二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

放たれた矢。

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「アルベルディア王国の・・・。ノア王子!?」

私は、さっきまでイムディーナと話していた「科学」が急激に発展した国の王子の
登場に驚いていた。

「王子が・・。我が国にこのような奇襲のような攻撃を加えて、どうなるか理解しているのか?
宣戦布告と取られるようなものなのだぞ!?」

「そうだな・・。理解した上での奇襲だ。「祝福の子」カイザル王の力も試したかったのでな。
アルベルト王子、そなたの力も・・・。」

一旦止んだ剣劇は、各国の王子同士の張り詰めた表情での睨み合いとなっていた。
イムディーナは、彼らの様子だけでなくこのボールルーム内の気配を探りながら
気を張り詰めていた。

アルベルトは、黒く長い剣を降ろして、青い瞳で強く睨む。

「我が国は、他国の民を戦争や侵略などの権力による暴挙に晒(さら)すような戦いは好まない!!
そなたの国が、こうやって仕掛けてきたのは非常に残念だ・・!!!
どうして、平和な暮らしを送る民たちを王家の戦争に巻き込み、疲弊させるような争いの火種を
持ち込むのだ!!?」

黒いマスクを取り払い、赤紫の瞳を揺らしたノアは、嘲るような顔でアルベルトを見た。

瞳を閉じて、息を吐くとアルベルトに向かって剣を向けた。

「お前たちの国さえ良ければいいのか!?
アルベルディアは、もう10年ほど前からお前たちのせいで民たちは疲弊し、病に倒れ
貧困に喘ぐ民たちの命が・・・。
まるで、虫けらのように扱われて死んでいく民たちが沢山いる!!
自国の利益の為に、わが国の民たちを蔑(ないがし)ろにしているシェンブルグ王国とルーベリア王国を
・・・私は、許せぬ!!!!」

悲壮な表情で炎のように瞳を揺らすノアの熱に、アルベルトは青い瞳を眇めて思案する。
私は、先ほどからのノアの言葉を理解出来ずに困惑の表情で見つめていた。

「・・・・何だと!?シェンブルグが、アルベルディアに何をしたと・・。」

「恍(とぼ)けるな!!
・・・魔術の国と、我が国の誇る科学を駆使した戦・・・。
例え、そちらに「祝福の子」であるカイザル王が居たとしても・・・。
我が国の開発している兵器は、威力もデカい。さて、どちらが勝つかな!?」

私は目の前の会話に、息を飲んだ。

一体、アルベルディアに何が起こっているの?

シェンブルグや、ルーベリアの得てる利益って何だ!?

「そんな・・。さっきのが爆弾だとすれば、火薬の量を調整すればこの城も吹き飛ばすだけの
爆弾だって製造可能だわ。
魔術だって、一瞬で人の命を奪うことが出来る・・。
それらがぶつかり合えば、両国に多大な犠牲者が出てしまうわ。
ノア王子も、アルベルトも・・・。戦い以外の方法はないの!?」

「戦い以外の方法!?
・・・シェンブルグは、わが国が再三出した使者に返答も返さず、使者ごと
殺してしまうような・・・。そんな非情な国なのだぞ?
そんな野蛮な王と、王子が納める国との話し合いなぞ、難しいとは思わぬか!?」

「何を・・・!?アルベルディアからの使者など、一度もこの王城に来たことなどないぞ!?
出まかせを言うな!!!」

「お前こそ・・。我が国を愚弄(ぐろう)するのも、いい加減にしてくれ!!!
何度も使者を送っているのに、誰もアルベルディアに帰り着く者はいなかった・・・。」

二人の王子は、険しい表情で睨み合いを続ける。

互いに、愕然とした顔で・・・。
そして失望したような表情を浮かべて、瞳を揺らしていた。

「・・・そうなんだ。なるほど!!お二人の主張がどちらとも正しいのだとすると、答えは1つですね。」

イムディーナの後ろから、ひょっこり顔を出した私が2人の前に出る。

「おい・・。美月、駄目だ、危ないぞ。」

イムディーナの私を制しようとした声に逆らって、前に出た。

剣を構えたノアの前に出て、真っすぐその赤い瞳を見つめた。

「君は・・・。」

「アルベルディア王国からの使者は、確かに王城から、シェンブルグ王国に向けて出立したと言うのは本当なのだとしたら、シェンブルグ王国に辿り着く前に、その使者達が殺されていたと言うことです!」

私は、茶色の瞳を大きく見開いて、ハッキリと私の推論をノアへと告げた。

「・・・そんな・・、まさか・・・。何故・・??」

アルベルトと、ノアの瞳は大きく揺れた。

「お2人とも、嘘をついてる様子はないので・・。それに、アルベルトの持つ「力」は、ノア王子の
心が見えていたと思います。そこに在るものが、嘘偽りではないことが理解出来たから・・・。
あんなに驚いていたのですよね?
そうだとしたら、真実はそれしかないのでは・・・?」

  < バシュッ・・・・ >

離れた場所、王族が先ほどまで上がっていた舞台の階段辺りから何かがこちらに向かって放たれた。

「危ない!!!」

イムディーナは、私の方へと走った。

 < キィィィィイン・・・>

私は、目に入った床に落ちていた兵士の剣をすぐさま拾い、放たれた矢を剣で叩き落した。
折れた二つの矢が床に落ちて、黒いシミのように広がり・・消えた。

ホッとしていたイムディーナは、安心した表情で息を吐いた。

「そうか・・。美月は、フェンシングが強いんだったな。忘れていた・・。」

私は、イムディーナを見て大きく頷いた。

「・・大丈夫か?」

アルベルトが、私の腰を引いて引き寄せた。

「ええ。私、昔からずっと、フェンシングやってるから・・。
剣は幼い頃から習得しているの。
・・・お父様仕込みの腕前なのよ?わたしも騎士団入ろうかな!?」

「女なのに剣が使えるなんてな・・。それに、騎士団に女はいないぞ・・・。
やっぱり変な女だな、お前・・・。」

その言葉を聞いて、安堵したアルベルトは嬉しそうに微笑んだ。

変だと言いながら、妙に嬉しそう・・。

・・・意味わからん!!

「・・・・・・。」

ノアは、眉根を寄せて矢の放たれた方向を睨んでいた。

今の矢・・!?

しかも、ただの矢じゃなかった・・・。

アルベルトと、ノアも驚いた表情で矢の放たれた場所へと視線を向けた。

私も、矢の放たれた先へと鋭い眼を向け、正面に剣を構えた。
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