」

茶色い瞳をジッと静かに見つめたノアは、赤い瞳を細めて私を見つめた。
その様子を、アルベルトは眉根を寄せて見つめていた。

「勿論ですよ・・・。私と一緒にアルベルディアへ参りましょう。美月。」

優しくそっと差し出された手を私は、握った。
赤い瞳は、さっきまでの緊張感をはらんだ目ではなく穏やかな色が浮かんでいた。

ホッとして、力が抜けた体に大きな腕が巻き付く。

手を思いきり引かれた私は、バランスを崩すとノアの腕の中へと誘い込まれた。
温かいぬくもりと、マントの衣擦れの音が耳に届いた。

・・・え?

えええっ!?

「・・・な・・。」

アルベルトは、驚いて青い目を見開いた。

「願って止みませんでした・・・。
神様が、貴方をわたしの元へと使わせてくれたのですね・・。
貴方と、再び会うことが出来て嬉しいです。
この私が、・・・あなたをこのわたしの命を懸けて、お守り致します。」

呆然として、見上げた赤い瞳は優しく微笑み、私の顔の方へと近づいてくる。

「・・・えええっ!?ちょっと!!?再び?願って?いや、あの・・・。えええぇっ??」

パニックになって、胸元で大暴れしている私の前髪をそっとかき分け。

優しく額に唇を落とした。
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